2018/12/21
『ヘルタースケルター』や『リバーズ・エッジ』など、80 年代~90 年代にかけて時代を代表する多くの人気作を手掛け、今なお熱狂的な支持を受ける漫画家・岡崎京子が1994年に発表した作品が原作の映画『チワワちゃん』で劇中歌に使用されている「Television Romance」を歌うPale Wavesのヘザー・バロン・グレイシーと、弱冠27歳の新鋭・二宮健監督による対談が実現した。(取材・文 宇野維正)
――『チワワちゃん』では、ペール・ウェーヴスの「Television Romance」がとても印象的なシーンで使用されています。まずは、どういった経緯で今回のコラボレーションが実現したのかについて教えてください。
二宮健:映画と同じくらい音楽が好きで。時間さえあれば新しい音楽を探しているんですね。そこで見つけたのがこの「Television Romance」だったんですね。2017年の8月頃、この作品の準備をしているところで、ちょうど作中でチワワちゃんが踊るシーンにどんな音楽を流そうか考えていたタイミングで。「Television Romance」を初めて聴いた瞬間に「あ、これだ!」って思ったんですよ。曲を聴いてるだけでカット割りのイメージも生まれて、歌詞もチワワちゃんが抱えている思いにシンクロしているように思ったんです。そこからペール・ウェーヴスのミュージックビデオをいろいろ見て、本当にチャーミングで個性的なバンドだってことを知って。実現できるかまったくわからなかったけれど、これは正式にオファーをしなくてはと思って。
ヘザー・バロン・グレイシー:本当に素敵なシーンになってて嬉しかった。女の子がタバコを手にして踊ってるあのダンスもとてもクールで、自分たちのステージでもあのダンスを取り入れられないかって考えたくらい(笑)
――『チワワちゃん』の原作が刊行されたのは1996年で、今作はそれを現代に舞台を置き換えて新しいスタイルで映画化した作品です。そこには、80年代、90年代の音楽やカルチャーを自分たちのスタイルで現代にリバイバルさせているペール・ウェーヴスの姿勢とも共通する部分があるんじゃないですか?
ヘザー:確かに、とても近いことをやっていると思う。私たちは80年代や90年代の音楽が大好きで、それと同じように現代のポップ・ミュージックも大好きで、その両方をミックスさせたいの。
二宮:僕は1991年生まれで、正直、原作の岡崎京子さんが書かれたこの時代のことを自分の実感のレベルでは知らないんです。でも、『チワワちゃん』のストーリーは日本の90年代特有のものかというと、そうとは思わなくて。自分がこれまで生きてきた中で感じてきたこととも、すごくシンクロする部分があったんですね。自分が岡崎京子さんの原作を映画化するなら、それを現代に置き換えてやることに意義があると思ったし、そこにやり甲斐を覚えたんです。
ヘザー:原作のコミックは日本語だから読めないんだけど、この原作を選んだ理由は?
二宮:初めて原作を読んだのは22歳の時で、岡崎京子のコミックを読んだのもそれが初めてだったんです。この原作に出会ったのは偶然だったんですけど、当時、何を目的にして生きていけばわからなくなっていた時に、自分が表現したかったこと、感じていたことがこのコミックに詰まっていると感じて。だから、とにかくこのコミックを映画化することを目的に生きていこうと思ったんです。もし20代のうちにそれができれば、その先にまた生きる目的を見つけることができるかなって。
ヘザー:すごい。それを実現させたわけね。撮影にはどのくらいかかったの?
二宮:今の日本映画の環境だと、撮影期間をとても短くしなきゃいけないんですよ。だから、準備には2~3年かけてきましたけど、撮影自体は3~4週間くらいですね。
ヘザー:本当に? それは驚きね(笑)
二宮:ノスタルジーと現代性が共存しているペール・ウェーヴスの音楽には、昔の映画が大好きで、それでも新しい映画を作りたいと思ってきた自分も勝手に強く共感してきたので、こうして作品に快く曲を提供してもらったことが本当に嬉しくて。
ヘザー:私も、作品とマッチしていて本当に良かったと思ってる。自分の場合、特に80年代の音楽の影響は、主に両親からだった。私は今23歳なんだけど、両親が聴いていたザ・キュアーやマドンナの音楽の中で育ちながら、一方ではテクノロジーに溢れた現代の社会で生きてきた。その二つが自分の大きなインスピレーションになってる。
二宮:ちなみに作中の「Television Romance」のダンスの振り付けをしてくれたBambiさんは、以前、AyaBambiでマドンナのワールドツアーにも参加しているダンサーなんですよ。
ヘザー:本当に!? それは最高にクールね!
――ペール・ウェーヴスは今、世界的な注目を集めてますし、今後、本国のイギリスだけでなく、ハリウッド作品を含むいろんな国の映画やドラマから音楽のオファーが届くと思います。そういう意味でも、今回の『チワワちゃん』のオファーはとても早かったし、すごい目利き力だったなって。
二宮:自分としてはダメ元でプロデューサーに話をして、それを実現してもらっただけなんで、特にそこでは苦労していないんですけど(苦笑)
――でも、そこで名前を挙げることができるかできないかの違いは、現代のポップカルチャーを生きている映画監督の資質として、とても大きな違いだと思いますよ。
ヘザー:こうして遠い国で作られた映画に自分たちの曲が使われるのは、なんだか不思議な気持ちがするけれど、とても貴重な経験だった。それと、実は私、チワワを二匹飼ってるの(笑)
二宮:そんな不思議な縁もあったんですね(笑)
ヘザー:私たちにとっても、曲を提供した映像作品のリストのトップに日本映画があることは、とても素敵なことだと思う。
二宮:今回初めて日本に来てみて、どんなことが印象深かったですか?
ヘザー:日本のオーディエンスは曲の間だけ歓声をあげて、演奏中は静かだって噂をいろんな人から聞いてたんだけど、実際にライブをやってみて、「本当にそうなんだ!」って思った。でも、その静寂はアーティストに対するリスペクトだってこともよくわかった。あと、日本のファンはギフトをくれる。他の国ではそんなことほとんどないから嬉しい驚きだった。
二宮:そういえば、作品でチワワちゃんを演じた吉田志織も先日のサマーソニックでペール・ウェーヴスのライブを見て、とても感動したと言ってました。特に「Television Romance」は彼女にとって「私の曲」って思い入れがあるみたいで(笑)
ヘザー:彼女に会いたかった! 何よりも、あの役を演じてダンスを踊ってくれた彼女があの曲をそんなに気に入ってくれていることが一番嬉しい。
二宮:完全に一人のファンとしての質問になってしまうんですけど(笑)、ペール・ウェーヴスは今後、どのような未来に向かっていこうとしているんですか?
ヘザー:ファーストアルバムをリリースした後、音楽性も、活動の方法も、今よりもさらに広げていきたいと思ってる。80年代の音楽からの影響も自分たちにとって重要なものだけど、よりモダンなサウンドになっていく可能性もある。
二宮:新曲ができて、もし日本でミュージックビデオを撮りたいと思ったら、是非声をかけてくださいね(笑)
ヘザー:オッケー(笑)
二宮:というか、日本じゃなくても、どこでも行きます! あなたの地元のマンチェスターでも!
ヘザー:(笑)。真面目な話、日本でペール・ウェーヴスのミュージックビデオを撮るというのはとてもいいアイデアだと思う。日本の風景はとても美しいし、きっとクールなビデオができるはず。機会があったら、よろしくね!
Photo:山川 哲矢
◎公開情報
『チワワちゃん』
2019年1月18日(金) 全国ロードショー
配給:KADOKAWA
(C)2019『チワワちゃん』製作委員会
R15+
◎Pale Waves プロフィール
UK新世代バンドのニュー・アイコンとして熱い視線を集めているヘザー・バロン・グレイシー率いる英インディーロック・バンド。2017年2月にThe 1975のマシュー・ヒーリーとジョージ・ダニエルがプロデュースしたデビュー・シングル「There's A Honey」を発表。同年8月、セカンド・シングル「Television Romance」を発表し、Spotifyの<最優秀インディー・リスト2017>に選出。新人としては異例の早さでNMEの表紙に抜擢。BBC発表の、その年活躍が期待される新人のリスト<Sound of 2018>など多くの音楽媒体でノミネートされ、2018年2月にはNMEアワードにて最優秀新人賞を獲得。5月にはデビューEP『オール・ザ・シングス・アイ・ネヴァー・セッドEP』を配信とレコードのみでリリース。8月にサマーソニックで初来日。9月に待望のデビュー・アルバム『マイ・マインド・メイクス・ノイジーズ』をリリースした。
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