2018/07/28
誰にでも、一番感性が豊かな子供の頃に聴いた、忘れられない音楽があるだろう。私の場合は、クラシックとニューウェイヴだ。
市民オケの団長を務めていた父と、西洋古典音楽の大ファンだった母。家の中には4チャンネルのオーディオがあり、いつも、大作曲家の作品が流れていた。毎朝、メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲が聴こえてくる。だから、今でもあの曲を耳にすると、朝食の定番だったベーコンエッグを思い出す。
ただ、私には、親の目の届かない時間と空間があった。幼稚園は、箱根の山の上にあった。電車を乗り継ぎ、片道1時間半。園児とは思えない距離を、首から定期券をぶら下げて、一人で通っていた。ポケットの中の小銭で、少年サンデーを買うか、炒飯を食べるか。そんなことばかり考えていた。年長になったある日の道すがら、甲高い声で女性が歌い上げるノイジーな曲が聴こえてきた。胸がときめいたのを覚えている。それがサディスティック・ミカ・バンドの「タイムマシンにおねがい」だと知ったのは、何年か後のことだ。
小学生になると、夜ごと、ラジオにかじりついた。学校が大嫌いで、一年生で登校拒否になった私は、810Khzにダイヤルを合わせ、FENの向こう側にある世界にワクワクしながら思いを馳せた。
TVK(テレビ神奈川)というエッジの効いた独立系テレビ局があったことも、私の音楽的嗜好を決定づけた。バグルス、ディーヴォ、ジョイ・ディヴィジョン、、、やがてYMOの「増殖」にハマり、その流れで、小林克也さんが司会を務める「ベストヒットUSA」を毎週欠かさず観るようになった。1970年代後半から80年代にかけての洋楽は、血液のように、私の中を流れ続けている。
私には2人の高校生の娘がいる。趣味は異なるが、姉妹共にJ-POPが好きだ。彼女たちの思春期に、私が日本音楽の番組を担当していたことが影響を与えたのかもしれない。娘と一緒に、星野源、back numberら、娘のおススメのライブに随伴することは、至上の喜びだ。昨夏、次女を連れて、友人であるSKY-HIの公演に行った。彼女にとって、初の日本武道館でのライブ観覧だった。間違いなく、一生の記憶になったことだろう。
そういえば私も、親に連れられ、クラシックのコンサートに何度も足を運んだ。ホールとリハーサル室が遊び場だった私は、高校時代、バンドではなく、オーケストラを同級生たちと結成。市民会館の大ホールを自分たちで借りてコンサートを開催した。スウィングガールズより、私たちの方が先だった。違うのは、可憐でなかったことだけだ。
今でも、仕事でステージの上に立つと、「ここが、自分がいる場所なんだ」と感じることがある。そう、音楽の原風景は、誰もが素の自分を取り戻し、穏やかな気持ちでいられる場所。世界中の人々の心に響く、そのメロディーこそ、私が知りたく、聴いてみたい旋律なのだ。Text:原田悦志
原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明大・武蔵大講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。
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