2018/06/12
6月6日の大阪公演のあと1日あけて、東京は8・9・10と3日連続公演。1日2ショーなので計8公演。本国でもそこまで続けてライブをやる人というイメージがなかったので、その公演スケジュールを知ったときは後半で喉の調子がくずれたりしないだろうかと少し心配になった。が、結論から書くと、何の問題もなかった。自分は東京初日の2ndショーと最終日の1stショーを観たのだが、最終日も声が掠れる場面などまったくなかった。両日とも全てが完璧だった。
2010年のフジロック含め、コリーヌの日本公演は過去4回とも観てきたが、こんなにも声の響かせ方が上手い人だったかと驚かされた。彼女が表紙になった「Billboard Live News」6月号に自分は「コリーヌは決して技巧に長けた歌手ではないが」などと書いてしまったが、とんでもない。こんなに上手く空間を使って声を豊かに響かせられる人はそうそういないのでは?と思いながら観た。声帯の振動を喉や鼻腔で共鳴させて倍音を生み、彼女はそこに官能的とも思えるような吐息も混ぜながら歌にする。声を大きく出して遠くに投げるのではなく、立ち位置から反響させて近くにいる人たちを包みこむようなあり方。息遣いもそのまま歌になるという感じだ。その抑制の表現があまりにも自然すぎて、これまでそうとは思わなかったのだが、そこには相当高度な歌唱コントロール力が働いていることが今回よくわかったし、以前と比べてそれが各段の進化を見せている(そう感じて久々に10年くらい前のライブ音源をあとで聴き直してみたら、本当に比較にならないほどだった)。ゆえに計8公演を、回によっての調子の良し悪しなくやり通すことができるのだろう。
ミュージシャンはエレキギターのジョン・マッカラムと、ローズ兼キーボード(あとベースとシンセ・ベースも)のステファン・ブラウンのふたりだけだが、そのふたりも完全にコリーヌの歌と同方向の演奏をする。つまり大きな音は出さず、空間を最大限に活かす。必要最小限の音と音との間の部分が説得力となり、奥行きとなって、曲が終わったあとの余韻にも繋がっていく。ドラムレスであることの物足りなさなどは皆無。むしろコリーヌの歌唱の個性と魅力を際立たせて伝えるのに、この編成が最善なのではないかと感じた。
コリーヌは数曲でアコギを弾いて歌ったが、タンバリンやチャイムなどいくつかのパーカッションを鳴らしながら歌う曲も多く、その際の動きのひとつひとつがまたどれも絵になっていた。わけてもチャイムを鳴らしながら歌われた「グリーン・アフロディジアック」は、後半で観客にフィンガー・スナップとシンガロングを求める際の動きや無理のない巻き込み方がまた優雅で魅力的。あんなふうに静かな一体感を生み出せるのもコリーヌの人柄と持ち味あってこそだろう。また最スロー曲「ヘイ、アイ・ウォント・ブレイク・ユア・ハート」の心に沁み渡るような歌表現(ステファンのコーラスもよかった!)に続いて、エレキギターでテンポのいい「パリス・ナイト/ニューヨーク・モーニング」を歌い始めるあたりのメリハリもよく考えられたもの。今回の公演はアコースティックの小編成とあって回ごとに自由に演奏曲を変えたりもするんじゃないかと読んでいたのだが、彼女はそうせずよく練られたセットリストに沿って毎回完成されたひとつの物語(的なもの)を表現。このあたり、実は完璧主義である一面が感じられたところでもあり、それゆえのあの濃密さでもあったのだろうと今は思う。そして、それがパーフェクトな形で成立したのは、ショーが始まる前に食事を済ませるという今回公演のルールも守り、集中して音楽に聴き入る性格の日本のよき観客たちのおかげでもあると、コリーヌはきっと感じていることだろう。
「私が思うのは、常に自分の音楽は成長し続けているということ。声質も成長して、“できるかも”と思ったことを実現させる範囲をどんどん拡大していけてると思う」。来日直前のインタビューで彼女はそう話していたが、まさに今回日本で行なったキャリア初のアコースティック編成公演はその“できるかも”と思ったことの実現のひとつとして意義深いものであり、この手応えが今後の彼女の表現にも繋がっていくに違いない。
TEXT:内本順一
PHOTO: Masanori Naruse
◎公演概要
【コリーヌ・ベイリー・レイ】
ビルボードライブ大阪
2018年6月6日(水)
ビルボードライブ東京
2018年6月8日(金)~10日(日)
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