2018/02/08
2018年1月31日、ピアニスト/作曲家/映画音楽家として多彩な活動を展開するアーティスト村松崇継のライブが、六本木・ビルボードライブ東京にて行われた。
満員の観客がその登場を待ち望む中、定刻過ぎに村松とバンドメンバーがともにオンステージ。この日のライブは村松に加え、望月清文(ギター)、竹下欣伸(ベース)、鍵冨弦太郎(バイオリン)、山下由紀子(パーカッション)が参加。村松の紡ぎ出す多彩な音楽世界を各奏者が的確な演奏でサポートした。
村松は高校時代の1990年代に、ピアニストとしてデビュー。大学時代に映画音楽の世界に足を踏み入れると、【第40回日本アカデミー賞】<優秀音楽賞>に輝いた『64-ロクヨン-前編』をはじめ数々のフィルムスコアを手がけ、その才能に注目が集まった。一方で、継続的に自身のソロ作品も発表。特に、昨年夏からは自らステージに立つアーティストとしての活動を本格化し、公演に先立って掲載されたBillboard JAPANのインタビューでも「“ピアニストがポップスをやる”という点にこだわっている」と語るなど、アーティストとして確固たる意志を見せてきた。
この日のライブもそんな思いを裏付けるように、ポップな「笑顔こそ最高のジュエリー」からスタート。独特の歌うようなピアノの音色が序盤から存分に発揮され、輝きを放つ。続く二曲目はジャジーな「The Magic Is Gone」。竹下は楽器をウッドベースに持ち替え、エレガントながらもダイナミックな楽曲の展開が観客を魅了する。言葉はなくとも実に饒舌な演奏だ。
その後、最初のMCパートへ。まずは外が冷え込む中、会場へ駆けつけた観客へ感謝と挨拶を述べる。そして「続いては皆さまを村松崇継のフィルムスコアの世界へご案内します」と前置きし、自ら「代表曲」と呼ぶ3曲の演奏に移った。1曲目は【第41回日本アカデミー賞】で<優秀音楽賞>に輝いた『8年越しの花嫁 奇跡の実話』より「繋がり始めた新たな糸」。ピアノのメインテーマが繰り返す中、様々な表情を引き出す村松の演奏、バンドのアレンジも秀逸だ。続く2曲目の『コールドケース メインテーマ』では、望月のエレキ・ギターがディストーションをまとい、それまでとは一味違う不穏なムードを作り上げる。パーカッションの音量もここまでで最大となり、バイオリンがアナーキーに弾ける中、村松のピアノも力強く躍動する1曲となった。そして「フィルムスコア」編の3曲目は「京都 ~悠久の時を超えて」。和風のメロディが会場を包み、ここでもまたガラリと雰囲気が変化した。こうして1曲1曲で全く異なる世界観を描き出す力に、作曲家としての才覚を感じずにはいられなかった。
「映画音楽を作るのは孤独な作業なので、こうしてライブ活動でファンに会えるのは嬉しい」というMCで一旦、会場を和ませた後は、昨年ヒットを記録した映画『メアリと魔女の花』から「呪文の神髄」「メアリのテーマ」を演奏。演奏の場面転換の切り替えの早さとスムースさに、またしても作曲家としての器の大きさを感じつつ、風景を描くような村松のアルペジオと、凝った編曲をスラスラとこなすバンドの演奏を堪能。村松の手がけた名曲の数々に触れているうちに、瞬く間に時間が過ぎてゆくのだった。
この日は二人のスペシャル・ゲストもライブに参加。中盤ではその一人である辻村有記が登場した。両者は1月31日にリリースされたコラボ曲「Light feat.村松崇継」をともに披露。演奏前には村松が、辻村がかつて所属していたHaKUのファンでもあったことを明かし、辻村も「(HaKUを辞めて)1人でやっていくにあたって、新しいことを探求していきたい」という期待に応えてくれた、村松への感謝を述べた。そのパフォーマンスは辻村がMCで発した「心で踊るダンスミュージック」という言葉の通り、EDMのトラックに合わせて辻村の歌とダンス、村松のピアノがパワフルに舞うユニークなもの。ライティングもビビットに変化し、ダンスクラブにいるような、これまでと雰囲気の異なる演奏となった。
辻村とのコラボの後は、村松のオリジナル楽曲が3曲続いた。「Sausalito」では、ファンキーなスラップベースから演奏がスタート。また、「真実の行方」ではジャジー・ピアノとアフリカン・ビートが融合。そして「浴衣に袖を通して」では、和風のメロディに16ビートの心地よいグルーヴが溶け込み、体ほぐれる心地よい感覚が広がった。ポップ作品を前にした時の、アレンジの引き出しの多さが改めて印象に残る3曲であった。
終盤では、村松がやはり元から大ファンで、ラジオ番組で意気投合したというMay J.が登場。村松が大阪・ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのクリスマスショー【天使のくれた奇跡III ~The Voice of an Angel~】のために書き下ろし、昨年末にリアレンジしMay J.をゲストボーカルに迎え、セルフカバーとしてリリースした「天使のくれた奇跡」を披露した。もともとは少年合唱団・LIBERAが歌唱していたボーイソプラノの広いレンジを、May J.がその驚異的な歌唱力でカバー。難曲を完璧に歌い切り大きな喝采を浴びた。終了後、村松も改めてその歌唱力を褒め称えた。
本編ラストは「紙について思う僕のいくつかのこと」「No Other Love」と、テンポが速くアッパーな2曲で盛り上げて終了。バシッと決まるバンドの演奏の中で、それでも歌う感覚を忘れない村松のピアニングが素晴らしい。
そして、万雷の拍手に迎えられたアンコール。ステージにはまず村松が一人で登場。何が始まるかと思えば、なんとピアノに加えて村松本人の歌唱による「いのちの歌」。本人も「人生初弾き語り」と語るパフォーマンスに、最初こそ観客も驚いた様子だったが、一語一語を噛みしめるような確かな歌唱に、次第に全員が引き込まれていく。「出会えたこと/笑ったこと/その全てにありがとう」という歌詞は、このライブそのものに向けられているようでもあった。その結果はもちろん、これ以上ないほどの盛大な喝采。終了後のMCでは「今後はボイトレを重ねてもっとちゃんと歌えるように頑張ります。今日は人生初なので、多めにみてください(笑)」「ここからはシンガーソングライターの村松崇継も楽しみにしてください!」と語り、こちらも大きな歓声を浴びた。
最後は、再びメンバーを呼び込み、人柄の伝わる丁寧なメンバー紹介に続いて『Piano Sings』のオープニングトラックである「Departure」を披露。ゆったりとした晴れやかな曲調が、ライブをやり遂げた達成感を伝えるようでもあった。ここ最近の活動の集大成であると同時に、これからの活動にも期待の膨らむ、会心のライブを成功させた村松崇継。今後の活動と次なるステージにも大いに期待したくなるステージだった。
◎公演情報
【村松崇継 LIVE Vol.2】
Guest: 辻村有記, May J.
ビルボードライブ東京
2018年1月31日(水)※終了
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