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2019/03/14

『サッカー・パンチ』シグリッド(Album Review)

 シグリッドは、ノルウェーのベルゲンという海沿いの街で育った、1996年生まれの22歳。アデルやジョニ・ミッチェルといった才能溢れる女性シンガーソングライターたちに影響を受け、学生の頃から曲作りを始めたそうだ。そのうちの一曲を番組に投稿したことがキッカケで、レコード会社との契約にこぎつけ、ソロ・シンガーとして本格的なデビューを目指す。デビュー前には、姉のヨハンネと結成したバンド活動もしていたとか。

 2017年5月にリリースしたデビューEP盤『ドント・キル・マイ・ヴァイブ』は、100位内にランクインしたことのない作品で集計される、米トップ・ヒートシーカーズ・チャートで19位まで上昇し、アメリカやヨーロッパ諸国でも注目を集めた。本作からのシングル「ドント・キル・マイ・ヴァイブ」は、曲作りが行き詰った経過に作られたそうで、それが高じてか(?)、UKチャート62位、本国ノルウェーでは28位をマークするスマッシュ・ヒットを記録。鮮やかなキャリアのスタートを切った。

 この勢いに乗せて同年11月に発表した3rdシングル「ストレンジャーズ」は、UKチャート10位、ノルウェーでは6位の大ヒットとなり、スコットランドとコロンビアでは自身初のNo.1獲得。才気が一気に高まりをみせ、シグリッドというシンガーを各国に知らしめるキッカケとなった。ケイティ・ペリーを彷彿させるキャッチ―なサビに乗せたシンセ・ポップは、たしかにヨーロッパ受けしそうではある。

 昨年10月に発売されたアルバム・タイトルの「サッカー・パンチ」も自国でTOP20入りを果たし、本作へのパイプ役を果たす。この曲は、リタ・オラやザ・チェインスモーカーズなど数多くの人気アーティストを手掛ける、米ニューヨークの女性ソングライター=エミリー・ウォーレンとの共作で、サウンド自体は“ありがちな”といえなくもないが、パワフルな地声と、宙を不安定に舞うファルセットとの対比で彩るボーカルワークが、曲の良さを主張し、リスナーを惹き込む。これこそ、シグリッドの個性であり、魅力といえる。

 エミリー・ウォーレンは、 エイティーズ・ポップ風味の「マイン・ライト・ナウ」、物語を読み上げるような優しい口調で歌う「レベル・アップ」、アルバムリリースの直前にリリースした先行シングル「ドント・フィール・ライク・クライング」の計4曲に参加。「ドント~」には、テイラー・スウィフトやカーリー・レイ・ジェプセンなどのヒットに携わったオスカー・ホルターも、ソングライターとしてクレジットされている。フロア映えするダンス・トラックは高品質だし、途中披露するラップもクオリティが高い。

 彼らの他には、オーディション番組『Xファクター』のファイナリストに楽曲提供するなど、地味ではあるが活躍の幅を広げているジョニー・ラティマーや、ブリトニー・スピアーズの『グローリー』(2016年)や、トーヴ・ローの『レディー・ウッド』(2016年)で知名度を高めたジョー・ジャニアックがソングライターとして参加している。そのジョー・ジャニアックが参加した「イン・ヴェイン」は、アコースティック調の哀愁漂うミディアム。シグリッドの絶妙なカスれ声が相まって、イイ味を出している。この曲と、ラストに収録されたピアノ・バラード「ダイナマイト」では、彼女が敬愛するジョニ・ミッチェルっぽさも垣間見えた。

 影響を受けたアーティストにはコールドプレイの名前も挙げられていたが、彼ら直結のバロック・ポップ「サイト・オブ・ユー」もなかなかの傑作。その他、チャーリーXCXの後釜的要素を感じるドリーミー・ポップ「ビジネス・ダイナース」~キュートなエレクトロ・ポップ「ネバ―・マイン」など、粒揃い。若さ故、ヘンに強烈な個性を出そうとするアーティストも多いが、自身のインスピレーションとなったポップ・ソングを素直に表現したことが、好感をもてる。デンマークのシンガー=ムー(MØ)やアデルっぽい……とも言われているが、個人的にはやはりケイティ二世、といったところかな。

Text:本家一成

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