2018/10/20
先日、加山雄三さんとお仕事をさせて頂いた。言うまでもなく、日本のエイタテインメントに金字塔を打ち立てた大スターだ。素晴らしいライブだった。同じ海を見つめて育った幸運を、心から感じた。私は、横浜で生まれ、小田原で育ち、藤沢と茅ヶ崎で青春時代を過ごした。幼い頃は、西湘バイパスの横にあるテトラポットが昼寝の場所だった。
世界向けの音楽番組の基本構造の着想は、新江ノ島水族館の向かいにあるカフェで思いついた。ほとんどの音楽番組はジャンルごと、あるいはランキングに従うなど「垂直的構造」だ。しかし、1本につき30分、年間40本制作しても、トータルで20時間にすぎない。ぼんやりと水平線を眺めていたら「水平的構造」というコンセプトが浮かんできた。ジャンルを問わず、オールジャパンで伝える。番組の浮沈は、まさに制作者である私にかかっていた。放送開始から1か月経ち、2か月が経っても、全くリアクションはなかった。落胆していた時に、インドネシアから、一通のメールが届いた。「GACKTさんのファンです、曲を流してください」。数少ない声を何とかまとめて「リクエストスペシャル」を放送した。すると、堰を切ったようにメールが世界中から送られてきた。世界中の日本音楽ファンは、自分の「好き」を伝えたい。その手段と場がなかったのだ。
やがて、視聴者の顔を知りたくなった。非英語圏からのメールを読んでいると、英語で伝えることが不得意な方が多数いることは、容易に想像がついたからだ。メールの幾つかには写真が添付されていた。それらをギャラリーのようにウエブサイトに掲載できないかと2008年に開始したのが「Your Photos(https://goo.gl/sPLxuk)」だ。インスタグラムより前に、画像表現の場となった。「日本音楽ファンに会いに行き、相互理解を深めていきたい」。そう考えたのも、国道134号線に架かる浜須賀の歩道橋から海を眺めていた時だ。世界中の同志とネットワークを築き、意見をデータ化し、誰でも閲覧できるようなインテリジェンスにと残したのが、J-MELOリサーチ(https://goo.gl/7LAHXP)だ。
茅ヶ崎の浜降祭では、さまざまな神々を載せた神輿が、海に入っていく。ティーンエイジャーの頃、神話に興味を持ったきっかけの一つは、この伝統行事だった。湘南を飛び出し、高千穂や出雲など舞台となった地を訪れると、物語のリアリティを感じた。古事記や日本書紀が編さんされた8世紀の奈良は、縦軸の「神話」と、横軸の「世界音楽=雅楽」が交わった、歴史の転換点だった。正倉院の楽器を眺めていると、当時の演奏が聴こえてくるような気がする。日本音楽には、地球の音色が内包されているのだ。
私のモチベーションは、人生に寄り添い続けてくれる音楽と、力を与えてくれる視聴者への恩返し。原動力となっているのは、湘南海岸から感じる、ワクワク感という名の初期衝動だ。大海原からは、「日本のプレスリー」ともいえる加山さんの歌声が聴こえてくる。繰り返される波音は、デビュー40周年を迎えたサザンオールスターズの、途切れることのない創作意欲のようだ。故郷に、さまざまな思いを抱いている方もいることだろう。私も、部屋から見える夜景を見ながら、いつかここから抜け出したいと考えていた日々がある。そんな過去も赦してくれるこの地と海の包容力に、感謝という言葉しかない。
私の祖父は、前回の東京五輪の際、江の島会場の総責任者だった。ヨットハーバーに祖父の面影を辿りながら、今日も、新しい着想と音を探し続けている。Text:原田悦志
原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明大・武蔵大講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。
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