2018/07/03
2017年の9月、フランス国立管弦楽団の音楽監督に就任したエマニュエル・クリヴィヌ(1947ー)が就任後初となる録音に選んだのは、やはり、と言うべきか、今年歿後100年のメモリアル・イヤーを迎えて盛り上がりを見せる、ドビュッシーの『海』と『映像』だ。嘗ての手勢、リヨン国立管弦楽団とルクセンブルク・フィルとの録音に続き、これが都合3回目の録音となる。ちなみにロイヤル・コンセルトヘボウ管へ移った前任者ガッティとフランス国立管の録音もある(SONY)ので、そちらと聴き較べるのもまた一興だ。
クリヴィヌは、闇ほどけて次第に白んでゆく空の下に横たわる海の情景から幕を開ける音楽が紡ぐ音のグラデーションを実に綿密に追う、このあたりはいままでの録音と同様の特徴で、輪郭がボケた曖昧模糊とした音を潔しとせず、明晰でモダンな音作りを目指している。ドビュッシーの描いたしなやかな旋律線はもとより、対旋律を受け持つ楽器をバランスよく主張すさせるために、結果としてひとつに溶け合う音楽には奥行きが生まれている。明晰、とはいっても響きは響きはシャープになりすぎず、耳に優しく柔らかで、ふんわりと軽い。これは、良い意味でも悪い意味でもグローバル化した今のパリ管の出す音とはかなり毛色が違っていて、いまなお古き佳き時代の薫り漂う、フランス国立管ならではの伝統のなせるわざだろう。
なお、第3楽章『風と海の対話』には版の問題があって、1905年初版のあと、1909年に出版されたスコアでは、終盤の練習番号60直前、トランペットのファンファーレが鳴る8小節を削除されている。アンセルメや、最近ではアバドなどのように、これが入っている1905年版を使うか、それとも削除後の1909年版を使うかは、事実上指揮者の裁量に任されている。
このディスクのクリヴィヌは1909年版を採用しているのだが、ディスク掉尾に、2分少々のボーナス・トラックとして1905年版の演奏抜粋を付け加えている。ここまでするのであれば1905年初版の第3楽章を丸ごと収録し、第3楽章のチョイスを聴き手に委ねてしまえばよかったのでは、という思いを抱かないではないのだが、それは望みすぎ、というものか。
『海』の次に書かれた管弦楽曲である『映像』は、ピアノのための2集に次ぐ第3集目。第3曲『春のロンド』はフランスだが、第1曲『ジーグ』はスコットランド、それ自体が3曲から成り、これだけ独立して演奏されることもままある第2曲『イベリア』のスペインと、ドビュッシーの異国情緒好みが如実に窺える曲集である。『イベリア』ではセヴィジャーナス風だったりハバネラだったりと、いかにもスペインらしいリズムや、第3曲でもトリッキーなリズムが登場するのだが、その処理は弾力に富み、鮮やかだ。極彩色でこそないものの、カラフルな色彩感の面でも申し分なく、軽妙洒脱な演奏に仕上がっている。
円熟の境地にあるクリヴィヌとフランス国立管が今後生み出す響きと音楽に大いなる期待を抱かせてくれる、まずは上々の船出を刻んだ録音と言えるだろう。Text:川田朔也
◎リリース情報
ドビュッシー 交響詩『海』、『管弦楽のための映像』
エマニュエル・クリヴィヌ指揮
フランス国立管弦楽団
Erato WPCS-13768
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