2018/10/10
新国立劇場が、大野和士芸術監督就任開幕シーズンとなる『魔笛』を開幕、美術家ウィリアム・ケントリッジのドローイングから生まれた“魔法がかけられたような”舞台を見ようと、多くの人が足を運んでいる。
新制作で新国立劇場がおくるモーツァルトの名作『魔笛』今回のプロダクションは、演出を現代アートの巨匠でオペラ演出でも活躍するウィリアム・ケントリッジが手がけたもの。ケントリッジを一躍有名にした手法である、ドローイングによるアニメーションは、この『魔笛』演出でもメインとなる技法だ。
“アニメーションとオペラの融合”という言葉だけをきくと、オペラの背景部分などにテレビで見るようなセルアニメのようなものが出現するのだろうか・・・と想像してまうかもしれないが、ケントリッジによる“手書き”によるドローイング・アニメーションは、白と黒が織りなす、モノクロで極めてシンプルでいて、だからこそ無限の広がりを感じさせるもの。
序曲が始まると、幕の全面をキャンバスに、音楽に合わせて様々な絵が描かれていくのにまず目を奪われ、その世界観に吸い込まれてしまう。黄金比率を思わせる曲線をぐるぐると描かれるのを目で追う。三角形をはじめとした幾何学模様が描かれては消され、フリーメイソンを思わせるシンボリックな“目”が舞台に出現し、またたく。鳥は鳥かごに入れられ、そして飛び立って逃げる。白と黒しかないのに、そしてアニメーションは“リアル”と違って二次元なのに、なぜこんなに、“本当”よりも本当らしく、魅力的で、目を離せないのだろうと思う程だ。
ドローイングの手法に加え、ケントリッジは“写真”や“カメラ”をの手法を、象徴的にも実際的にも舞台の仕掛けに利用している。白と黒は、そのまま光と影の表現になるだけでなく、太陽と闇夜を象徴する。舞台を闇が覆うとき、それは、この舞台では「単なる暗転」ではない。ケントリッジが舞台に描いた「黒」なのだ。
『魔笛』を見慣れたファンにとっては、冒頭の大蛇をどう表現するのか、火の試練、水の試練をどう表現するのか、そこがひとつの演出上の気になるところであると思うが、これも上記の手法を用いて、白と黒、光と影だけを用いて、まるで魔法のようなリアリティで、舞台に“それ”が出現してしまった。夜の女王のアリアをはじめとした“聴き所”のアリアは、歌い手を中心にこのケントリッジのアニメーションが空間に投影され、まるで宇宙に浮かんでいるかのような迫力だ。
オーケストラと、歌い手、演技。リアルタイムに変化しているものに、どうやってこれだけタイミングを合わせているのだろうと不思議に思うほど、音楽にぴったりと寄り添って形を変えていくのが、ケントリッジの“魔法”。“アニメーション”という言葉ではとてもくくれない、まさにリアルタイムでの音楽と映像の幸せなマリアージュが全編にわたって繰り広げられる。舞台の上から下まで全面が、ケントリッジにとってはキャンバスとして使える“空間”。その多様な仕掛けは到底1回見ただけでは味わい尽くせないと感じる膨大な情報量だ。
新国立劇場の『魔笛』公演は10月14日まで、全6公演。素描とアニメーションを用いた美しく神秘的な舞台を日本で是非上演したいと、監督就任以前から願っていた大野和士の、念願が叶ってのもの。動画ではなかなか実感できない“体験”になるこの『魔笛』。オペラファンはもちろん、普段美術館や映画館に足を運ぶことが多いアートファンにも、是非この機会に劇場に足を運んでほしい舞台だ。Text:yokano、撮影:寺司正彦 写真提供:新国立劇場
◎公演情報
新国立劇場 2018/2019シーズン
モーツァルト『魔笛』全幕
2018年10月3日(水)~10月14日(日)
全6公演
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