2019/02/19
全米だけで700万枚、1,500万枚のワールド・セールスを記録したデビュー・アルバム『レット・ゴー』(2002年)から約17年、自身の名前を冠した前作『アヴリル・ラヴィーン』(2013年)から5年半ぶりのリリースとなる、アヴリル・ラヴィーン6枚目のスタジオ・アルバム『ヘッド・アバーヴ・ウォーター』。その間には、チャド・クルーガー(ニッケルバック)との離婚があったり、ライム病を患い闘病したりと、私生活では散々だったアヴリルだが、それらの経験があったからこそ、本作が完成したという。
その核となるのが、1曲目に収録されたタイトル曲「ヘッド・アバーヴ・ウォーター」。闘病中にペンをとったというこの曲は、マイリー・サイラスの「レッキング・ボール」(2013年)や、ザ・ウィークエンドの「アーンド・イット」(2015年)などのヒットを手掛けるステファン・マッシオと、米フロリダ州のポップ・バンド=ウィー・ザ・キングスのトラヴィス・クラークをソングライターに迎えた、ミディアムテンポのロック・ポップ。「生きるために戦っている」、「眠るには早すぎる」、「神様、沈めないで」など、生々しく綴られた当時の心境を、エモーショナルに歌い上げる。この曲とアルバムのラストを飾る美しいバラード「ウォリアー」のプロデューサーは、元夫のチャド・クルーガー。ということは、両者の関係は良好か…?
そのチャドなのか、前前夫のデリック・ウィブリー(SUM41)なのか、はたまた別の誰彼か。次曲「バーディー」では、自分自身を“籠に閉じ込められた小鳥”に例え、誰かの束縛から解放された様を歌っている。この曲のプロデュースを担当しているのは、リアーナの「SOS」(2006年)や、ショーン・キングストンの「ビューティフル・ガールズ」(2006年)を全米1位に送り込んだ、米カリフォルニアの音楽プロデューサー=J.R.ロテム。彼もアヴリルとの交際が囁かれていたうちの1人だが、この曲にだけ参加しているというのは、誰かへの当てつけだろうか……(それとも本人のこと?)。
意味深なのは、3曲目の「アイ・フェル・イン・ラヴ・ウィズ・ザ・デヴィル」もそう。“悪魔との恋に落ちた”という、深みから抜けられない恋の相手とは、いったい誰のことなのだろう。ピアノのイントロ、感情を抑えるように歌うヴァース、解き放つようなフックと、曲の構成はポップ・ソングのお手本ともいうべく完成度で、彼女がお気に入りと公言するのも納得。米テキサス州のイケメン・シンガーソングライター=ライアン・カブレラが参加した、本作からの2ndシングル「テル・ミー・イッツ・オーヴァー」は、6/8拍子のブルージーなオールディーズ・ロック。ロックではあるが、ソウル・ミュージック的要素もあり、過去の作品では決して聴くことはできなかった拳をきかせた歌いまわしも新鮮。
アルバムの発売直前にリリースした3rdシングル「ダム・ブロンド」では、『レット・ゴー』からのファンを公言するニッキー・ミナージュが、ラップ・パートを担当している。「スケーター・ボーイ」(2002年)や「ガールフレンド」(2005年)などの代表曲にも通ずる、ハイテンションなナンバーで、ラップを絡めて「バカなブロンドじゃないからね」と、過去の男たちにディスり返しをお見舞いしている。これも、実体験が基になった曲だそうで、奇抜なファッションと個性的なサウンドで人気を博している女性シンガーソングライター=ボニー・マッキーも、アブリルの仕返し(?)に貢献した。
次曲の「イット・ワズ・イン・ミー」は、“幸せ”について独自の見解を示したメッセージ・ソング。ファンの間でも人気の高い「アイム・ウィズ・ユー」(2002年)路線のミディアムで、同曲をプロデュースしたローレン・クリスティが制作・プロデュースを担当している。サウンド、ボーカル共に、解釈の難しいテーマに説得力を与えた。次曲「スーヴェニア」もローレンとの共作で、 ひと夏の恋模様を歌った甘酸っぱい歌詞の世界観が “少女性”を蘇らせる。
「テル・ミー・イッツ・オーヴァー」のような、どこか懐かしいニュアンスを含む「クラッシュ」、アリアナ・グランデ、マルーン5、デミ・ロヴァート等の人気シンガーを手掛けるロス・ゴラン作のアコースティック・メロウ「ゴッデス」、そして、「愛に傷ついても愛のない人生よりはいい」と歌うミディアム・ソング「ラヴ・ミー・インセイン」の3曲は、様々な経験を経て迎えた、35歳目前の今だからこそ表現できる“説得力”や“包容力”にようなものを感じさせる。あのアヴリル・ラヴィーンから、こんな歌が届けられる日が来るとは……。
逆に、彼女の代名詞である“ポップ・パンク”を期待していた方にとっては、ちょっと物足りないアルバム、かもしれない。しかし、いつまでもブッ弾けた女の子でいられるはずもなく、そういった意味では、離婚や失恋、闘病生活は、彼女にとって必然だったのかもしれない。何はともあれ、シンガーとして完全復帰を果たしたことを、本作『ヘッド・アバーヴ・ウォーター』で証明できてよかった。
Text:本家一成
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