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2018/09/26

シャマユ+クリヴィヌのサン=サーンス 旅への誘い(Album Review)

 フランスのピアニスト、ベルトラン・シャマユは、いかなるテクニカルなパッセージでも焦らずに音を鳴らし切るテクニック、物言う音を縦横に操って、色彩感豊かな音楽を聴かせてくれる奏者である。

 そんな彼が新たに取り組んだのは、サン=サーンスの第2と第5協奏曲、そしてエチュード集からの抜粋はじめとする、いくつかのピアノ独奏曲だ。このディスクを聴くと、なるほど彼自身がヴィルトゥオーゾであったため、技巧的に要求するものが極めてハイレヴェルでありながら、あちこちに楽想をぎっちり詰めこんで花開かせる旋律美、湧き上がる抒情に特徴あるサン=サーンスの作風に、これほどハマる人もそうはいない、と唸らされる。

 第2協奏曲の出だしは、ピアノ独奏によるカデンツァで幕を開ける。当然ながら、ピアニストの力量がこの曲の印象を決定づけるが、荘重な主題提示からオケとのトゥッティに向けた経過句の重さまで、期待に胸高鳴らせる滑り出しだ。クリヴィヌとフランス国立管のつける伴奏、特に印象的に交替しながら絡む管楽器が、存在感を存分に示しながら肉付けしてゆく。

 展開部に入ってテンションを上げ、大波をのような音の洪水を生み出してからカデンツァに入ると、ガラリと表情を変えてノスタルジックな音世界を濃密に描き堕し、サン=サーンスの魅力を目一杯引き出してくる。

 常動曲、ないしはタランテラ的な第3楽章の、印象的なトリル音型と重い低音のかけあいなぞも最高だ。ここでも管楽器が素晴らしく際立ち、音楽に厚みを出している。再現部直前のクライマックスに現れるオクターヴ連打の豪快さ、ユニゾンで駆け下りる、雪崩を打つようなスケールのきらびやかさには圧倒される。

 このシャマユの演奏は、アルトゥール・ルービンシュタインやベンノ・モイセイヴィッチといった歴史的録音の隣に並べても見劣りしない、まこと堂々たる演奏である。

 第2協奏曲に較べれば第5協奏曲は知名度に劣るが、ニコラ・アンゲリッシュやリュカ・ドゥバルグはじめ、最近フランスのピアニストたちはライヴでさかんにこの曲を取り上げている。

 カイロ滞在中に書き上げ、第2楽章にエジプトの旋律を混ぜ込んでいるために『エジプト風』という異名のあるこの曲は、地中海風の光に満ちている。その、エキゾチックな風が吹き、倍音を加えた実験的響きの印象も鮮やかな第2楽章では、暖かい風をはらむオケともども、異国情緒を色鮮やかに描きだす。
 
 サン=サーンス自身が「航海の楽しみ」と表現した第3楽章は、その言葉通り明朗な光降り注ぐ洋上を滑るような快活な楽章で、シャマユたちは、しなやかな弾力ある音楽づくりで、シャープな映像美を切り出してくる。

 併録のピアノ独奏曲を耳にすると、彼による独奏曲の演奏をもっと聴きたくなることだろう。このディスクは、協奏曲だけではなく独奏曲も収録することによって、いわばサン=サーンスを「発見」する旅へと聴き手を誘うという意味において、優れたパッケージでもある。

 グローバルな規模でピアニズムが再編された現代において、各国固有のピアニズムの色合いは急速に色褪せていることは事実である。しかしフランスの「根っこ」の部分には、現実と夢想をすんなり同居させることのできる白昼夢のような明晰な意識の遍在や、懐深いタッチが生み出す質感、といった要素が消え残っている。新世代フランスを代表する奏者の一人へと成長したシャマユのこの録音には、そんなフランスのエスプリも、しっかりと刻み込まれている。Text:川田朔也

◎リリース情報『サン=サーンス:ピアノ協奏曲第2番、第5番「エジプト風」他』
WPCS-13791 2,800円(tax out)

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