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2018/03/07

四星球、華麗なる伏線回収で魅せた名古屋ワンマン公演のレポートが到着

 四星球が、1st e.pの発売を記念したツアー【「鋼鉄の段ボーラーまさゆき e.p.」発売記念ツアー「まさゆき絶体絶命のピンチ ~段ボールのダイアモンド~」】を3月3日に名古屋DIAMOND HALLにて開催した。

 昨年は多数のフェスに出演し、そのバンドの性質ゆえの独特なやり方で多くの人に特大級のインパクトを与えてきた彼ら。中毒性のあるライブにおいて多くの武器を持つ四星球だが、中でも特筆したいのが主に段ボールを使用して作られている小道具の数々。今回のタイトルは【まさゆき絶対絶命のピンチ~段ボールのダイアモンド】…自らの名がついたCD(EP)をリリースし、そのリリースツアーだというのに「まさゆき(まさやん)」はピンチに陥ることが確定しているタイトル。更に彼は翌日3月4日が誕生日だという。そんな日にピンチに陥ると知っていながらステージに上がる彼の気持ちを思うだけで笑えてしまうわけだが、内容は想像もつかない。タイトルだけでも少し笑えるが、内容は見るまでのお楽しみ…という生モノゆえのライブの面白味を少しおかしな角度からも煽ってくる。

 会場ロビーには、これからピンチに陥る段ボーラーまさゆきがこれまでに作ったと思われる作品の数々が展示され、訪れた観客を非現実の世界へとお出迎え。フロアに入ればステージには見慣れない「花道」が設置されていた。

 定刻17時から10分が経過した17時10分、突如DIAMOND HALLからのアナウンスが会場に流れる。どうやら折角のワンマンだから爆音でやりたい、スピーカーを増やしてくれ…と四星球が言い出した模様。困ったDIAMOND HALLは会場の中からスピーカーを作れる人を募ろうとしているようだ…。続いたアナウンスの最後の言葉は「この中に段ボーラーはおられませんか?」。その瞬間、フロアから大歓声があがり、客席の中から「私でよければ!」と凛々しい声をあげたのは…「鋼鉄の段ボーラーまさゆき」こと四星球Gt.まさやん。そう、今宵の壮大な茶番のスタートだ。

 観客の中を通り抜けステージに辿り着くなり「作ろうか?素材持ってきて!」と頼もしい一言を放つなり即座に飛び出してきたのは3人の黒子。黒の全身タイツに身を包み、顔までシッカリ黒マスクをかぶった残りのメンバーと思われる3人が段ボールを手にステージに登場。

 手渡される素材を巧みに操り、無事に段ボールのスピーカーを完成させるなり1曲目「鋼鉄の段ボーラーまさゆき」に突入。その途端、ボンッ!と特効の火があがりGt.ソロでは颯爽と花道に進み恍惚の表情まで見せるまさやん。フロアのボルテージを一気にMAXへと持って行った彼らは、曲中盤までまさやんを除いた3人が黒マスクをかぶったままというシュールな光景のまま今回のツアーのアンセムを放ち続けた。

 「(本ツアー)初日のなんばHatchを超えるために来た!」と叫び2曲目「前作で全部出し切った」、多くの拳とピースサインが上がりに上がった「クラーク博士と僕」を終えると、いきなり北島がフロア後方へと進みだす。黒幕で覆われていたスペースが開くとソコには数々の新作と思われるウナギやらケーキやら「ピンチ」と書かれた看板やら…数々の段ボール小道具が並んでいた。

 北島の構想に併せてまさやんが必死に作ったらしい数々の段ボール小道具なのだが、気分が変わってしまった北島はコレらを今日は使わない、裏でスタッフに切り刻んでもらっておく、と言い出したのだ。

 …まさゆき絶対絶命のピンチである。

 それを告げられたまさやんはステージ上で「バーカ、バーカ、バカッ!やめろ!使ってくれよ」と足掻いたものの、「せめて小道具を紹介する」と使うことがなくなった小道具の数々を淡々と説明しだす北島により無駄な抵抗となってしまう。

 その後、カードゲームにより全部を切り刻むか、まさやん渾身の「ホラ貝」だけを切り刻むか…という救済措置が取られたものの、「全部」を選んでしまう運の無いまさやん。それでも始まったライブは進むしかないわけで…恐らく絶望の淵であろうまさやんの気持ちは置き去りのまま彼らの生き様の歌と称したくなる「コミックバンド」へ。

 曲の途中「昨夜のあの満月のように、少しで良いので皆さんの光になりたいと思います!」と北島が叫べば声は出さずとも気持ちは同じだと言わんばかりに音をブツけてくるU太(Ba.)、モリス(Dr.)、と、ピンチのまさゆき。

 その後の数曲を経て、やはり気持ちが状況に追いつかない…とまさやんが唐突にステージを去ったと思いきや、大きな雛人形の作り物の一番上に自らがお雛様となり運ばれてきたり、演奏しながら駆け出してきたU太に絡まれたり、突如作れと言われた小道具を曲の合間にステージ上で少しずつ作り2曲の間に完成させてみたり…と、まさやんにスポットが当たり続けたかと思えば、とある曲のサビでは北島とU太が息ピッタリにクルクルと回り出してみたり、若かりし頃からライブをしてきた名古屋への想いを語ったり、モリスの四星球加入10周年を祝ってみたり…「まさゆきのピンチ」は無かったことになったかのようにライブはグングン進んでいく。

 その後、ちょっとした茶番を経てまさやんが1人ステージに残されると、フロア後方に「段ボーラーまさゆき」の師匠だという1人の国籍不明の男性が登場。その男性と会話を交わすまさやん。段ボール小道具作りにはイメージが大切だと伝えられた彼はありったけの想いで序盤に切り刻まれる運命となった小道具たちの復活を願う。するとフロアに現れたのは巨大なウナギ。その直後に会いたい人として自らの師匠を思ったはずが、そこに凛として現れたのは、彼らのワンマンではここ数年お馴染みとなっているヒーロー「ちょんまげマン」(ちなみに決め台詞は「ちょんまげ曲げても自分曲げんな」)。

 思い描いた会いたい人とは違ったが「ちょんまげマン」はヒーローに違いなく、これまでも彼らのライブで起こる数々のピンチを救ってきた孤高のヒーロー。そんなヒーローがこの日告げたのは、切り刻まれるはずの段ボールはダイアモンドだったから切られていない、無事だ、と。「絶体絶命のピンチ」に希望しかない一言。「ここからは使われるはずだった小道具を使う」と宣言し「オーバーグラウンドでもなくアンダーグラウンドでもなく、地べた這いずり回ってやってきました!」と北島の叫びと共に鳴るはメジャー1stアルバム収録の「夜明け」。

 ステージ上の4人の目つきが変わった瞬間、北島が突如恐らく予定に無かったであろう言葉を紡ぎ出す…いや、溢れた、という感じだろうか。「ワクワクするなー!ワクワクする!!!!Mr.Cosmo行ってみよー!…今までで一番、ココから起こることにワクワクしてます。ヤバい!」と「ここまでのコトは今から起こる伏線やから!」と、普段は言わないというネタバラシとも言える言葉を放ち「こんな感情になると思いませんでした!ヤバいーーーーー!」と子供のような顔で何度も叫ぶ。

 ココまでの流れの中に伏線をはりまくっていたこと、それをこれから回収していくことを、まさかの回収前に宣言する。彼のその宣言にも動じずに、半笑いで視線を北島に向けている3人のメンバーの姿も重なり、これほどのハードルの上げ方があるだろうか…と冷静に感じると共に、少しの期待を馳せてしまうのは彼らのマジック。

 その後の伏線回収劇は「見事」の一言だった。レポ—ト泣かせの一言にも尽きる回収劇。これはどう頑張ってもやはり文字には出来ない。…してはいけない気すらした。描かれていた脚本が良くても、演者が生きなければ舞台は光らない。その演者の熱が客席を煽り続けなければ空間は光らない。

 北島が描いた脚本には、恐らくどんな時だって、その場にいる人をワクワクさせる仕掛けが山のように仕込まれている。その根底には多くの人を笑わせて驚かせて、何より「やりたいこと」を楽しむ姿勢とメンバーへの絶対の信頼による究極のアテ書きとリアルの余白がある。その余白を自由自在に飛び回り、同じく絶対の信頼でアテ書きを超えていくU太、まさやん、モリス…その動きがあるから成り立つ物語だと感じる瞬間がこの日はいつも以上に何度も何度もあった。

 本編終盤、「ワンマンは120%皆さんのためだけにやってます、そのためにワンマンを続けてます、120%でやってます四星球です!!!!」と叫んだ北島。彼らのワンマンを観るたびに、もうかれこれ10年変わらずに感心することがある。それはワンマンでも大声で自らのバンド名を名乗るところ。四星球のワンマンに来ているのだから、バンド名くらいは恐らく全員が知っている。それでも時には「徳島県から来ました、四星球です」と、この日で言えば、今は閉店しているが彼らが通い続けた名古屋のライブハウス「サンセットストリップから来ました、四星球です」と少し誇らしげな顔で大声で名前を言うところ。それは単なる自己紹介の名乗りではなく、自分が属しているモノへの北島なりの愛情表現なのだろうし、ソレを聞いた瞬間のステージ上の3人は永遠の男の子の顔をしていたりする。やんちゃなチビっ子がダンゴムシを隠し持ってきたみたいな…人には伝わりづらい時もある宝物を見せに来た自信と少しの照れが混ざった独特の顔。

 そんな4つの顔を眺めて少し感傷的になりそうになっていた本編ラスト前、本編中に会場名に絡めて出て来ていた名曲『DIAMONDS』の歌詞を拾い北島が興奮気味に話しだす。「(ライブの構成を考える立ち位置として)面白いことが浮かばなくなりました、ってなったとしてもココで考えればいいこと」とU太、まさやん、モリスをグルリと指差し、それぞれと出会った年齢を話しながら「“あの時感じた予感は本物”で四星球やっております!」と大きな大きな声で叫び本編ラスト「オモローネバーノウズ」をまさに全身全霊で飛ばし切って終了。

 4人がステージを去って数分、アンコールの声に応えてブリーフ一丁な本日の主役・まさやんがステージに登場。彼がメンバーを呼び込むと、切り刻まれたハズだったウナギの小道具がメンバー3人に乗り移ったようで…黒全身タイツに黒塗りの顔、頭にはキュートなウナギさんを被った3人が登場。

 「ウナギになろうと、何になろうと、HEY!HEY!HEY!に出たかったーーーー!!!!」と北島が絶叫に近い声で叫ぶと共に「人生諦められたのに 夢は諦められないの」と歌う「HEY!HEY!HEY!に出たかった」へ。曲へと向かう美しい流れと勢いのある演奏、4つの表情。…が、少し冷静になると目に映っているのは黒全身タイツで黒塗りの3人とブリーフ一丁の男たち…どう考えても異次元。だが、その姿で絞り出すこの曲の説得力の高さたるや…不覚にも涙が溢れた。

 リズムに合わせ何度も拳を振り下ろす姿がエモーショナルさを煽ってくる「発明倶楽部」を経て、今宵の最後へと進むのだが……この先の最後の最後に起こった出来事は文字にはしない。終わりはいつだって先に繋がる希望の光がある。それが四星球のワンマンライブなのだと、彼らのライブなのだと、その最後は生で体感するモノだと感じたからだ。

 最後の最後の最後は、段ボール小道具のハイエースに仲良く乗り込み4人がステージを去る。その瞬間、ふと時計を見ると19時40分。ぴたっと2時間半、体感的にはもっと短いような…それでいて長いような…狐につままれていたかのような非現実の満腹感。

 終演後には今回のワンマンツアー追加公演も発表となり、『鋼鉄の段ボーラーまさゆきe.p.』を引っ提げた旅がこの先も続くコトが判明。どんな手を使い、どんな初期衝動を掘り出し、どんなその場のリアルと共鳴し、練られたスジと余白とリアルでその日だけの物語を彼らは紡いでいくのか…。

 今回のピンチを乗り越えた彼らは、続いて「メジャーをクビになる10の方法」に4月12日川崎にて挑むという。どんな結末にも少しの希望の光が差すように。全てが笑えるように…彼らの旅の行く先は、体感しておいて間違いはないと終演後にもフロアやロビーに溢れていた多くの笑顔を見
ながら感じた一夜だった。

 本ツアーは川崎、香川でも実施され、さらに追加公演として沖縄(対バン)、石巻も決定している。それぞれコンセプトが異なる演出となるので、これから参加するファンは開催を心待ちにしていて欲しい。


◎ライブ情報
『鋼鉄の段ボーラーまさゆき e.p.』発売記念ツアー【まさゆき絶体絶命のピンチ ~段ボールのダイアモンド~】
2018年3月3日(土) 
愛知・名古屋DIAMOND HALL

Photo:Naritoshi Kitagawa

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