2018/08/18
音楽の命は、人々のどこに宿るか。私は「口」だと思う。例え鼻歌であっても、たくさんの人々が口ずさむなら、その曲は強い生命力をみなぎらせる。そんな楽曲を、私自身が仕掛け人になって作りたいという思いで立ち上げたのが、「J-MELOニューソングプロジェクト」だった。この企画は、世界中の視聴者からさまざまな声を集め、それを元に、番組テーマ曲を新たに制作するというコンセプトで始まった。まさに「世界と作る日本音楽」だ。
その中で、2曲、国内チャートで1位に輝いた曲がある。1つは「What is Love?」(2014)。もう1つは「One and Only」(2015)。どちらも、同い年の大切な友人であるつんく♂さんが、作詞、作曲、プロデュースを手がけ、番組の準レギュラーであるモーニング娘。が歌ったものだ。
「What is Love?」(https://youtu.be/RKYgWHSN7fM)では、世界中の視聴者に2つの質問を投げかけた。「愛とは何か?」「生きるとは何か?」シリアスな質問にも関わらず、60を超える国や地域から、700を超える返答が集まった。
「愛は人を愚かにし、時に過ちを犯させる。そして時に正しい方向に導くんだ」(ルーマニア・男性)
「生きるって何だろう。私にはどうしてもわからない」(アメリカ・女性)
つんく♂さんは、熱い思いが込められた全てのメールに目を通し、彼らの心の声を「うた」にした。同年10月にニューヨークで開催されたモーニング娘。の単独公演で、この曲はアメリカのファンに披露された。サビに差し掛かると、観客全員が「What do you want?」という英語の歌詞を一斉に叫んだ。感動的な光景だった。
その時、私にはもう一つのアイデアが浮かんだ。英語圏をはじめとする世界中の視聴者に、もっと口ずさんでもらえる曲。例えば、ハイウェイでドライブしながら、車中の全員が歌えるような、唯一無二の「うた」を作れないかと。こうして、全編英語詞の「One and Only」(https://youtu.be/B1d3y7qiSi0)は生まれた。発音やイントネーションについては、ネイティヴが聴いても違和感のない歌唱にすることを、メンバーに厳命した。2016年にヒューストンで開催された【ANIME MATSURI】で、数千人の観客が彼女たちと共に歌ったとき、魂が震えた。それは、この曲の命が、国境を越えた瞬間だった。
ヴォーカルは吹き替えが利かない。日本語のままで歌う「うた」と、現地語化する「うた」。この両方での世界展開が、日本の音楽の生命力を強く広げる鍵だ。その可能性を体感させてくれた2曲のナンバーワン・ヒットに、陰ながら関われたことは、ささやかな私の誇りである。Text:原田悦志
原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明大・武蔵大講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。
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