2018/09/15
どんなことでも、最初に始めた人が、一番偉大であると思う。何の前例もないことを、皆さんは信じられるだろうか?本当に初めて見るものは、例外なく「何だこれは?」と感じるのではないだろうか?やがて、キラキラとした輝きと、確かな力を備えたものだけが「異端」から「正統」になり、「わぁ凄い!」という評価に変わる。歴史を振り返れば、この繰り返しだ。
2005年夏、私は荒野の開拓地に、1人で立っている気がしていた。NHK総合テレビで放送された『放送80周年特番』のメイン演出を終えた私に、当時の上司はこう提案した。「これからは日本の音楽が世界へのキラー・コンテンツになる。やってみろ」。だが、そこには、スタッフも、予算も、視聴者も、何も、誰もいなかった。当時、世界に日本の音楽を売り出そうと本気で考えている人は少数で、むしろ「誰がこんな番組を観るんだ?」という懐疑的な見方が多数派だった。出演はもとより、ミュージックビデオすら借りるのに苦労した。それがJ-MELO草創時の偽らざる真相だ。
私が持ち合わせていたのは、「アイデア」と「情熱」だけだ。石を拾い、地を耕し、小屋を建てた。やがて、同じ志を持つ仲間が集まり、街となり、世界的なネットワークが築かれていった。誰かが作ったメインストリートを歩くより、自分で道を切り拓く方を好む私の性分を、元上司は見抜いていたのだろう。
それから13年の時が流れた。正直に言うと、ここ数年、国際放送における「ファースト・コンタクト・ソース」としての使命は終わったと感じていた。いま、音楽は、communications(通信)を通して、無尽蔵な聴取が可能になっている。かつてのような、broadcast(放送)を通じた最大公約数的な世界伝播が唯一の窓だった時代は過ぎ去っていたからだ。
そんな時に、国内ラジオへの異動を命じられ、すぐさま、新しい番組を立ち上げることになった。天命だと感じた。イメージを固めようとしていた時に、敬愛する現代音楽家、ジョン・ケージの評伝「Musicage」の背表紙と目が合った。ジャンルや年齢を基にしたターゲット・マーケティングを重んじるあまり、音楽の持つ「壁を突き抜ける力」を忘れているのでは?書籍は、そう語りかけている気がした。
『ミュージックエイジャーズ -音楽世代-』。ジョン・ケージへのオマージュから名付けられた新番組のタイトルは、私が思う、音楽愛好家の総称だ。
「一点突破」は、私の大学の教え子と同じぐらいの学生たち。全ての現在形の音楽を受容できる感性を持つ世代だ。その起点から「全面展開」を目指す。年齢もジャンルも関係なく、各自が「好き」を伝え合い、プレイリストを共有し、初めて聴く音楽にリスペクトを抱く。「オンエア」と「オンライン」という2つのルートで個と個が結ばれ、線を描き、形になる。聴覚のメディアであるラジオだからこそ、「life=日常、人生」に、音楽が寄り添う存在になる。そんな理念を持ちながら制作準備をしている。ここだけの話だが、私もカメオ的に出演する予定だ。ラジオ番組で実現したいことがある。いつか、ジョン・ケージの「4分33秒」を放送してみたい。アイデアも情熱もある。具体的には、内緒ですけどね。Text:原田悦志
◎番組情報
NHKラジオ第一『ミュージックエイジャーズ -音楽世代-』
2018年9月24日(祝)
17時05分~18時50分
DJ:☆Taku Takahashi(m-flo)、高嶋菜七(東京パフォーマンスドール)
ゲスト:高橋幸宏、yahyel ほか
原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明大・武蔵大講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。
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