2017/10/31
かつて、自らの血が通った作品を「海賊版」などと標榜する人が存在しただろうか。卑屈や悲観、あるいは奇を衒った結果により、否定的な言葉が打ち出されることはあるだろう。しかし米津玄師は違った。彼は確固たる矜持を持ち、揺るぎない事実として、今回のアルバムを『BOOTLEG』と呼称したのである。
2017年11月1日、米津玄師がニューアルバム『BOOTLEG』をリリースする。前作『Bremen』から約2年ぶりとなる今作には、その間に発表した「LOSER」「ナンバーナイン」「orion」「ピースサイン」のシングル4曲に加え、約4年ぶりにハチとして制作した初音ミクとのコラボレーション楽曲「砂の惑星」のセルフカバー、映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の主題歌「打上花火」のセルフカバー2曲を含む計14曲が収録されている。ボーカロイド出身という背景から、当初はインターネットという少なからず限定的なフィールドで人気を誇っていた米津だが、徐々にその名を広めていき、アルバム発売前に公開された上記6曲はより多くの人へ才能を知らしめる結果となった。
「LOSER」以外のオリジナルはなにかしらのタイアップに起用されたということもあり、いわゆるギターロックやポップミュージックなど、米津の目指してきたというJ-POP的普遍性が顕著に表れた楽曲群でもあるが、今回『BOOTLEG』のために制作されたいくつかの楽曲――アコースティック基調の疾走感溢れる「飛燕」、粒だったベースラインに爽やかなグロッケンの煌く「春雷」、四つ打ちのリズムやサビ前のブレイクなど展開のシンプルな「Nighthawks」も全体的にはストレート且つキャッチーだ。ただそのどれもが個々で異なる色と温度を持っており、一つひとつの音を分解してみても、例えばエレクトロだったり、クラシックだったり、HIP HOPだったりと、多くの要素が組み込まれていることがわかる。この多様性はアルバムを通しても見受けられるが、特に映画主題歌としてヒットした「打上花火」のセルフカバーには驚く人も多いだろう。
繊細なピアノの旋律から始まり、打ち込みビート、ギター、ストリングスなどを徐々に重ねることにより夏の切なさや華やかさを見事に表現してみせたオリジナル。一方、ギターレスで打ち込み音を軸としたアルバムバージョンには大きな起伏がなく、ドープな雰囲気を漂わせたまま一曲が終わる。同じギターレスで言えば、トラップのように重低音を強調した「fogbound」、アシッドハウスを彷彿とさせるシンセサイザーのうねりが心地いい「Moonlight」も実験的だ。なお、この「Moonlight」にはサンプリングを多用しているほか、郷愁的でチャイルデッシュな趣のある「かいじゅうのマーチ」には日本の歌百選に選ばれた「今日の日はさようなら」へのオマージュとして歌詞を引用。音楽性だけでなく、その表現方法もさらなる広がりを見せた。
ここでアルバム全体の大きな特徴として一つ見えてくるのが、他者の存在を強く感じさせるということである。サンプリングや引用もさることながら、「fogbound」では池田エライザ、アルバムのラストを飾る壮大なバラード「灰色と青」では菅田将暉をゲストヴォーカルに起用。ボーカロイド時代を思わせるオリエンタルな軽快さをバンドサウンドに乗せた「表記未対応(※正式表記は、Aliceの中国語簡体字表記となります)」のタイトルは友人が作ったタトゥーシールからきており、さらにはレコーディングも飲み友だちと行ったという。歌詞においても、「飛燕」<君のためならば何処へでも行こう>、「Moonlight」<そこまで来たら迎えに行くから>、「Nighthawks」<君に会いに行こう>など、以前自身もツイートして話題となった「米津玄師はどこにも行けていない」説を見事に踏襲しながらも、具体的な「君」という対象が多く示されている。
いままで米津を追いかけてきた人には大きな変化と思えるだろう。言うまでもなく、これほど外向的な面が打ち出されたのは初めてだ。だがこれまでも一人で作品を形にしてきただけで、表現者としての米津玄師が誕生するまでのプロセスや感情の動きには常に他者の存在があり、音楽をはじめ他者が生み出したなにかしらの作品から影響を受け続けてきたという。すべての点は線となり、やがて面となって、誰も見たことのない世界を描く。人より孤独感を抱えていたという物悲しい過去もまた、他者との繋がりを求め続ける彼自身を形成したという意味では重要なファクターになったのだ。
あのとき、あの音楽があった。あのとき、その人がいた。あのとき、こんなことがあった。その昇華により出来上がった『BOOTLEG』は、その構築により出来上がった米津玄師という「海賊版」が示した美しい現在と言えるのではないだろうか。これもやがては誰かの一部となり、その誰かが彼の一部になることだってあるかもしれない。そんな可能性に満ちた未来へと向かう、ひどく美しい現在である。
TEXT:佐藤悠香
◎リリース情報
アルバム『BOOTLEG』
2017/11/01 RELEASE
<ブート盤(初回限定)(CD)>SRCL-9567~9568 / 4,500円(tax out.)
※12inchアナログ盤ジャケット、アートイラスト、ポスター、ダミーレコードが付属
<映像盤(初回限定)(CD+DVD)>SRCL-9569~9570 / 3,700円(tax out.)
<通常盤(CD)>SRCL-9571 / 3,000円(tax out.)
クロスフェード:https://youtu.be/uINfdDaZ1Ww
【CD 全形態共通】
01. 飛燕
02. LOSER
03. ピースサイン
04. 砂の惑星(+初音ミク)
05. orion
06. かいじゅうのマーチ
07. Moonlight
08. 春雷
09. fogbound (+池田エライザ)
10. ナンバーナイン
11. 表記未対応(※正式表記は、Aliceの中国語簡体字表記となります)
12. Nighthawks
13. 打上花火
14. 灰色と青 (+菅田将暉)
【DVD 「映像盤 / 初回限定」のみに収録】
01. LOSER Music Video(http://youtu.be/Dx_fKPBPYUI)
02. orion Music Video(http://youtu.be/lzAyrgSqeeE)
03. ピースサイン Music Video(http://youtu.be/9aJVr5tTTWk)
04. ゆめくいしょうじょ Music Video
◎ツアー情報
【米津玄師 2017 TOUR / Fogbound】
2017年11月01日(水)大阪府・フェスティバルホール
2017年11月02日(木)大阪府・フェスティバルホール
2017年11月04日(土)兵庫県・神戸国際会館こくさいホール
2017年11月05日(日)兵庫県・神戸国際会館こくさいホール
2017年11月08日(水)埼玉県・大宮ソニックシティ
2017年11月09日(木)埼玉県・大宮ソニックシティ
2017年11月18日(土)徳島県・鳴門市文化会館
2017年11月19日(日)愛媛県・松山市民会館
2017年11月23日(木・祝)福岡県・福岡サンパレス
2017年11月24日(金)福岡県・福岡サンパレス
2017年11月26日(日)鹿児島県・鹿児島市民文化ホール第一
2017年11月29日(水)新潟県・新潟県民会館
2017年12月01日(金)北海道・ニトリ文化ホール
2017年12月07日(木)宮城県・仙台サンプラザホール
2017年12月09日(土)福島県・郡山市民文化センター 大ホール
2017年12月14日(木)神奈川県・パシフィコ横浜 国立大ホール
2017年12月16日(土)愛知県・名古屋国際会議場センチュリーホール
2017年12月17日(日)愛知県・名古屋国際会議場センチュリーホール
2017年12月23日(土・祝)岡山県・岡山市民会館
2017年12月24日(日)広島県・上野学園ホール
【米津玄師 2018 LIVE / Fogbound】
2018年01月09日(火)東京都・日本武道館
2018年01月10日(水)東京都・日本武道館
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