2017/01/24
ステージに上がると同時に、メランコリックな旋律に乗せて絞り出した内省的なファルセット・ヴォイス。その瞬間にすべての観客の心が激しく揺さぶられ、鷲掴みにされる――。
R&B、ヒップホップ、そして新世代ジャズ――ジャンルを超えた多くのアーティストが今、必要としている“時代とリンクした声”。かつてはネオ・ソウルの逸材としてディアンジェロやコモンに才能を認められ、近年はケンドリック・ラマーも絶賛しているシンガー・ソングライターのビラル。2001年のデビュー以来、オリジナリティ溢れる5枚のアルバムをリリースしているだけでなく、豊富なゲスト・ワークのキャリアを持つ彼が、約10年ぶりとなる来日公演をビルボードライブ東京で披露した。今回はそのカリスマティックなステージをご報告したい――。
フィラデルフィア出身。ジャズを聴いて育った彼は、ザ・ルーツのクエストラブたちに認められ、地元の音楽集団=ソウルクエリアンズに加入。独特の美意識に裏打ちされた繊細なエモーションとセンシティヴな感性を滲ませる歌声は、音楽プレスから“黒いデイヴィッド・ボウイ”と称賛され、着実にファンを増やしていった。
そんな彼が日本で久々に行うパフォーマンス。ネオ・ソウルのファンはもちろんのこと、それ以外の、例えばロバート・グラスパーやエイドリアン・ヤングの作品を通してビラルを知った人たちにとっても待望のステージ。今回の来日はちょっとした“事件”と言っていいだろう。
全身から強烈に放たれるカリスマ性に満ちたオーラ。オーソドックスな4人のバンドとサイド・ヴォーカルに迎えられるように登場したビラルは、持ち前のしなやかな身のこなしとセンシティヴな声、そして凄まじいほどの集中力で「ソウル・シスタ」や「オール・マター」「ラブ・ポエムス」「サテライツ」といった代表曲をドラマティックに歌い上げていく。会場には熱狂的なファンが詰めかけ、あちらこちらから艶めかしい溜息が聞こえてくる。スター性と実力を兼ね備えた彼の存在感が遺憾なく発揮された今夜(23日)のライブ、即座に明日も観たいと思わせてくれる見どころ、聴きどころ満載の鳥肌が立つような内容は、“現代最高のR&B”と呼ぶにふさわしい。モダンな音楽性とディープな表現力がタイトに繋ぎ合わされた、まさにオンリー・ワンのショウだ。
ヒップホップ的なビート感覚と濃密なヴォーカル・ワークによってステージが進行するにしたがい、会場には妖艶な空気が漂い、確実に満ちていく。演奏も次第に熱を帯び、シャウトや即興的なラップを交えながら上り詰めていくビラルの歌声は、やがてカオスに突入していく。その密度の濃さは驚嘆するほど。彼の歌が多くのアーティストから求められている理由が、鮮烈な手応えと共に理解できた。
終盤には幻想的でスピリチュアルなムードを纏ったレゲエやレイドバックしたスロウ、さらにはリズミックなスキャットを絡めたジャジーなナンバーまで披露し、幅広い表現力を余すことなく発揮したビラル。客席は最後まで彼に完全に飲み込まれ、喝采と静寂を繰り返していた。
前回のステージより格段に進化し、カリスマティックな存在になっていたビラルの、凄まじく濃密な90分。彼の公演は今日、24日にも2ステージ予定されている。約10年ぶりとなる待望の来日を果たしたビラルこそ、今、最も見逃せないステージなのは間違いない。さぁ、彼のライブを体験する準備はできていますか?
◎ビラル公演情報
ビルボードライブ東京 2017年1月23日(月)~24日(火)
公演詳細:https://goo.gl/VTb9Zp
Photo:Masanori Naruse
Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。まだまだ寒さが緩んでくれない1月の後半。こんな時季には、ザ・スタイリスティックスのレポートのときにご紹介したアマローネと共に、イタリア・ワインの完成形の1つとして名高いブルネイロ・モンタルチーノがマスト。トスカーナ地方で造られるサンジョベーゼの大粒(グロッソ)だけを使った、凝縮感とバランス感覚に富んだ仕上がりは、極上のフィネスを堪能させてくれる。身体が温まるジビエ料理などと共に、ぜひ!
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