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2017/02/03

ジ・インターネットのフロント・ウーマンが初のソロ作『Fin』で披露した“王道ソウル・シンガーとしての魅力”(Album Review)

 シドのソロ・デビュー・アルバム『Fin』が素晴らしい。自身のバンド=ジ・インターネットのシンガーとして、既に確かな支持層を獲得してきたシド・ザ・キッド(本名シドニー・ベネット)ではあるけれども、外部プロデューサー(メロー・Xやヒットボーイといった、インディとメインストリームの境目を軽やかに行き来する同世代アーティストとの共鳴は頷けるし、バンドメイトのスティーヴ・レイシーも参加)との共同作業の中でシドという個性を浮き彫りにしてゆく作風だ。

 とりわけ、オルタナティヴで急進的な表現が強調されることの多かったジ・インターネット作品と比較すると、ソロ作『Fin』は他アーティストと共有する時代感覚が注ぎ込まれていながらも、シドのソウル・シンガーたる王道感がそこかしこに見えてくる。しかも、これまでのシド像を裏切るようなものではなく、とてもナチュラルで納得のいく王道感なのだ。バンド作品の端々に、あるいは生のステージのある瞬間に、王道シンガーたり得るシドのポテンシャルを感じ取ってきたファンには、念願叶ったアルバムと言えるだろう。

 リード曲として年明けにMVも公開された「All About Me」は、VANSのスニーカーを履いたシドが屈み込んだ姿勢から平熱のラップソングを切り出すという、つまり我々が知っているシドをありのままに伝えるナンバーだった。仲間たちや、支えてくれる人々によって自分自身が規定されてゆくということを真摯に綴った、とてもシドらしい自己紹介ソングとなったわけだ。この曲は、スティーヴ・レイシーによるプロデュース。

 続いて音源がインターネット上に公開された「Body」は、ロマンスの甘い官能を歌い上げてゆく美しいナンバーだ。普通にラヴ・ソングを歌うだけでも仄かに背徳感が立ち上るシドの歌を、トラックが見事に演出している。プロデュースはメロー・Xによるもので、エレクトロニックなサウンドを駆使しながら生の質感を引き出す手腕に定評があるアーティストだ。以前にはジェシー・ボイキンス3世との共作でエレクトロ・ソウルの新時代を示していたし、昨年大ヒットしたビヨンセのシングル「Sorry」にも携わっている。

 また、「Smile More」や「Insecurities」といった楽曲群では、前述の2曲よりも更にオーガニックな手応えのトラックに乗せて美声を届けており、アルバム全編に深い味わいをもたらしている(とりわけ「Insecurities」は、予想外のユーモラスな展開を見せて面白い)。レズビアンであることを積極的に自己表現の中に取り入れてきたシドは、ビヨンセのような現代型フェミニストの姿勢とは異なっているけれど、あくまでもシドらしい、魅惑的なソウル・アルバムを完成させたということだ。(Text: 小池宏和)

◎リリース情報
アルバム『Fin』
2017/02/03 RELEASE
輸入盤
iTunes:https://itunes.apple.com/jp/album/fin/id1196828421

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