2019/05/06
今年のラ・フォル・ジュルネ一押しアーティストと言われ、本場ナントで行われた公演は客席を熱狂の渦に巻き込んだと噂の合唱アンサンブル・ミクロコスモスと、和太鼓で世界の聴衆を魅了してきた林英哲と英哲風雲の会がコラボレーションした舞台【Jumala ユマラ】が、5月4日に1公演のみ行われた。
フランス・トゥールを拠点に活動する合唱アンサンブル、ミクロコスモスは、創始者&指揮者のロイック・ピエールが台本・演出を手掛けている。その詩的で幻想的な舞台と響きには、古からの時の経過を感じさせる力があり、クラシックの枠を飛び越えた独創的な世界観を持つ。
このミクロコスモスは2018年、世界的太鼓ソリストの林英哲と、音楽祭【ムジークフェストなら】にて共演。北欧神話の神と大地・自然をテーマに、ミクロコスモスの歌や身振り、和太鼓の響きが共鳴する神秘の世界を表現した舞台【Jumalaユマラ】を作り上げた。今年の2月にナントのラ・フォル・ジュルネでも再演された本作が、このLFJ TOKYOで遂に披露される期待もあってか、朝早くからの公演にもかかわらず、広い観客席は満席となっていた。
暗闇を切り裂く、重く鋭い太鼓の一打が空間に響き渡り、おごそかに舞台が始まり、英哲風雲の会と林英哲の一糸乱れぬバチさばきが、まるで地鳴りのような強烈さで振動が客席を揺れ動かした。そのうちミクロコスモスのメンバーも太鼓に加わり、火のような激しさが舞台を覆い、観客は冒頭から高揚感で満たされた。
合唱というよりも、ただ、うまれたそのままの“うた”を紡ぎだしながら、舞台いっぱいを動き回るミクロコスモスに、響きと共に目を奪われる。北欧神話に登場する、楢と関係の深い神ユマラを舞台中央の太鼓を楢の木に見立て、その周りを巡るアンサンブルは惑星を表現しているという。アカペラで淡々と、時に激しく、時に同国のように歌われる声と太鼓がこだまして、そして消えてゆく。大樹を中心としたその宇宙観に、会場は飲み込まれていくようだった。
静かに歌われるメロディーに合わせて、二組の男女がマイムを行うなど、音楽祭においてまるで演劇を見に来ているような、境界線上をたゆたう演出が、見る人を異世界に連れて行く。終幕直前には「ひなげしの花びらのように……」と日本語の“うた”も登場。その優しさと静けさに息を飲む客席の空気が印象的であった。
ミクロコスモスと林英哲&英哲風雲の会は、共演はこの【Jumala ユマラ】のみとなったが、初日と最終日にはそれぞれの公演も行っている。本国ナントの公演も出演とラ・フォル・ジュルネに愛されたアーティストと言っていいだろう。神秘的な世界観に来年も是非浸れるよう、またこの2者の共演を待ちたい。text:yokano
◎公演情報
【Jumala ユマラ】
2019年5月4日 (土・祝) 9:30~10:15
東京国際フォーラム ホールB7:アレクサンドラ・ダヴィッド・ネール
<演奏曲目>
林英哲「宴」
G.プリウール「呪文」
V.トルミス「Kaksipuhendus」*uは本来ウムラウトがつく
M.モンク「教会の中庭での楽しみ」
B.セルナ「Rain III」
B.レニエ「活気あるワルツ」
B.セルナ「堕天使」
松下功「ひなげしの」
林英哲「宴 II」
J.リンコラ「アイノ」
O.マートル「ハレルヤ」
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