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2018/11/05

『FM!』ヴィンス・ステープルズ(Album Review)

 ヴィンス・ステープルズは、1993年生まれ、米カリフォルニア・ロングビーチ出身のラッパー。2011年に初のミックステープ『Shyne Coldchain Vol.1』をリリースし、翌2012年にはマイケル・ウゾウルと組んだ『Winter In Prague』を発表。2013年に<デフ・ジャム・レコーディングス>と契約し、同年、今年9月に死去した故マック・ミラーがプロデュースした3作目のミックステープ『Stolen Youth』で注目を集める。

 2014年にはノーI.D.がプロデュースした『Shyne Coldchain Vol.2』をリリースし、2015年にリリースした初のスタジオ・アルバム『Summertime '06』で、R&B/ヒップホップ・チャート3位、ラップ・チャート2位と初のランクインにして上位入賞を果たす。2016年のEP盤『Prima Donna』もR&B/ヒップホップ・チャート6位、ラップ・チャート5位と2作連続のTOP10入りを果たし、知名度・人気も年々高まりつつある。

 本作『FM!』は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”最高位となる16位を記録した2ndアルバム『Big Fish Theory』(2017年)に続く、1年半振り、3作目となるスタジオ・アルバム。トータル・プロデュースは、メジャー・レイザーやザ・チェインスモーカーズなどのリミックスを手掛けるラウドパックが担当。

 1曲目の「Feels Like Summer」には、ヴィンスとラウドパックに加え、同カリフォルニアを代表するラッパー、タイ・ダラー・サインがソングライターとボーカル・ゲストとして参加。重すぎず、軽すぎず、絶妙なテンションを引き継いだまま、2曲目の「Outside!」がはじまる。歯切れの良いフロウに、跳ねる系のトラック。ゆっくり聴き込む感じではないが、若手ラッパー“ならでは”の勢いをひしひしと感じる。トラップに近い「Relay」も、若者ウケしそうな勢いのある曲。

 少しテンションを抑えた3曲目の「Don't Get Chipped」には、今年『ブラックパンサー:ザ・アルバム』収録の「King's Dead」(最高21位)をケンドリック・ラマー等とヒットさせたジェイ・ロックと、シックスナインの「FEFE」(最高4位)をプロデュースしたキュービーツが、ソングライターとしてクレジットされている。若干地味ではあるが、聴くほど味のでるスルメ・タイプの好曲。アール・スウェットシャツによるインタールード「New EarlSweatshirt」~次曲「Run the Bands」で、アルバムの雰囲気がガラっとかわり、7曲目の「Fun!」と、米オークランド出身の若手フィメールラッパー=カマイヤーが参加した「No Bleedin」では、ファレル(あたり)を彷彿させる2000年代初期のサウンドを蘇らせる。

 ミーゴスのオフセットとコラボした「Taste」(最高8位)が大ヒット中のタイガによるインタールード「Brand New Tyga」~不気味な会話が繰り広げられる「(562) 453-9382」、ラストは、昨年リリースしたデビュー・アルバム『SweetSexySavage』が、全米3位、R&Bチャートでは初のNo.1獲得となった女性R&Bシンガー=ケラーニのボーカルをフィーチャーしたミディアム「Tweakin」で終了。スタジオ・アルバムとして扱われているが、1曲平均が2分弱と短く、アルバムは22分程度で聴き終えてしまう。ちょっと物足りない気もするが、1曲1曲のインパクトは、その分強い。

 次は「コイツだ!」とブレイクに期待がかかるヴィンス・ステープルズだが、本作を聴くかぎり、ヒットを狙うというよりも、ファンの期待に応えるタイプの“アーティスト気質”を感じさせる、質の良いラッパーだなという印象を受ける。このスタイルを、ぜひ維持していただきたい。


Text:本家一成

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