2019/05/03
すべての楽器が同じ“質感”の中に
クリスチャン・スコットの2017年の『The Centennial Trilogy』には「新しいことをやっている」という感覚があった。ジャズの起源を探りつつ、それを現代の音楽として鳴らすために、打ち込みとジャズ、さらにはアフリカやラテンなどの要素が融合しているサウンドを模索し、トラップのビートとラテンのクラーヴェとの共通点を見出し、そこにアフリカの太鼓を組み合わせたりしていたのも新鮮だった。
ただ、最新作『Ancestral Recall』は「新しさ」とは違う何かがある。いや、音楽としては明らかに新しく、圧倒的に斬新なのだが、そこにはむしろ「普遍性」に近い感覚があるのだ。それは今まで聴いたことがない音なのに、ずっと昔から存在していたような表情をしている。もはや時代性みたいなものを超越している。前作のコンセプトを先に進めたものでありながら、前作とは音楽の質が全く違うものになっていると言ってもいいだろう。
その要因は人力でも打ち込みでも、すべての楽器の音が同じ“ 質感” の中で鳴っているからだろう。全ての楽器が自然に鳴って共存している。にもかかわらず、それぞれの楽器の特性が楽曲の強みにもなっていて主張もしてくる。それはクリスチャン・スコットのトランペットも同じだ。クリスチャンはこれまでにも、ベルの角度が通常と違う特注トランペットを使うなど、その音色にこだわりを持っていて、特注楽器でしか出せないくぐもった音色やつぶれた音色などを、エフェクターを通して奏でることで、彼が表現したい情感を描こうとしていた。
ただ、そのトランペットを現代的な打ち込みや土着的なサウンドに馴染ませるための試行錯誤を繰り返してもいて、その答えに窮しているように思えていた。それが本作ではひとつの回答を示してしまったように思える。
時代も地域も乗り越えた「ジャズ」
霧が立ち込めるようなスモーキーな音像の中で、全ての音を滑らかに混じり合わせていて、ある意味では個が後退し、全てが音響になっているようにも聴こえる。ただ、よく聴けば、それぞれの音にそれぞれのシャープさとぼかし具合があり、実は緻密な色合いの違いのコントラストによって立体的に響いている。さらに、それぞれの楽器が1曲の中でも前景化したり後景化したりと、徹底的に「デザイン」されていることがわかる。その中ではプリミティブな民族音楽のように、ポリフォニックなサウンドで、ホリゾンタル(水平)な世界が広がっている。
ぼやけているのに解像度が高く、疑似フィールドレコーディングのようであり、一方でこの世の音ではないような非現実感と演奏の生々しさが同居した、究極のスタジオ・レコーディングでもある。ある意味、サイケデリックではあり、自己の内部に入り込むような自己との対話のような響きでもある。本質的な意味でスピリチュアルであり、ニューエイジ的な作品でもある。
と書いていて、時代性も地域性も乗り越えてしまった音楽だと思いつつも、やはりこれは2019年のアメリカだからこそ生まれた「ジャズ」としても聴こえている。本作は録音も含め、ジャズ界の常識に一石を投じる問題作になるかもしれない。
Text: 柳樂光隆
Photo: Masanori Naruse
◎公演情報
【クリスチャン・スコット】
ビルボードライブ大阪
2019年6月11日(火)
1stステージ 開場17:30 開演18:30
2ndステージ 開場20:30 開演21:30
ビルボードライブ東京
2019年6月13日(木)
1stステージ 開場17:30 開演18:30
2ndステージ 開場20:30 開演21:30
URL:http://www.billboard-live.com/
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