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2017/07/10

女王蜂【A】“何者にもなれる者”が架空のコロニーから飛び立つとき

 夏、規律の取れた集団生活を送ることで知られる蜂のコロニーは少しずつ拡大していき、その中心にいる女王蜂も繁殖のピークを迎える。働き蜂をあごで使いながら悠々自適に生きているようにも思える女王蜂だが、外に出られるのは交尾のときだけ。守られているのではなく、いわば種を残すという役割のためだけに幽閉されているのである。

 2009年に結成された女王蜂もまた、目に見えない架空のコロニーから抜け出せずにいたのかもしれない。世間離れした煌びやかなビジュアル、奇怪で過激なサウンドとリリックで「サブカル」「メンヘラ」と揶揄され、それ故に狂信的なファンがついたのも確かではあるが、外の広い世界へ向かうというよりは、内の深い世界へ沈み込む音楽を鳴らし続けてきた。それが今年、4月5日にダンサンブル且つキャッチーな最新アルバム『Q』をリリース。翌日から全国ツアー【A】を始め、7月2日には東京・Zepp DiverCity(TOKYO)でファイナル公演を開催。今までと変わらない暗黒面をちらつかせながらも、より開かれた精神性で「QUESTION」に対する「ANSWER」を提示してみせた。

●QUESTION by 何者でもない者

 この日のチケットはSOLD OUT。開演時間を少し過ぎたところで会場に流れていたレディー・ガガ「JUDAS」のヴォリュームが一気に上がり、ステージ上のスクリーンに浮かんでいた「Q」の文字が砂のように崩れ落ちる。そしてこのタイトルで繋がりを持った『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』より、ティンパニのリズムが特徴の挿入曲「Serenity Amongst the Turmoil =3EM04=」が鳴り響き、正に「使徒、襲来」的な雰囲気でメンバーのやしちゃん(b)、ルリちゃん(dr)、ひばりくん(g)、サポートメンバーのみーちゃん(key)が登場。マイクスタンドの横にあるお立ち台の上で一人ずつお辞儀をし、それぞれの配置についたところで、ルリちゃんの力強いカウントから「DANCE DANCE DANCE」がスタートした。

 イントロ時点ではまだアヴちゃんの姿はなし。歌声だけが聞こえてくる状態だったが、本格的なスタートを切る前にハンドマイクで歌いながら颯爽と姿を現した。その後はギター・カッティングが冴える「金星」から、裏打ちと言葉のリズムが軽快な「しゅらしゅしゅしゅ」と、最新アルバム収録曲を立て続けに演奏。ステージは鮮血を撒き散らしたような真っ赤に染まり、ここでアヴちゃんが「どうもこんばんは女王蜂です」と早口のデスヴォイスで挨拶しながら天を仰げば、フロアを埋め尽くすカラフルなジュリ扇もより激しくはためいた。

 ライブの定番となっているこのジュリ扇、抜けた羽根がひらひらと舞い散る様も合わせてひどく夢幻的だ。後にアヴちゃんは「見てると色彩感覚ぶっとぶねんな。涅槃っていうか。すっごいなあ、元気いっぱい」と嬉しそうに語るが、バンド側の色彩感覚も相変わらずのぶっとび具合である。メンバーはそれぞれ異なる色のスーツを身にまとっており、そこに自ら縫い付けたという宝石が反射。ライティングもジュリ扇を超える色彩の豊かさで、更には天井のミラーボールも回ることになる。

 この現実離れした光景を形容するに相応しい「ギラギラ」なども含め、合間に「ありがと~」「東京、出来上がってますねえ」などと短く語りかけはするものの、10曲目まではほぼノンストップ。ようやく落ち着いて「ありがとう。どうもこんばんは、女王蜂です」と口を開いたアヴちゃんは、大勢の人が一緒に歌を口ずさめるほど『Q』を聴き込んでくれたことに対する喜びを語った上で、「ただ、これから歌う一曲だけは、どうしても一人で歌いたい」と一言。「『一つになれるか~!』って言葉もよくありますよね。いやあ、そんなね、まぐわっても愛し合っても一つにはなれませんからね。でも一人にはなれるんじゃないかなあと思って。いまから世界一静かにしてください」

●ANSWER by 何者にもなれる者

 世界一静かで、ほとんど光の射さない場所、“生命の母”である海の映像を背後にアヴちゃんが一人歌い上げたのは、新作アルバムのタイトル曲「Q」である。昔から“男”としても“女”としても生活し、人種的にも宗教的にも様々なルーツを持つため、自分が何者であるのかを考え続けてきたというアヴちゃん。これまでの作品には“女”の部分が色濃く反映されていたが、この「Q」では初めて自らに潜む“少年性”を表現したという。彼女、と書くべきか、彼、と書くべきか、更に悩むところだが、今のアヴちゃんにあるのは“何者でもない者”ではなく“何者にもなれる者”としての強かさ。童謡「かごめかごめ」の一節を取り入れるアレンジで演奏された「告げ口」は怨念を凝縮して煮詰めて固めたような楽曲だが、ここでも割り切ったような爽快さが感じられるほどである。

 その後は再びダンスチューンが続き、アヴちゃんも「一緒に歌ってもらえますか?」と、最前列の男性客からジュリ扇を拝借。映像演出が取り入れられた「失楽園」ではストリッパーのごとくお立ち台の上でズボン脱ぎ捨て、露になった二本の長いおみ足で軽やかなステップを踏んだあと、「衣装、よかったでしょう? 脱ぐのがすごく楽しくなっちゃって」と笑顔を浮かべた。ここでのMCは本人の希望もあり詳しくは書かないが、自身がもらったという手紙の内容を紹介し、ルール、法律、倫理などの話を交えながら、自らの想いを数分に渡って吐露する。「ダイバーシティ、埋めれるんやもん。マイノリティじゃなくて、サブカルじゃなくて、メインカルチャーやろ?」という言葉から演奏された「雛市」、サビにある<強く生きていかなきゃ>という言葉にはある種の絶望が宿っているからこそ、真実味も増して多くの人に届くのだろう。

 大迫力の本編エンド後、アンコールでは真っ白な衣装に着替えたアヴちゃんが一人で登場。背中の開いたツアーグッズのTシャツにミニスカートというフェミニンな格好で、これにはオーディエンスも大喜び。そしてスペシャルゲストとしてDAOKOを呼び込み、仲睦まじげにじゃれ合ってから、「ぶち上げやで!“ドン・キホーテ”サウンドやからね」と、この日2曲目に演奏された「金星」のアルバムヴァージョン「金星 Feat.DAOKO」を披露。デビュー前から女王蜂のファンでライブにも来ていたというDAOKO、袖では踊りながら泣いていたというが、彼女もまた観客から借りた青いジュリ扇を優雅に振りつつ堂々としたパフォーマンスをしてみせた。

 最後の2曲はメンバーもステージで演奏し、アヴちゃんはレスポールをかき鳴らす。『Q』のスタートを飾る「アウトロダクション」ではステージ後ろの暗幕が開き、一面が様々な色に輝いた。目に映るものすべてが極彩色。この日一番の華麗な演出でライブを締め、アヴちゃんは「この景色をよく覚えていようと思う。このツアーで初めて、女王蜂、大きくなりたいなって思いました。これからも一つ、共犯で。どうもありがとうございました」と深く頭を下げてから去っていった。スクリーンには「A」の文字。実はツアー初日に本当の「QUESTION」をもらったと感じ、それを「ANSWER」に変える手立てを探りながら15か所を回ってきたのだという女王蜂。つまり自分たちが問うのではなく、自分たちが問いに答えようとしてきたのだ。これこそが「A」ではないだろうか。今、女王蜂は架空のコロニーから飛び立ち、外の広い世界へ向かい始めたのである。

TEXT:佐藤悠香
PHOTO:中野修也

◎ミュージックビデオ
「DANCE DANCE DANCE」https://youtu.be/cv1usM2FyZM
「失楽園」https://youtu.be/c-xz7Wm9x38
「Q」http://youtu.be/7S4s2Dnce6o

◎リリース情報
アルバム『Q』
2017/04/05 RELEASE
<初回生産限定盤>(CD+DVD)
AICL-3289,90 / 3,800円(tax in)
※トールケース、アヴちゃんによる書き下ろしマンガを含む全52ページ豪華ブックレット仕様
<通常盤>(CD)
AICL-3291 / 2,800円(tax in)

◎ライブ情報
【全国ツアー2017「A」番外編】
■~蜂月蜂日~
2017年08月08日(火)東京キネマ倶楽部
■~失楽園~
2017年09月02日(土)札幌PENNY LANE 24
■~雛市~
2017年09月10日(日)神戸VARIT.

【女王蜂主催対バン企画】
■「蜜蜂ナイト3 ~今夜は劇場!姉妹対決~」
2017年09月08日(金) 福岡・DRUM LOGOS
出演者:女王蜂、チャラン・ポ・ランタン
■「蜜蜂ナイト3 ~フジヤマ・デスコ!~」
2017年09月14日(木) 東京・LIQUIDROOM
出演者:女王蜂、SILENT SIREN
■「蜜蜂ナイト3 ~わかってんだよ、ばりエモい~」
2017年10月06日(金) 大阪・なんばhatch
出演者:女王蜂、キュウソネコカミ
■「蜜蜂ナイト3 ~私が売る春、僕は青い春~」
2017年10月12日(木) 東京・LIQUIDROOM
出演者:女王蜂、SUPER BEAVER

◎公演概要
ミュージカル【ロッキー・ホラー・ショー】
演出:河原雅彦
振付:牧宗孝(MIKEY from 東京ゲゲゲイ)
音楽監督:ROLLY
フランク・フルター:古田新太 
ブラッド:小池徹平 
リフラフ:ISSA 
ジャネット:ソニン  
マジェンタ:上木彩矢 
コロンビア:アヴちゃん(女王蜂)
ロッキー:吉田メタル
ファントムたち:東京ゲゲゲイ【BOW・MARIE・YUYU・MIKU】戸塚 慎 若井龍也 佐藤マリン 
ナレーター:ROLLY 
エディ/スコット博士:武田真治 
【MUSICIAN】
ROLLY(g)、武田真治(sax)、大塚 茜(key)、女王蜂【ひばりくん(g)・やしちゃん(b)・ルリちゃん(dr)】、ながしまみのり(key)

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