2018/04/18
50年の歴史を持ち、「長い夜」や「サタデイ・イン・ザ・パーク」で知られる大御所ロック・バンド、シカゴ。その創設メンバーだったダニー・セラフィン(ds)が、自身のバンド:CTA(California Transit Authority)を率いて、約30年ぶりに日本のステージに立った。しかもそのラインナップには、1980~2000年代のシカゴを支えた盟友ビル・チャンプリン(vo,kyd g)が在籍。更に、シカゴの最初の危機(78年/初期リーダー:テリー・キャスの事故死)を救ったギタリスト:ドニー・デイカスがゲストとして帯同している。度重なるメンバー交代で本家が揺れる昨今、“もうひとつのシカゴ”たるCTAのショウをライヴ・ヴェニューで堪能できる意義はとても大きい。オリジナル中心のアルバムを出しているCTAながら、ライヴのセットリストは、期待通りシカゴのレパートリーばかりである。
照明が落ちると同時、「この時を待っていた!」と言わんばかりの勢いでダニーが登場。メンバーが所定の位置につき早々に繰り出したのは、オーヴァーチュアにリ・アレンジされた「Introduction」だ。もちろん、言わずと知れたシカゴの1stオープニング曲。続いて「Make Me Smile」、「Question 67 & 68」とシカゴの初期レパートリーを連発し、集まったオーディエンスを煽り立てる。ソウルフルなビルは当然のこと、最新メンバーでピーター・セテラ/ジェイソン・シェフ以上のハイトーン・ヴォイスを提供するトニー・グラント(ex-Az Yet)、ベースを弾きながらヴォーカル・パートではロバート・ラム役と思しきトラヴィス・デイヴスのフロント陣のコーラスが、とても肉厚で心地良い。
実は事前にyotubeの映像を見て、もう少しリラックスしたステージになると予想していた。CTAの場合、本家シカゴの看板であるブラス・セクションも持っておらず、今ツアーでは日本の若手セッション・ミュージシャン3人が“バンザイ・ブラス”と名乗ってサポートについている。でも「なーんだ…」と嘆くことなかれ。公演に向けてしっかりリハーサルを重ねたのだろう、そのアンサンブルは映像以上にカッチリまとまり、オリジナル・シカゴの意匠を守りながらも、CTAの各メンバー、特にヴォーカル陣を大きくフィーチャーしていた。
もちろん、初期シカゴのナンバーだけでなく、ビルがジョージ・ベンソンに提供した「Turn Your Love」、80年代のバラード・ヒット「You’re The Inspiration(君こそすべて)」や全米No.1曲「Look Away」も披露される。日本で言えば古希を迎えたビルゆえ、見た目は若干歳を召した感があるが、歌声はまったく衰え知らず。得意とするオルガンでの貢献も高く、ギターを手にする場面もあった。
中盤の見所はドニー・デイカスの登場である。これまでにも、ダニーと共にシカゴの“ロックの殿堂入り”式典に出演したり、CTAのU.S.ライヴに参加したことはあるが、まさか日本でその動く姿が見られるとは! 歌ったのは、シカゴ加入前にサポートしたスティーヴン・スティルスと書いた「Turn Back The Pages」と、彼のシカゴ・デビュー作『HOT STREET』(通算12作目)に収録されたドニー&ダニーの共作曲「Ain’t It Time」。意外に華奢で小柄な人だったが、スピード感のある やんちゃなギター・ワークは健在で、嬉しくなってしまった。当時は賛否両論飛び交ったが、ディスコ・ミュージックとクロスオーヴァー・サウンドが隆盛を誇ったあの時代、フットワークの軽いドニーのスタイルは、間違いなくシカゴに新風を吹き込んだ。その余韻が蘇った往年のファンは、きっと少なくなかったことだろう。
その中盤を締めたのは、バンド・マスター役を担うエドワード・ロス(kyd)、CTA結成のキーパーソンとなったマーク・ボニーラ(g)、それぞれのソロ・パートである。いずれも「Does Anyone Know What Time It Is」や「Just You And Me」、「Color My World」辺りに繋ぐ形をとっていて、思わずニヤリ。特にエドは、アンサンブルではさほど目立たないものの、実際はステージ反対側に立つ日本人ブラスに向かって大きなジェスチャーで指示を飛ばすなど奮闘していた。ダニーも彼を信頼しているからこそ、音作りの要を委ねているのだろう。
「日本は第二のホームグラウンド。戻って来られて本当に嬉しい」というダニーのコメントを挟んで、ショウは一気にラストへ。ビルとトニーによる「Hard Habit To Break(忘れ得ぬ君に)、再びドニーが参加しての「長い夜」でフロアは総立ちに。ダニーのドラム・キットの前に、上手からビル、ドニー、トニー、トラヴィス、エドと横一線に並ぶ様は、かなり迫力がある。そしてアンコールの「サタデイ・イン・ザ・パーク」で大合唱のうちに幕。トータルして、制限時間イッパイいっぱいの90分超。まさに、時間がいくらあっても足りないような、中身の濃いショウであった。
ちなみに2nd Stageでは、一部セットリストに入れ替えがあり、「I Don’t Wanna Live Without You」や「Take Me Back To Chicago」なども。「I’m A Man」が本編最後で、「長い夜」がアンコールに回った。そして1stのアンコール曲「サタデイ・イン・ザ・パーク」はスタート直後に。そのほか細かい調整が、開演直前まで行われていた。オーディエンスの酔度もあって、2nd Stageの方がノリが良くなるのがライヴの常だが、この日も2ndは10分増量。セットも微妙に異なるので、シカゴ・ファンには2ステージ通しての鑑賞をオススメしたい。ファミリー・ツリー上は“分家”であっても、そのショウの内容は、本家シカゴに比べてもまったく遜色ないものだから…。
Text: 金澤寿和
Photo: Masanori Naruse
◎公演情報
【CTA
featuring Danny Seraphine, Bill Champlin and Donnie Dacus】
2018年4月17日(火)※終了
2018年4月19日(水)
ビルボードライブ東京
2018年4月20日(金)
ビルボードライブ大阪
詳細:http://www.billboard-live.com/
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