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2019/01/28

『インナー・モノローグ・パート・ワン』ジュリア・マイケルズ(EP Review)

 ~“らしい”という表現は、個々の感じ方次第ではあるが、本作『インナー・モノローグ・パート・ワン』は、ジュリア・マイケルズのキャリアを振り返ると、“らしくない”作品といえなくもない。というのも、ブレイクのキッカケを掴んだジャスティン・ビーバーの「ソーリー」(2015年)や、自身のデビュー曲「イシューズ」(2017年)等からイメージする、ダンス・ポップやR&Bといった内容が中心のアルバムではないからだ。

 その代表格となるのが、冒頭を飾る話題の新曲「アングザイエティ」。アコースティック・ギター1本のイントロ、肩の力を完全に抜いた気だるいボーカル、デジタル音を一切取り入れていないバック・サウンド。リラックスした空気感で包み込む、いわゆるオーガニック・ミュージックのようなナンバーで、ロージー・ブラウンのような切なさ・物悲しさ的ニュアンスも感じられる。

 タイトルの「アングザイエティ」は“不安”を意味するもので、「鬱」であることを堂々掲げ、不安と戦いながらも社交的になろうと努力する、ネガティブな主人公の中にある、かすかなポジティブ思考が伺える作品。その主人公とされるのが、彼女の親友(ソウルメイト)でデュエット・パートナーであるセレーナ・ゴメス。セレーナがメンタル・ヘルス治療のため精神療養施設に入所し、活動休止中だったことは有名な話だが、この曲では彼女の“その”心情が生々しく描かれている。「元彼が扱いづらいって言っていた」とか、リアリティがあるし……(ウィークエンドのこと?)。

 次曲「イントゥー・ユー」は、スピード感あるアップテンポのポップ・ソング。この曲と、3曲目の「ハッピー」は、比較的過去の作風に近く、ジュリア“っぽさ”を感じられるナンバーではある。不本意な現状から脱出する術について歌われている「イントゥー・ユー」のプロデュースは、いずれもヒップホップ・シーンで活躍するフランク・デュークスとルイス・ベルの2人が担当。「ハッピー」で共同プロデュースを務めたのは、ジュリアと前述の「ソーリー」やセレーナの「ハンズ・トゥ・マイセルフ」(2015年)等、数多くのヒット曲でタッグを組んでいるジャスティン・トランター。ミッドテンポのリズムを刻みながら、アーティストならではの心情を露わにする。

 デュア・リパやフィフス・ハーモニー、セレーナの「バッド・ライアー」(2017年)などを手掛けた、イアン・カークパトリックによる「ディープ」も好曲。引き裂かれた心を恨み節(?)で綴った歌詞、それを開放するかのように歌う、宙に舞うファルセット。このアンバランスな対比に、シンガーソングライターとしての力量発揮を感じさせられる。続くメランコリックな「アップル」も、イアン・カークパトリックと共作したナンバー。「アングザイエティ」のようなオーガニック感溢れる“癒し系”サウンドで、歌詞についても本作の中では比較的ソフトな、柔らかいラブ・ソングに仕上がっている。

 アルバムのラストは、ワン・ダイレクションのナイル・ホーランとデュエットした「ホワット・ア・タイム」。ナイルのツアーにもサポート・アクトとして参加したジュリアだが、昨年春頃から噂されていた両者のコラボが本作で遂に実現。「ディス・タウン」や「スロー・ハンズ」にも通ずるアコースティカルなメロウ・チューンで、曲終盤のゴスペル風コーラスがメッセージ性をより高める。

 本作については、「内情、愛・失恋・不安・憂鬱についての作品」と話しているジュリア。リード曲である「アングザイエティ」をはじめ、歌詞の意味を追求するとそういった内容であることがよくわかる。セレーナについて代弁しているだけでなく、 ジュリア・マイケルズ の“今”がどうなのか。そういった意味合いも汲み取って聞くと、また印象がかわってくるアルバムである。


Text: 本家 一成

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