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2019/09/18

『チャーリー』チャーリーXCX(Album Review)

 チャーリーXCXの新作は、自身の名前を冠した意欲作。パープルの蛇が裸体に巻き付くヌード・アートもインパクト絶大で、これまでの“ガーリー・ポップ”的なイメージを払拭し、新たなステージに挑もうとする姿勢が伺える。アルバムのオープニング・タイトルが「ネクスト・レベル・チャーリー」なのも、そういった意味が込められているのだろう。

 昨年10月にリリースした、トロイ・シヴァンとのデュエット曲「1999」は強烈だった。何せ、タイトルである1999年にタイムスリップして、ブリトニーの「ベイビー・ワン・モア・タイム」を歌いたい、ってヴァースから始まるんだから……。アーティストとしてのしがらみやプレッシャーがのしかかっている彼らが、一番楽しかった時に戻りたい……というコンセプト。若干時期がズレるが、TLCの「ウォーターフォールズ」(1995年)のMVや、タイタニックの“あの”シーンを再現したミュージック・ビデオも面白かった。 サウンドはひと昔前のエレクトロ・ポップだが、より自由奔放にやっている感はある。

 アルバムの最後には、「1999」の続編となる「2099」も収録されている。冥王星や海王星などのワードも登場する遠い未来をイメージしたスペイシーなエレクトロ・ポップで、この曲でもトロイ・シヴァンがいい具合にハモり、その世界観を音や声で再現している。

 2曲目のシングルは、現在「トゥルース・ハーツ」が米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で3週目の1位を記録している、フィーメール・ラッパーのリゾをゲストに招いた「ブレイム・イット・オン・ユア・ラヴ」。トロピカル・ハウスをベースとした、こちらもフロアライクなエレポップで、チャーリーのキュートなボーカルと、リゾのドスの効いたラップが対比のアクセントになっている。リゾが「ミリオン狙ってる」と歌っていたが、まさかたった4か月で実現させてしまうとは(スゴイ)!エイリアン風に装って踊るミュージック・ビデオも、手が込んでて見ごたえあった。

 フランスの女性シンガー・ソングライター=クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズをフィーチャーした「ゴーン」は、不安定な2人の心情、関係性を歌った、80’sテイストのシンセ・ポップ。まるでこの2人が当事者かのように(?)挑発し合うビデオは、出し出しではないのにエロティシズムを掻き立てる。同曲には、チャーリーの作品ではおなじみとなった、スウェーデンの女性シンガーソングライター、ヌーニー・バオがソングライターとして参加している。

 その他のゲスト陣も、バラエティ豊か……というか、チャーリーらしい選出。3曲目の「クロス・ユー・アウト」には、モデル/女優としても活躍するスカイ・フェレイラがフィーチャーされていて、前3曲からトーンダウンしたブーミング・トラップに仕上がっている。前述のヌーニー・バオと、同スウェーデンのリーナス・ヴィークルンドというアーティスト(ゼッド、リタ・オラなど)も制作に加わった。ミディアム・テンポだが、過去のしがらみから脱却する、強い意志をもった曲。

 今風のキュートなポップ・シンガー=キム・ペトラスと、「東欧のカニエ・ウェスト」なんて異名をつけられたラッパーのトミー・キャッシュという、異色のコラボレーションが実現した「クリック」も、なかなか面白い。チャーリーの高速ラップからはじまるこの曲は、ボーカル・パートがほぼ皆無で、3者ともほぼラップで“欲しいもの”を並べていく。終盤のミキサーが破壊されたような演出もユニークで、最後まで目(耳)が離せない。

 そこから繋ぐ「ウォーム」は、米カリフォルニアのインディー・ロック・バンド=ハイムとのコラボレーション。彼女たちに寄せるのかと思いきや、まさかのダンスホールという意外性に驚かされたが、これはこれで良い出来だった。特に、スペイシーなシンセ・サウンドが薄れていくエンディングは最高。なお、この曲のレコーディング時、チャーリーは歯の治療で口の中がマヒしていたとか。

 米ニューオリンズ出身ビッグ・フリーディア、お下劣キャラで世間を沸かせるカップケーキ、奇抜なファッションも人気のブルック・キャンディ、そしてドラッグ・クイーンのパブロ・ヴィタールという凄まじいメンツを揃えた 「シェイク・イット」も負けてない。音階のないアフリカン・ビートに乗せた、 彼女たちが繰り広げる吐息交じりのフロウは、 本作中最もインパクトに富んでいる。むしろ、この曲をシングルにしてプロモーションすべきだった……と思うが、ちょっとキビしいか。

 新作『イミュニティ』が好評の、米マサチューセッツ州出身の女性シンガー・ソングライター=クライロと、韓国系アメリカ人女性シンガーのヤエジとコラボした「フェブラリー 2017」は、ダブ・ステップっぽいリズムが特徴のダンス・トラック。彼女たちの良さがフィーチャーされたとはお世辞にもいえないが、チャーリーらしさは強調されている。その他、浮遊感漂うドリーミー・メロウ「アイ・ドント・ワナ・ノウ」や、ダフト・パンクを意識したフレーズもチラつかせる「シルヴァー・クロス」、エモーショナルに歌い上げる「ソウツ」、アンドリュー・ワット&アリ・タンポジが手掛けた「ホワイト・メルセデス」など、どれも妥協ナシの傑作。

 本作は、米ローリング・ストーン誌の2014年ベスト・アルバムにランクインした大ヒット作『サッカー』に続く、通算3作目のスタジオ・アルバム。

Text: 本家 一成

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