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2019/08/03

『カルト・ブランシュ』DJスネイク(Album Review)

 米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で最高4位、ダンス・チャート2位をマークした「Let Me Love You」含むデビュー作『アンコール』(2016年)から、およそ3年ぶり、2作目のスタジオ・アルバム『カルト・ブランシュ』がようやく完成した。昨年春には「ニューアルバムをもうすぐリリースする」とツイートし、ファンを沸かせていたDJスネイクだが、それからあっという間に1年が経過。“ようやく”というのには、そういった意味も含まれている。

 本作からは、ダンス・チャートで同2位、ラテン・ソング・チャートでNo.1を獲得した先行シングル「Taki Taki」が大ヒットし、アルバムのプロモーションに繋げた。同曲は、エキゾチックな魅力のポップ・シンガー=セレーナ・ゴメスと、フィーメール・ラッパーの頂点に立つカーディ・B、そしてプエルトリコ出身のレゲトン・シンガー、オスナの3人をゲストに迎えたムーンバートン的ダンス・トラック。流行を取り入れつつ、ゲストそれぞれの個性も存分に活かされた傑作で、ヒットしたのも納得のクオリティ。赤の衣装で統一した、火山をバックに歌い、踊るミュージック・ビデオと合わせて聴くと、なお良さが際立つ。同ビデオの再生回数は、アルバムリリースまでに再生回数14億回を突破する大ヒットを記録している。

 この「Taki Taki」はじめ、本作には踊るための“夏らしい”ダンス・トラックが目白押し。スネイク自身も、アルバムのコンセプトについて「夏っぽいアルバムを作りたかった」と公言している。ちなみに、アルバム・アートは自身の出身地でもあるフランスの凱旋門で、タイトルの『カルト・ブランシュ』とは、フランス語で“好きな事をやれる自由”を意味しているのだそう。核となるフランスでの経験はじめ、様々な活動を経て受けたインスピレーション、そして彼の「今やりたいこと」が詰まっている。

 アルバムの発売1か月前には、昨年カーディとのコラボ曲「I Like It」を全米1位に送り込んだコロンビア出身のレゲトン・シンガー=J. バルヴィンと、人気ラッパーのタイガをフィーチャーした「Loco Contigo」を発表。この曲も、レゲトンやダンスホールといったワールド・ミュージックを基とした夏らしいトラックで、ピンクのキャデラックを乗り回し、カラフルなキャラクターとダンスパーティーを繰り広げるミュージック・ビデオも話題を呼んだ。同ビデオも、公開1か月で7,000万試聴を突破するヒットに至っている。

 シングル・カットはされていないが、12曲目に収録された「Fuego」も、同路線の“夏らしい”ラテン・ポップ。この曲には、ブラジル・リオデジャネイロの女性シンガー=アニッタと、プエルトリコ出身のプロデューサー/ソングライターのタイニー、そして言わずと知れたレゲエ界のトップシンガー、ショーン・ポールの3人がゲストとして参加していて、2曲のシングル同様、それぞれのキャラクターが見事に調和されている。

 4月にリリースした「Enzo」は、前3曲とはテイストの違う、トラップとエレクトロニカを融合したようなヒップホップ・チューン。ゲストには、ミーゴスのオフセットと21サヴェージ、グッチ・メインという売れっ子ラッパーたちが招集された。この曲は、今年「Mo Bamba」で大ブレイクした米NY出身の若手ラッパー=シェック・ウェスとの同名義のシングルとしてリリースされている。「Enzo」以外にも 、ブライソン・ティラーをフィーチャーしたミッド・チューン「Smile」や、アルバムの最後を締めくくるガシとのコラボ曲「Paris」など、トーンを下げたミディアムも所々に配置されている。

 とはいえ、大半を占めるのが前述にある「踊るための“夏らしい”ダンス・トラック」。シンセ・サウンドで統一されたインストのオープニング「Butterfly Effect」から、英国を代表するダブステップ系DJ・ゾンボーイとのコラボ曲「Quiet Storm」、不気味なエフェクト・コーラスからはじまるエレクトロ・ポップ「When The Lights Go Down」と、冒頭からフロアを盛り上げるためのトラックが続く。いかにもヨーロッパ受けしそうなハウス・トラック「No More」(ズーとのコラボ曲)や、同フランス出身のチャミ、マラ、マーサーとコラボした「Made In France」など、巨大フロアが目に浮かんでくるような、高テンションの曲が続く。アフロビートとEDMを組み合わせたような「Magenta Riddim」や、エグられるようなフックが癖になる「Frequency 75」、ベルギーのDJ・エプティックとのコラボ曲「SouthSide」も、DJらしい業。

 ドレイクのレーベル<OVO Sound>所属のカナダのR&Bデュオ=マジッド・ジョーダンがゲスト参加した「Recognize」は、彼らのお得意とする酩酊系のサウンドとは対照的な、ダンスホール調のダンス・トラックに仕上がった。フュージョンっぽい要素もあり、本作の中でも(個人的には)1、2を争う美しいメロディ・ラインがリスナーを惹き込む。夏の夕暮れ時に聴きたい哀愁系エレクトロ「Try Me」や、ナイジェリアのレゲエ・シンガー=バーナ・ボーイが参加した「No Option」も、ダンスホールやレゲトンとはまた違う、古き良き時代のルーツロックレゲエをベースとしたいい曲だ。

 DJスネイクは、来る9月に開催される【ULTRA JAPAN 2019】に出演するため、来日することが決定している。同フェスでは、本作『カルト・ブランシュ』 からのナンバーを中心にパフォーマンスするだろう。前作『アンコール』は、本国フランスで4位、全米では最高8位をマークしたが、いずれも1位獲得は果たしていない。本作で、チャートでの記録更新にも期待したいところ。


Text: 本家 一成

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