Billboard JAPAN


NEWS

2018/05/01 13:50

<ライブレポート>ニック・ロウ、待望の再来日! UKロックの“ドン”が奏でる味わい深いロックンロールとバラッドに酔い痴れる春の宵

 また、ニックがやってきた!

 果たして何度目の来日になるのだろう? あるときにはバンドで、また別の機会にはエルヴィス・コステロのサプライズ・ゲスト(1987年にコステロのライブでデュエットした‘Baby, It’s You’はもはや伝説!)として、そして今回のようにソロとして――。ニック・ロウはきっと、筋金入りの日本ファンに違いない(笑)。これまで何回も来日し、その度に語り草となるようなステージを展開してきた彼が、昨年に続き日本で歌を聴かせてくれた。近年は本国のイギリスでも滅多にギグをやらない彼だから、今回のステージは日本のファンならずとも垂涎のパフォーマンスと言って差し支えないだろう。

 ライブやコンピレイションも加えると、これまで20枚以上の作品をリリースしてきたニック。“伝説のパブ・ロック・バンド”として名高いブリンズレー・シュウォーツでのパフォーマンスを筆頭に、インディペンディント・レーベル『スティッフ・レコード』のハウス・プロデューサーとしての実績や英米混合のスーパー・グループ=リトル・ヴィレッジでの活動、そしてコンスタントに続けてきたソロ・キャリアと、八面六臂の活躍で良質なロック/ポップスを発信し続けてきた彼が、5年ぶりの新作となる「Tokyo Bay」(4曲入りEP)のドロップと共にやってくる。並々ならぬ気合の入りようが窺える今回の来日、いつも以上に期待が膨らむのも無理のない話だ。

 「やぁ、こんばんは!」――長身のニックがステージに上がる。ジェントルな佇まいながら、人懐こい笑顔と仕草が会場にリラックスした空気を広げていく。絨毯が敷かれた足下にセット・リストを置き、親指と中指で1弦と6弦をおもむろに弾き始める。アコースティック・ギターのクリアなサウンドが響き、あとを追うように温もりのある声が発せられると、それが手足の先まで染みわたり、自然と歌詞を口ずさんでしまう。時代を超え、決して鮮度を失わない言葉と旋律。それが、僕たちが歩んできた“平凡な人生”を優しく、ときにはコミカルに後押しし、みずみずしく蘇らせてくれる。これこそ真の意味で“スタンダード”と言える歌だろう。

 前半はしっとりとしたナンバーをゆったり聴かせながら、シックでロマンティックな雰囲気を満たしていく。ややハスキーになった歌声が深い年輪を感じさせる。波間を漂うように心地好い時間の流れ――。

 もちろん「Cruel To Be Kind」や「I Knew The Bride」といった名刺代わりのナンバーは今もキラキラと輝いているし、まるでロックンロール回帰宣言をしたかのような新曲のビートも軽快で、次第に気持ちが湧き立っていくのを感じる。ギターの鳴らし方も実に上手い。
 どの曲もキャッチーで、心地好くグルーヴィなのだが、それらが決して薄っぺらなプラスティック・ポップスでなく、C&Wなどアメリカのルーツ・ミュージックをはじめとする豊潤な背景を持つ楽曲であることが、じんわりと伝わってくる。だからこそ、彼のナンバーは“時”という風雪に耐え得るタフさやディープネスを備えているし、僕たちは滋味溢れるふくよかさを感じ取ることができるのだろう。

 それにしても、近年のニックの歌声といったら…。

 市井の人々の喜怒哀楽を丁寧になぞるような深いニュアンスを湛えていて。じっくり聴かせるスロウにはホロリとさせられる物語りが溶かし込まれ、ささくれた気持ちをなだめてくれる哀愁が滲んでいる。もちろん、生粋の英国人としてのブラック・ユーモアも健在。クリシェをふんだんに紛れ込ませた歌は、聴き手を笑わせ、しんみりさせ、最後には感激させてくれる、実に人間臭い楽曲が僕たちの襟元を緩めてくれる。まさに“音楽の魔法”だ。

 後半にはディオンヌ・ワーウィックも歌ったビージーズの曲やアーサー・アレキサンダーのカヴァーも織り込みながら、みんなが待っていた珠玉のナンバーも披露し、会場はニックと一緒に大合唱。ツボを心得たファンの反応が微笑ましい。さらにアンコールではコステロの楽曲が切々と歌い上げられ、その瞬間、僕は完全にとどめを刺された。何と幸せな1日のエピローグ…。

 もはやレアなステージとなりつつあるニックのソロ・ライブは東京で5月1日の今日、大阪では4日に2ステージずつ残されている。薫風が心地好いゴールデン・ウィークにうってつけのゴキゲンなポップ・ロックの数々を、コクのあるビールで喉を潤わせながら楽しむのはサイコーなのでは? もちろん、英国のパブのように気軽に、カジュアルな気分で。

Phto:Yuma Totsuka
Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。早くも汗ばむ季節が到来した東京。今夏は「酷暑」が予想されているから、暑さ凌ぎの対策も先手を打って。ここ数年、ヨーロッパを中心に人気のフィリツァンテはもちろん、今年は原点回帰の意味も含めて、シードルやサングリアなども見直してみたい。また、オーストリアやドイツ、北海道やサウス・ニュージーランドなど冷涼産地のワインにも再注目したい気分。地球の温暖化が進む中、これらの爽やかなワインが楽しめるのは時間の問題? 環境変化に伴うテロワールのトレンドにも、ちょっと意識したい夏です。


◎公演情報
【ニック・ロウ】
2018年4月30日(月)※終了
2018年5月1日(火)
ビルボードライブ東京

2018年5月4日(金)
ビルボードライブ大阪

詳細:http://www.billboard-live.com/

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