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2018/08/16

ケイシー・マスグレイヴス 来日インタビュー~ポジティブさと美しさを注入した新作/1Dハリーとのツアー/溢れるトトロ愛

 最新アルバム『ゴールデン・アワー』をはじめ、計3作品で米ビルボード・カントリー・アルバム・チャートNo.1を獲得している、29歳のシンガーソングライター、ケイシー・マスグレイヴス。2007年にオーディション番組『ナッシュヴィル・スター』に出演したことで注目を浴び、2013年リリースのデビュー作『セイム・トレーラー・ディファレント・パーク』では【第56回グラミー賞】の<最優秀カントリー・アルバム>を受賞。

 今年6月には日本デビューに先駆け初来日を果たし、7月に行われた【FUJI ROCK FESTIVAL '18】では日本初ライブを行い、その爽やかな歌声、軽快なカントリー・ポップスとキュートな人柄で観客を魅了した。この時のライブ・レポートは、ページ下部の関連リンクからの特集ページでも公開されている。

 ここでは、ライブ後に彼女と行ったインタビューをお届け。フジロックでのパフォーマンスはもちろん、よりポップに傾倒し、音楽の幅を広げた意欲作『ゴールデン・アワー』、そして溢れるトトロ愛について語ってくれた。


◎日本での初ライブを終えたばかりですが、感想はいかがですか?
ケイシー・マスグレイヴス:とってもワイルドで、楽しかった!今日が日本でのデビュー公演だったら、お客さんが集まってくれるかどうかもわからなかった。ニュー・アルバムもリリースされたばかりで、故郷からとっても遠い場所だし、カントリー・ミュージックもそこまで人気のジャンルじゃない、って聞いていたから、何を期待していいかわからなかった。でも、お客さんがたくさんいてくれて、すごく嬉しい。みんな雨の中でずっと待っててくれたみたいだし、いい時間を過ごせた。

◎ケイシーの衣装にも期待していたのですが、素敵でしたね。バンド・メンバーともカラー・コーディネイトされていて。
ケイシー:ありがとう!テーマは、“ハッピー・タイフーン(台風)”なんだ。

◎ちなみに、脇の下の部分にタトゥーを入れているようですが、どんな意味があるんですか?
ケイシー:これが私の唯一のタトゥーなんだけど、妹と一緒にお揃いで入れたものなの。錨と黄色い薔薇で、生まれ故郷のテキサスに由来している。

◎ライブでは、ナールズ・バークレイの斬新なカヴァーを披露していましたが、あれはどういう経緯でやることになったんですか?
ケイシー:みんなにカヴァーしないだろう、と思われるような予想外な曲を取り上げるのが好きなの。その曲を私の世界観に合わせて、ウェスタンな雰囲気にするのが。あの曲は、アレンジするのがとても楽しい曲だった。ちょっと、マカロニ・ウェスタンぽいヴァイブがあるでしょ。

◎MCで、新作に収録されている「Rainbow」が6年前に書かれた曲と言っていたのに驚いたのですが、なぜこのタイミングでアルバムに収録しようと思ったのですか?
ケイシー:『ゴールデン・アワー』を完成させる前、収録曲を振り返りながら、ちゃんと1つの作品として成立するか、均整の取れた作品に仕上がったか、自分が伝えたいことをすべて提示できたか、って考えていた時、何となく生々しさとハートフルさが欠けているんじゃないか、って思った。その時、この曲のことを思い出して、ライブ・テイクでレコーディングしてみた。私がピアノの伴奏に合わせて歌う、ごまかしのない曲。過去のアルバムに比べて、プロデュースされ、レイヤーのある作品に仕上がっているから、私とピアノだけの曲、自分の歌声と魂をさらけ出した曲を収録することが、いいアイディアのように思えたの。

◎それは「Mother」にも通じるのかな、と思いました。約1分半というとても短い曲ですが、心を打たれるナンバーです。
ケイシー:ありがとう。確かに「Mother」は、アルバムに収録されている最も短い曲ね。でも、これ以上何も付け加えることはしたくなかった。伝えたかったことをすべて表現していて、私にとってアルバムの中で特別な瞬間だわ。

◎アルバムは、感情豊かで、愛にあふれた作品に仕上がっていますが、やはり結婚したことが大きなインスピレーション源になっているのですか?
ケイシー:その通り。結婚したことによる、ポジティブなインスピレーションが曲から伺えると思う。実は結婚するなんて思ってなくて、どこからともなくそうなったの。彼は、私の人生を180度変えてくれた。アーティストは、ハッピーになったら創造なんてできないって、よく言われているけれど、私にとってはその反対だった。様々な面において、私に新たな見解を与えてくれた。私が、ハッピーじゃなかった時に忘れてしまっていた、ポジティブな世界観を。

◎確かに、これまでケイシーが書いていた詞には、シニカルさが多少あったと思います。
ケイシー:私自身は、今もまだシニカルだけどね(笑)。皮肉、ユーモアは大好き。でも、過去にやったことの繰り返しはしたくないし、もう少しリスナーの解釈にゆだねるようにしたいな、と思って。詞が息苦しく感じないように、いつもより余白を与えるように心掛けた。気の利いた言いまわしをするのが大好きだけど、そればかりだとリスナーも飽きてしまうと思うから。

◎今話していた、「アーティストは、苦悩していないと創造できない」という通説は、危険でもあります。
ケイシー:インスピレーション源を無理矢理止めることはできないのは確か。今回は自分が感じていた愛情、そして私の人生が迎えたポジティブな転機に大きく影響されていた。そしてソングライターとして、自分の周りの世界を観察する上で……特に今の時代は自分の身の回りで起こっている恐くて、ネガティブなことに焦点を当てることは簡単だと思う―社会的、政治的な面においてね。私はずっと観察する側で、そこから逃れ、自分の音楽にポジティブさと美しさを注入したかった。今はその価値感が、世界からとてつもなく減ってしまったから―ニュースの報道によって圧倒されて。時には現実逃避することも必要だと感じるの。

◎こういった音楽フェスはまさにそうするのにうってつけの場所です。
ケイシー:そうよね。それと、私個人としてはカントリー・ミュージックが、そこまで浸透していない場所にカントリー・ミュージックを届けることができれば、と考えているの。まだ好きかどうかわからない人々にも聴いてもらえる機会を与えることができればって。

◎カントリー・ミュージック界の風向きは、少しづつ変わってきているのでしょうか?昔から男性優位なシーンですが、女性の権利を訴える運動などが盛んになった現代において、そういった古臭い価値観には多少なり反発があると思います。
ケイシー:今でも、男性優位なのは変わらない。女性アーティストだと、男性と同等のチャンスを得ることは難しい。でも、私はそういったことは気にしないで、自分がやりたいようにやっているし、自分なりの道を歩んでいる。彼らのルールに従ったことは1度もない。サポートしてくれることには、感謝しているけれど。だから、今まで通り我が道を進んでいく予定よ。

◎ケイシーのような若い世代で、そういったスタンスを貫いているアーティストは多いのですか?
ケイシー:そう思うわ。とはいえ、今となってはカントリー・ミュージックがどんなものなのか、はっきり特定できなくなっている。多様になってきているから。

◎ケイシー自身の音楽もストレートなカントリーではないですもんね。
ケイシー:私自身にも、自分の音楽が完全にカントリーなのか、そうでないのか、わからないもの。カントリー音楽が好きな人のためのカントリー音楽であるとともに、カントリー音楽が嫌いな人のためのカントリー音楽でもあるから。

◎特に新作は、これまで以上にポップ・ミュージックに傾倒した作品になっています。
ケイシー:そう、ポップ色が強い作品なっている。でも、自分の音楽本来のオーガニックな部分や私の精神や個性が、今作で実験したサウンドの中に埋もれてしまわないように気を使った。私らしくて、私のアルバムを聴いているというのは明確にしたかったし、オープンになりながらも違和感ないものにしたかったから。

◎実験という面では、今回「Oh What A World」でヴォコーダーを起用していたのには驚きました。
ケイシー:ヴォコーダーとペダルスティールやバンジョーなどのカントリーっぽい楽器が共存できる世界を作りあげるのは、私の夢だった。よく考えてみれば、「なんでダメなんだろう?」って。音楽は音楽だし、何でも共存できるはずだし、好きなようにやっていいはず。だから実際にやってみたら、すごく楽しかったわ。

◎そしてケイシーが書いたアルバム・ライナーの、人生には「頭で考えるのではなく、ただ感じるのみの転機も存在する」という言葉は、今のあなたにまさにピッタリだと思いました。
ケイシー:ありがとう。自分でも、これまでのソングライティングは、理性的で、一方的すぎるって、思うぐらいだから。20代の終わりに差し掛かり、30代へ突入し、結婚したことで、これまでとは異なる見地に立っている。今はもう少しリラックスできてると感じるし、それが詞にも投影されてきていると思う。

◎話は変わって、先日ハリー・スタイルズとのUSツアーを終えたばかりですが、いかがでしたか?ケイシーの普段のライブとは客層もやや異なるものだったと思いますが。
ケイシー:ものすごく楽しかった!ハリーは、とっても粋な紳士で、最高のツアーメイトだった。彼のファンたちも素晴らしかった。私の“カントリー音楽”を受け入れてくれて、たくさんのサポートを与えてくれた。彼らのためにプレイできて楽しかった。

◎ハリーと共演もしていましたよね。
ケイシー:そう、シャナイア・トゥエインの曲「You're Still the One」をデュエットしたわ。一瞬の出来事のようだったけれど、ものすごくいい経験になった。

◎選曲がシャナイアというのは意外でした。
ケイシー:彼が シャナイアの音楽を好きなことを知っていたから、私が「彼女の曲をやろう」と提案したの。案外ハマってたと思うんだ。

◎ちなみに、ケイシーが素晴らしいと思う曲にはどんな要素が不可欠でしょうか?
ケイシー:うまく説明できないけど……普遍的であって、型にはまることのない、シンプルなもの。1950年でも、2020年になっても素晴らしいと思えるもの。ジャンルも関係ない。誰が聴いても、素晴らしいと明らかなものかな。

◎前回来日した際にショーケースで『となりのトトロ』の「さんぽ」を歌っていて、今日のステージでもテーマ曲を少し歌ってくれました。
ケイシー:観客の反応が鈍かったから、ちゃんと伝わってたかわからなくて……。

◎伝わっていたと思いますよ。日本人なら大体の人が知ってる曲ですし。
ケイシー:本当は英語バージョンの方が慣れてるんだけど、今日は日本語で歌ってみたわ。

◎私は、映画の英語バージョンは観たことないです。
ケイシー:え~、そうなの?私は、英語バージョンを小さい頃からずっと観て育ってきたんだ。

◎そもそも映画を観るきっかけは何だったのですか?
ケイシー:私が7~8歳ぐらいの時に、父親が近所の図書館から借りてきたの。父は、映画やミヤザキ(宮崎駿)の前知識もなく、ジャケットのアートワークがヘンテコで、私と妹が気に入るかな、と思ったから選んだみたい。一度観たら、すぐさま虜になった。ストーリー、ミステリアスで風変りな部分、アニメーションのスタイル、曲もキュートで、それまで、あんな映画は観たことがなかった。あと物語も姉妹の話だから、私も妹もめいとさつきに感情移入しちゃって。2人が様々な冒険をする模様とか……、私たちはテキサスの郊外で育ったから、そこも似ていて。

◎ジブリ美術館にも足を運んだようですね。
ケイシー:そうなの!受付のトトロやネコバスも見ることができたし、アニメーション技法についても学べた。夫も一緒に連れっていったの。行く前に、『千と千尋の神隠し』を見せたら、すごく気に入ってた。でも、あの映画を嫌いな人なんていないわよね。

◎妹も一緒に?
ケイシー:実は今回一緒に来れなくて……初来日の時は来たんだけど。彼女は、私のアルバムのアートワークの写真やデザインを担当してるんだ。前回来た時、日本が大好きになったんだけど、残念ながら今回は来れなかった。

◎わかりました。では最後にケイシーの夏の1曲を教えてください。
ケイシー:え~、何だろう。「High Horse」が誰かの夏の1曲になっているといいんだけど……。ドレイクの「イン・マイ・フィーリングズ」チャレンジは気に入っているから、それかな。


◎プレゼント情報
抽選で2名様に取材時に撮影したケイシー・マスグレイヴスのサイン入りポラロイド写真をプレゼント
<応募方法>
01.Billboard JAPANの公式twitterアカウント(@Billboard_JAPAN)をフォロー
02.インタビュー記事をRTで応募
※応募締め切りは、8月27日(月)正午となります。
※当選者の方には、@Billboard_JAPANよりDMを送ります。当選時に同アカウントをフォローされていない場合、当選は無効となります。

<受付期間> 2018年8月16日(木)~27日(月)12:00

◎リリース情報
『ゴールデン・アワー』
ケイシー・マスグレイヴス
2018/07/04 RELEASE
2,700円(tax incl.)

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