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2017/12/09

舞台裏のマイスター達の、弛まぬ日々を映し出す異色ドキュメンタリー『新世紀 パリ・オペラ座』公開

 フランスが誇る芸術の殿堂、パリ・オペラ座。そのパリ・オペラ座の舞台裏の日常に潜入を許されたカメラが映し出しているのは、数々の裏方マイスター達の奮闘記とも言えるのが、この異色のドキュメンタリー「新世紀 パリ・オペラ座」だ。

 予告トレーラーでも見ることが出来る、映画の冒頭シーンでは「本当にここまで、世間に出してしまっていいのだろうか?」と思わせるような絶妙で微妙な会話が展開されている。フランス式のジョークなのかこれが噂のエスプリなのかと、少なからずギョッとさせられるだろう。まずは是非見てみて欲しい。

 本作中、ダントツに出演時間が多いのはオペラ座総帥であるステファン・リスナーだ。公演の手配シーンだけでなく、記者会見の内容相談、チケット価格の多様化推進、スタッフの給与昇給ストと文化庁の経費削減要求に挟まれた苦悩、大統領の観劇接待とその席次まで、普段絶対に見ることの出来ない総帥の「リアル」が次々と登場する。

 本作では主に「オペラ」公演に焦点を当てて映像化しており、音楽監督のフィリップ・ジョルダン、演出のロメオ・カステルッチを始め、オペラ座で歌うソリスト達のみならず、合唱団の素の表情も映し出す。演出と合唱団が音響や立ち位置でリハーサル中に議論を交わす場面は、本気の一触即発シーンだ。演目が難曲で知られるシェーンベルクの「モーゼとアロン」であり、またシュールな演出とも相まって、ハラハラに一役買っている。

 また気になる「バレエ」側では、電撃退任劇で世間を騒がせた芸術監督バンジャマン・ミルピエ、そして現芸術監督のオレリー・デュポンと、オペラ座を巡る微妙なバランスと天秤の傾きの中枢にいるメンバーの動向を、未来(現実)を知っているのにハラハラしながら見守るのも楽しい体験となるだろう。

 期待の新星、バリトンのミハイル・ティモシェンコ君が、オーディションからオペラ座へ参画し厚みのある声で歌手のステップを登っていくのを見守るのも楽しい。他、公演初日直前の降板歌手の代打探しをする女性スタッフ達の必死さ、リネン室での膨大な衣装との格闘、舞台袖でスタッフや出演者へ向けてアナウンスする女性の「マエストロが来ない!」というイライラ。歌手陣の歌声に合わせて舞台袖スタッフが大好きなアリアをこっそり大合唱するシーンには、思わず笑みが漏れてしまうだろう。

 オペラ・バスティーユとガルニエ宮という、世界屈指の舞台裏で、それぞれの役割の一人一人が、わたしたちと同じように社会にもまれながら生きてその物語を紡いでいる姿は、私たちに新たな劇場の面白さを発見させてくれるはずだ。

 世界最高レベルの舞台裏「マイスター」たちの日常が覗ける「新世紀 パリ・オペラ座」は、12月9日より Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー。text:yokano

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