2018/09/19
世界で最も人口が多い中国市場は、音楽業界にとって一見すると無限のポテンシャルがありそうな反面、アーティストやコンサート・プロモーターにとっては現地特有の壁を乗り越えなければ成長が見込めないという厄介な側面もある。
その一例とも言える事件が、最近デュア・リパの上海公演で起きた。2018年9月11日の中国でのデビュー・コンサートは無事広州で終了したものの、翌日の上海公演で治安当局者が、LGBTQのフラッグを振った観客やただ起立して踊っていただけの観客数名を連行したのだ。
また【ULTRAミュージック・フェスティバル】は、当初6月に予定されていたイベントが原因不明のままキャンセルになった後、再設定された9月15日と16日の北京日程は無事開催されたが、9月8日に予定されていた上海版は本番数日前に突然中止されている。イベントの公式声明は政府を責めていたが、実際は主催者側が現地当局とうまく連携しながらイベントを準備しなければならず、開催日に間に合わなかった場合に当局に責任が押し付けられることが多いと現地の事情に詳しい関係者は語る。9月に予定されていた【Djarkata Warehouse Project】の上海版も突然中止に追い込まれており、責任の所在も明らかになっていない。
中国で音楽ビジネスを展開するには、現地政府への繊細な理解及び協力が不可欠だ。中国政府からの指令は明確だ。音楽は娯楽ではあるが、不健全な思想や危険行為をむやみに助長するとみなされる内容は禁止されている。それ故チケット販売が認められるためには事前に許可を申請しなければならず、バックグラウンド・チェックやセットリストに含まれている曲の歌詞など、現地当局の判断を仰ぐ必要がある項目は多岐に渡る。
メインストリーム・アーティストも例外ではない。中国の文化部は昨年、具体例を挙げずにジャスティン・ビーバーの不品行が若者にとって危険すぎると判断し、国内ツアーを許可しなかった。セレーナ・ゴメスもダライ・ラマとの関係が原因で国内での活動が禁止されているアーティストの一人だ。ケイティ・ペリーは上海で開催された初のヴィクトリアズ・シークレットのショーでパフォーマンスを披露する予定だったが、台湾への支持を表明したために参加できなくなった。ブルーノ・マーズなど、歴史的に許可取得がより困難であることから中国を避けているアーティストも多い。
香港にほど近い深センで開催が予定されていたEDMのイベントやフェスも今年の春から徹底的にマークされてきた。ところが現地の主要なダンス・ミュージック・ブランドであるジャングルが主催するフェスにはマーティン・ギャリックスやスクリレックスなどの有名アーティストが多数ブッキングされており、フェーズ1のチケットも瞬く間に完売している。
中国で開花し始めていたヒップホップ・シーンも今年打撃を受けた。2018年1月に中国政府は、あらゆる形のヒップホップ・カルチャーをテレビやライブ・イベントなどで表現することを一時的に禁止した。その結果、市場が順応するまで間、現地のヒップホップ・アーティストたちへの後援金やショーのオファー、有料出演などが激減するなど大きな影響が及んだ。
半年以上経った現在、禁止令は正式には解除されていないものの、ヒップホップは徐々に中国文化に復活しつつある。芸術は善いことのために使うべきとする政府の意向に沿うようアーティストたちが気を使い始めたからだ。中国の動画サイトiQiyi(アイチーイー)のヒップホップ番組は国内で特に人気が高く、クリス・ウー(Kris Wu、別名ウー・イーファン)は今でも現地で最も稼いでいるスーパースターだ。
不透明感はあるものの、中国政府と音楽業界が相乗的に共存できる未来があると多くの業界幹部たちは信じているようだ。何億人ものアクティブ・ユーザーがいる中国の洋楽寄りのプラットフォームNetEase Cloud Musicでは、ジャスティン・ビーバー、エド・シーラン、コールドプレイなどの有名アーティストが最も聴かれている。だが現時点で中国音楽業界で最も影響力を持つ組織が政府であることは明白だ。
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