2018/03/19
米西海岸ヒップホップの第一人者であり、今も現役バリバリのレジェンド・ラッパー=スヌープ・ドッグ。1993年のデビュー・アルバム『ドギー・スタイル』は全米だけで700万枚(ワールドセールスは1100万枚)を売り上げ、ヒップホップの歴史を語る上でも欠かせない1枚として受け継がれている。
その衝撃のデビューから25周を迎える2018年。アニバーサリー・イヤーにリリースしたのは、自身初のゴスペル・アルバムだった。昨年あたりから発表をニオわせていたものの、現実化したこの衝撃たるや……。とはいえ、冗談では済まされないくらい濃密で質の高い楽曲が揃っていることから、本気の姿勢で取り組んだことが伺える。
本作は全32曲、パッケージ(CD、LP)でいうと2枚組の大ボリューム。各曲にはそれぞれゲスト・ミュージシャンがフィーチャーされていて、ゴスペル・ミュージシャンを中心に、同じ90年代に活躍したヒップホップ~R&Bシンガーから超ベテランまで、幅広い層のアーティストがたちが参加している。制作のアドバイザーとして協力したフェイス・エヴァンスは、「セイヴド」で圧倒的な歌力をみせつけた。
そのフェイス・エヴァンスやシーラ・E等の作品に参加した経歴をもつB・スレイドは、マーヴィン・ゲイをお手本にしたようなニューソウル風の「ペイン」、色気漂う「オン・タイム」、そしてアルバムのラストを飾る「ワーズ・アー・フュー」の3曲に参加。B・スレイドと同じゴスペル・シーンで活躍するマリ・ミュージックは、浮遊感漂う「ニュー・ウェイブ」で美しいファルセットを披露している。両者はゴスペルのみならず、ヒップホップやフォーク、ダブなど様々なジャンルを自己流にアレンジする実力派。
ゴスペル界のベテランのジョン・P・キーがボーカルを担当した「ディフィーティッド」は、6/8拍子の壮大なバラード。もう1曲の「チェンジ・ザ・ワールド」も、まさに教会ゴスペルの真髄といえるいい曲だ。同じくベテラン勢には、【グラミー賞】で多数ノミネートされたクラーク・シスターズの名前もあり、「ピュア・ゴールド」で見事なハーモニーを奏でている。同じ姉妹ゴスペルデュオ=メアリー・メアリーも、「カム・アズ・ユー・アー」に参加した。
米ヒューストンのお騒がせ(?)女性シンガー=キム・バレルのパワフルなボーカルと、スヌープの語り口調に近いラップが絡む「サンシャイン・フィール・グッド」は、タイトル通り風通しの良い健やかなソウル・ナンバー。ハモり具合も良い塩梅で、まさに、ゴスペルとヒップホップが融合した傑作となった。2016年にデビューした、実力派ソウル・シンガーのオクトーバー・ロンドンによる「イン・ザ・ネーム・オブ・イエス」や、ジェームス・ライトとスヌープのコラボ「マイ・ゴッド」、ゴスペルアーティストのアイザック・キャリーとジャッツェ・プー参加の「チェンジド」など、ヒップホップがベースとなったゴスペル・ソングこそ、本作の魅力といえる。変わらぬ粘っこいボーカルで盛り上げる、フレッド・ハモンドの「コール・ヒム」も、ハイ・テナーが冴えわたって素晴らしい。
スヌープと同時期にブレイクしたケイシー&ジョジョのケイシーは、ピアノベースの典型的なゴスペル・ソング「ラブ・フォー・ゴッド」と、オヤジの底力を爆発させた「ノー・ワン・エルス」の2曲で熱唱。「オルウェイズ・ゴット・サムシング・トゥ・セイ」や、ジャジーな「サンシャイン」も、ナインティーズっぽい。その他、R&B界の重鎮チャーリー・ウィルソンが存在感を示す「ワン・モア・デイ」、ランス・アレン・グループのランス・アレンの「アンビリーバブル」、70年代から第一線で活躍する超大御所=パティ・ラベルによる「ホウェン・イッツ・オール・オーバー」など、アーティストの特性が活かされている。ビルボードライブでのパフォーマンスも大盛況だった、米ニュージャージー州出身のゴスペル・シンガー=タイ・トリベットの「ユー」もイイ。
近年は、メジャー・レイザー・プロデュースのレゲエ・アルバム『スヌープ・ドッグ/ロード・トゥ・ライオン』(2013年)や、ファレル・ウィリアムスが手掛けたファンク・アルバム『ブッシュ』(2015年)、原点回帰した前作『ネヴァ・レフト』(2017年)など、時代とジャンルを超越した傑作を発表しているが、どれもヒットには至っていない。本作もそうだが、売れることは無視して、“死ぬまでにやってみたいことを全部やっちゃおう”という、音楽人生を謳歌している様子が伺える。
Text:本家一成
◎リリース情報
『スヌープ・ドッグ・プレゼンツ・バイブル・オブ・ラヴ』
スヌープ・ドッグ
2018/3/16 RELEASE
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