2017/05/23
瑞々しさはそのままに、birdが還ってきた!
スプラッシュのようにキラキラと飛び散るリズムと歌声。馴染みのメンバーをバックに、アコースティックなサウンドで誰もが知っているナンバーを歌い上げていく、躍動的ながらもくつろいだステージ。
ゆったりしたパーカッションのリズムが心地好い潮風と波の音を引き込んでくる。まるで夕陽が落ちる南国のビーチのような空気感。birdを含む全員が着席して音を奏で、しっとりとしたナンバーでライブは始まった。
歌声が会場に響くと、自然と手拍子が鳴りだす。とてもリラックスした親密なムードで時間が流れ始める。潤い豊かなサウンドが身体に染み込み、ささくれがちだった気持ちまでもが心地好く緩んでいくのを感じる。シンプルで粒立ちのいい音の綾織り。
1999年のデビュー時にインタビューして以来、ずっと見つめてきたbird。彼女のしなやかな進化は、21世紀に向かって歩んできた日本の音楽の“最先端”を発信し続けてきたと言ってもいい。サンバ、ボサノヴァ、ソウル、ロック、沖縄、そして新世代ジャズ…。多様なリズムとメロディを取り込み、常にポジティヴで開放的なメッセージを歌い続けてきたbird。婚姻し、子供を授かっていく過程で、音楽表現にもグッと深みが増し、楽しいだけではないコクのある世界観を体現してきた彼女。今回のステージは、単なる「原点回帰」などでは決してなく、スパイラル状に一回りも二回りも上昇してきたbirdの、現時点での「到達点」と捉えた方がいいだろう。
2015年の傑作『Lush』まで、10枚のアルバムをリリースしてきたbird。その中には「SOULS」「BEATS」「空の瞳」といった初期の名曲から、最新作からの「リズムだけ残して」など、眩い輝きを放ち続けているナンバーがたくさん。また、懐妊を機にカヴァーした古謝美佐子の「童神」、当初は“鳥”名義で発売された「ファーストブレス」など、自身のライフスタイルの変化に呼応した曲も情感豊かで、彼女のシャープで繊細な感性が、常に時代の空気と連動しているのを感じさせる仕上がり。いつも僕たちに寄り添ってくれる彼女の歌は、まさに時を超えた存在感を発している。
いつものように裸足でステージに上がったbirdは、観客やメンバーと気さくにコンタクトを取り合いながら、自身の世界観を広げていく。軽快な曲での伸びのいい声は、僕たちをいつもワクワクさせてくれるし、シックなスロウ・ナンバーは、聴き手をホッとさせてくれる。肩肘張らないナチュラルな佇まいは、もはや彼女が発する“空気”と言っていい。だからだろう。ファンは気軽に声を掛け、birdもそれに反応する。彼女はいつも、僕たちととても近い距離にいてくれるのだ。
親近感溢れる語りも楽しい。演奏する曲のエピソードと共に日々の出来事から話が膨らんでいくbirdのMCは、彼女が僕たちと何ら変わらぬ日常を過ごしていることが、ヴィヴィッドに伝わってくる。そういった「当たり前」の日々の中で紡がれていく楽曲たち。そのリアリティこそが、birdの歌を聴く醍醐味だろう。
代表曲はもちろん、近年はステージで演ることが少なかった懐かしい楽曲も披露し、これまでのライブとは一味も二味も違う聴き応えを感じさせてくれた今夜のステージ。新旧の楽曲を新鮮なアレンジで聴かせながら、時間と空間を共有することの楽しさを満喫させてくれる。
後半は各メンバーのユーモラスな一面も垣間見られるソロ・パートを絡めながら、アップ・ビートなナンバーで畳み掛けていく。気が付けば多くの人が立ち上がって踊り出している。会場は高揚し、ハッピーな雰囲気に包まれていった。
そして、アンコールは“やっぱり”のあの曲と、“意外”なバラードが――。沸き立つ気分と深い余韻が混じり合いながら過ぎていった100分。ステージ後方のカーテンが開き、birdの声と星空が溶け合いながら、ライブは爽やかな後味と共にエンディングを迎えた。
大阪でも来月、6月20日に同じメンバーと同様のコンセプトでステージに上がるbird。みんなが聴きたいと思っている「あの曲」たちが、弾け飛ぶ水飛沫のようにフレッシュに届けられるのは間違いない。だから、ぜひスケジュールを割いて欲しい。現在進行形の“素顔のbird”に逢える、またとないチャンスだから――。Let’s enjoy!
◎公演情報
【bird Premium Acoustic 2017】
ビルボードライブ東京 2017年5月18日(木)※終了
詳細:https://goo.gl/oedagX
ビルボードライブ大阪 2017年6月20日(火)
詳細:https://goo.gl/DBf5O7
Photo:Yuma Totsuka
Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。沖縄や九州は梅雨入りし、全国的にジメジメしてくるのも秒読みの段階。ときには鬱陶しさを感じるこの時期だからこそ、スッキリ爽やかな白ワインか、じっくりコクのある赤ワインを堪能したい。例えば白なら冷涼なドイツのリースリング、赤なら話題のクロアチアやモルドバなど旧東欧の地ブドウ品種。どちらも土地の個性がしっかり表現されているので、口にするだけで生産地への旅気分に――。夏のバカンスまでもう一息のこの季節だからこそ、心地好いテロワールに想いを馳せながらワインを飲むのも、楽しみ方の1つ。
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