2017/06/12
People In The Boxがデビューミニアルバム『Rabbit Hole』をリリースしてから早10年。2017年1月に10周年記念アルバム『Things Discovered』がリリースされ、5月からはリリース・ツアー【10th Anniversary『Things Discovered』release tour】がスタートした。
ファイナルとなった6月3日の東京・STUDIO COAST公演では、「People In The Boxっていうものを純粋に取り戻すっていう、そんなツアーになったんじゃないかなあと思ってるんですけど、それは今日、終わってみないとわかりません」と呟いた波多野裕文(vo,g)。いざ、終わってみて思う。謎だらけだった。つまりPeople In The Boxを純粋に取り戻すことができるツアーだったということである。
●「あれはなんだったんだろう」二重構造の謎
不規則な時計の音から始まるおなじみのSEが流れ、いつも通り颯爽と登場したメンバー。波多野も福井健太(b)もよく楽器を持ち替えるため3ピースにしては機材が多いのだが、STUDIO COASTの広いステージにおいても中心に小ぢんまりと配置。どこのライブハウスでもずっと同じ距離感でやってきたという彼ら。全体像を捉えるには丁度よく、だからこそサウンドの広がりをより強く感じられるのだとも思う。
SEが止んで最初に演奏されたのは、その開放的な展開がライブの始まりにふさわしい「月曜日 / 無菌室」。そして「People In The Boxです。よろしくお願いします」という挨拶に続き、『Things Discovered』よりメロディの美しさが際立つ「木洩れ陽、果物、機関車」、TVアニメ『東京喰種 トーキョーグール』のエンディングテーマとしても知られる「聖者たち」を一気に披露。大きな歓声と拍手には波多野も笑顔を浮かべ、この日については「ツアーファイナルということなんですけど、案外、ファイナル感が僕らの中になくて。やっぱり『Things Discovered』っていうアルバムの性質が。未だにこう、あれはなんだったんだろう……っていう。でもね、本当に問いかけるアルバムだったと思うんです」と語っていた。
正に言葉の通りだろう。新録アルバムとベスト盤の2枚から成る『Things Discovered』。哲学的でコンセプチュアルな作品が多い彼らにしては聴きやすくまとまっており、手に取りやすい作品ではあるが、素直に“ベスト盤”と呼ぶには少々マニアックな選曲のため、波多野も呟いた通り「これはなんなんだろう」と首を傾げるファンも多かった。リリース・ツアーも一般的なそれとはかけ離れた内容となり、今作からセットリストに組み込まれたのは僅か7曲。なんと全体の半分以下である。
リズミカルなライブの定番曲「ニムロッド」などを演奏したあとは、山口大吾(dr)の「ココアってあるでしょ? で、『ミロ』って飲みものあるじゃん? 調べるとさ、麦芽飲料なのね。麦芽……新曲やります」という謎の流れから新曲が3曲も続くことに。ベースラインが特徴の不穏な雰囲気漂うプログレ風の新曲、People In The Boxが得意とする変拍子とメンバー全員の合唱がこれもまた斬新な新曲。創作意欲に溢れているから作品を出す、という従来の考え方とは逆らしく、発表されていない新曲がとても多い。
これに関して波多野が「このツアーでもずっと新曲をやってきたんですけど、東京はイベントとかでもやってるんで、やっていないやつを優先的にやったら結構ポカーンとなるような感じの曲が……」と苦笑すれば、山口からは「新曲ってそもそも聴きたいの?」という疑問が。会場から「聴きたーい!」と声が上がると、波多野はすかさず「新曲、聴きたいって言われると本当やりたくなくなっちゃうんで……聴きたくないっていうのがすごく欲しいです。聴きたい? 聴きたくない? 聴きたくないよね? ……新曲やります」
●「これからも音楽だけを大事に」抜けられない深い沼
愛用のキーボード「Nord Electro 3」の弾き語りから始まる新曲のあとは、山口の頭からどうしても離れないらしい『ミロ』のトークを挟みつつ、『Things Discovered』より各メンバーが手がけたインスト楽曲をすべて演奏。バンドの実験的な面が強く押し出される波多野プロデュース「プレムジーク 9月 / 東京」、即興的な演奏が光る福井プロデュース「maze」、芯のある重低音と投げやりなメロディのユニークな山口プロデュース「矛盾の境界」。それぞれのパートに主張がありながら、どれかだけが目立つわけではなく、絶妙に保たれるバランス。長年3ピースで活動を続けてきたバンドの凄みが詰め込まれた時間となった。
なお、今回のツアーでは「こんばんは」によるコール&レスポンスを推してきたとのこと。山口と波多野に続いて、寡黙な福井までもが「みなさん、今日初めてしゃべります。こんばんは! ……以上です」と発し、これには会場も大いに沸いた。しかし濃厚なパフォーマンスと自由気ままなMCが繰り広げられてきたライブも終盤へ。「残り1曲となりました」と言う山口に不満の声が上がると、「わかりました! 3曲やって帰るぜ、よろしく!」と、本編ラストの「翻訳機」までは再びノンストップで駆け抜けた。
「翻訳機」での終演も綺麗な幕切れだが、期待に応えて再登場した3人。アンコールでは「これからも音楽だけを大事にやっていきます。これからもPeople In The Boxをよろしく」と、現時点で一番新しいというシンプルなバンド・サウンドから成る新曲を。そして真のラストはじゃんけんで決定。勝ったメンバーの選んだ楽曲を演奏するという試みで、この日は福井が勝利した。「新市街」――福井の加入後、現在の3人になってから初のアルバム『Family Record』に収録された楽曲である。
リリース・ツアーと銘打たれてはいるものの、『Things Discovered』を聴いて初めてライブに訪れた人には驚きも大きかっただろう。だが彼らはこうしてファンを翻弄し続けてきた。節目だからといって答えを与えるようなバンドではない。解こう、解こうとしている間に、また新しい謎を投げかけてくる。かくして10年。一度深い沼にはまってしまえば、抜け出すことは難しい。
PHOTO:Takeshi Yao
TEXT:佐藤悠香
なお、8月2日にはLIVE DVD『Cut Five』をリリースすることが決定。今作には今年1月27日に目黒パーシモンホールで開催された【空から降ってくる vol.9 ~劇場編~】全曲に加え、毎回大好評の山口によるスペシャル映像「ダイゴマンが行く!」シリーズ最新作の「空から蕎麦が降ってくる」も収録されている。
◎セットリスト
【10th Anniversary『Things Discovered』release tour】
2017年6月03日(土)東京・STUDIO COAST
01. 月曜日 / 無菌室
02. 木洩れ陽、果物、機関車
03. 聖者たち
04. 馬
05. 塔
06. ニムロッド
07. 新曲
08. 新曲
09. 新曲
10. プレムジーク 9月 / 東京
11. 土曜日 / 待合室
12. セラミック・ユース
13. maze
14. 矛盾の境界
15. 市民
16. 旧市街
17. 翻訳機
EN1. 新曲
EN2. 新市街
◎リリース情報
LIVE DVD『Cut Five』
2017/08/02 RELEASE
<DVD>CRBP-10059 / 3,704円(tax out.)
アルバム『Things Discovered』
2017/01/18 RELEASE
<初回限定盤>CD+文庫本 ※スリーブケース仕様
CRCP-40488/89 4,167円(tax out.)
<通常盤>CD
CRCP-40490/91 3,241円(tax out.)
◎ミュージックビデオ
「木洩れ陽、果物、機関車」Music Video(Special Edit):http://youtu.be/9mkgXNujCXI
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