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2016/11/29

【Desert Daze 2016 イベント・レポート】テレビジョン / フォクシジェン / プライマスが出演

 2012年に開催され今年で5回目となるミュージックフェスティバル【Desert Daze 2016】。Deap Vallyのジュリーと彼女の夫でJJUUJJUUのフィルがホストを務め、カリフォルニアのデザートホットスプリングス近郊で開催されていたが、今年はジョシュアツリー国立公園の近くに会場を移し開催された。

 このフェスティバルの特徴は、出演アーティストにインディ・ロック、サイケデリック色が強く、観客は出演アーティスト以外のアーティストや、モデル、デザイナーなども多い。コーチェラなどの有名フェスに参加するよりアンダーグラウンドを好む人達がこのフェスを気に入り、口コミで広がった。また個性的なファッションのいわゆるヒップスターが多いのも特徴の一つである。会場は4つのステージと、ジョシュアツリーを背景にキャンピングサイトからなり、オーガニックフードの屋台や、ヴィンテージショップ、サイキックショップなどが並んだ。

3日間開催された同フェスの土曜日、日曜日の模様をレポートする。

Cherry Glazerr
LAのインディポップバンド。ファッションデザイナーのエディ・スリマンに気に入られサンローランのファッションショーで演奏した経歴を持つ。リードシンガーでギタリストで若干19歳のクレメンタインが「ファックイット」と叫びステージからダイブし観客の中でヒット曲「Grilled Cheese」と「Teenage Girl」を演奏。オーディエンスはショウがスタートした時から彼女の手中にあった。

L.A. Witch
LAの女の子3人からなるロックバンド。オープニング・ソングの「Kill My Baby」で数十人だった観客をたった1曲で数百人まで増やしてしまった彼女たち。サウンドは90年代のグランジを彷彿させ新世代の女性版ニルヴァーナといった感じで観客を魅了した。今後要注目のバンドである。

WAND
フロントマンでギタリストのコリー・ハンソン率いるロサンゼルスのサイケデリックロックバンド。去年リリースしたアルバム『Golem』がピッチフォークで7の高評価を得た彼ら。爽やかなルックスからは想像できないほど彼らのライブでの音はノイジーでヘヴィーなのに驚いたが、それだけでなく幻想的で官能な要素を持つドリーム・ドレンチ・ポップと言えよう。乾いた砂漠の昼下がりに「Fire on the Mountain」がマッチしていた。

JJUUJJUU
サイケデリックロックバンド。シンガーでギタリストのフィルは妻であるDeap Vallyのジュリーと共にこのフェスのホストを努めている。フィルの伸びのあるハイトーン・ボイスとギターウイザードジャムに観客は崇拝しひれ伏してしまう。そして彼らのステージセットは、リキッド・ライト・ショウ・アーティストのランス・ゴードンが絵の具を何色も使いガラスのプレートの上の液体と合わせモンタージュを作り曲に合わせ液体がステージ上で視覚的にもサイケデリックな空間を作っていて、彼らの曲と共に非常にめまいをおこさせ、現実世界からの逃避ができたのだった。

The Black Angels - Playing Passover
このフェスのレギュラー的な存在であるテキサス出身のサイケデリックロックバンド。活動歴と共に円熟味を増してきたネオサイケデリックの核である彼らがデビューアルバム『Passover』をDesert Dazeで全曲再現するスペシャルなセット。フロントマンでソングライターのアレックスの伸びやかなハイトーンボイスに、ギターのクリスチャンの重厚なリフ、バンドの紅一点のドラマーのステファニーが繊細かつ骨太なプレイでバンドの音に深みを加える。初っ端の「Young Men Dead」から観客のシンガロングが始まる。幻想的なサイケデリックとダイナミックなロックを幽玄なアレンジで結んだセットであった。

The Raveonettes
デンマーク出身のシャリン・フーとスーン・ローズ・ワグナーからなるデュオ。ステージ上に上がると幾つも垂れ下がっている白い帯を月の光が青白く照らす。シャロンとスーンが彼らのギターを鳴らしたのでアンプによって白い帯が揺れ「Endless Sleeper」が始まった。10年近く前に彼らを観た時はソフトなドリームポップといった印象だったが、バンドは従来の疾走感溢れるポップサウンドに硬質感を増したソニックノイズを加え深みを増したステージを魅せた。

THEE OH SEES
サンフランシスコのガレージサイケデリックバンド。太陽が沈み砂漠に夜がやってきた。サイケデリックでありながらパンクでローファイな秋のこないライブは、上質なサウンドにバンドとファンのエネルギーが爆発し最高にクレイジーでハイパー全開なのが彼らの売りだ。フロントマンでギタリストのジョン・ドワイヤーがギターをライフルを構えるようにヘッドを観客の方へ向けアンプから「Toe Cutter」のコードが放垂れた瞬間、観客がサークルモッシュが始まった。それはハンターが野鳥を捉える瞬間のようであった。

Primus
 サンフランシスコ出身のオルタナティヴロックバンド。シンガーでベーシストのレス・クレイプールは多様な音楽のスタイルを高度なテクニックで常人の遥か上を行くプレイをすることで知られている。バンドは今年1月のツアーの後、レスはショーン・レノンとのユニット、The Craypool Lennon Deliriumとしてツアーを行っていたので、Primusとしては約9ヶ月ぶりだ。

 ステージセットには2人の巨大なエアブロー宇宙飛行士のBuzz君とNeil君が並べられている。ファンにとっては顔なじみの2人だ。ステージの照明が落とされ薄紫のライトが2人を照らすとバンドが登場して「Those Damned Blue-Collar Tweekers」が始まった。レスは「Mr. Krinkle」ではおなじみの豚の顔の被り物をしてウッドベースを弓弾きする。

 彼の歌と超絶なスラップにインプロゼッション(即興)は常軌を逸していて、狂気のような空間を作り出す。観客は狂気の中にあるバンドの神がかり的なプレイに崇拝してしまう。その観客が崇拝しているレスがドナルド・トランプが「有名人なら女性をどうにでもできる。どの女の女性器もわしづかみにする』などと発言したことに対して「ハードウェアで認められるほど売れた歌を演奏してやる」と皮肉を言い、「Jerry Was a Race Car Driver”がスタートし、観客は緊張の糸が切れたかのように暴れ出し、それはラストの「Southbound Pachyderim」まで続いたのだった。

LA Luz
 シアトル出身4人組のガールズロックバンド2015年に発表したアルバム「Weirdo Shrine」をTy Segallがプロデュースしていることでも話題を呼んだ注目のニューアーティストである。ステージに上がった彼女たちはまばらにしかいなかった観客をたった3曲の間にクラウドサーフする光景を作ってしまった。ガールズパワーとサーフロックそして観衆のエネルギーは砂漠の陽気な雰囲気に見事にマッチしていた。

JennyLee
 WARPAINTのベーシストジェニー・リーのソロプロジェクト、JennyLeeとしてアルバム『Right On!”をリリース。Tシャツにボーイフレンドデニムの彼女がステージ上で小粋なエジプシャンステップを踏んで歌う「Boom Boom」や、ウィスパーヴォイスを活かし官能的に歌う「Her Fresh」、そして「Riot」ではステージになだれ込み天を見つめ地鳴りのように低く叫ぶように歌う。彼女は、曲ごとに変化することをソロワークを発表した時の自分自身への挑戦と語っていたが、この挑戦を観客とともに楽しんでいるようだった。

METZ
 カナダ・トロント出身の3ピースガレージパンクバンド。1曲目の「Headache」から観客のサークルモッシュで砂嵐が巻き起こる。ヘヴィでシリアスな轟音級のサウンドがファズサウンドがサークルをさらに巨大化させる。ボーカル&ギターのアレックス・エドキンズの静と動の激しい対比のようなギタープレイに、クリス・スロラッチの野太いベース、そしてヘイデン・メンジーズのパワードラムがバンドのスタイル。この日ドラムのヘイデンが特に最高で、彼は1バス・1タム・1フロアのシンプルな3点セットで凄まじい速さで高速連打するプレイは見もの。これでもかというほどパワフルだが正確で美しくもあり、バンドの極太のサウンドを生み出していて、Desert Dazeのステージではドラムスティックが2本もぶっ飛んだ。ほぼMCなしのハイパーハードコアで疾走する40分で、バンド&観客のエナジーを全開放するステージだった。

Deap Vally
リンジー&ジュリーのアメリカンロックデュオ。今年リリースしたアルバム「Femejismフェメジスム」はYeah Yeha Yeah’sのニック・ジナーとの共同プロデュース。セクシーなジャンプスーツに身を包んだリンジーがギターをかき鳴らしながら登場し観客にスタンドマイクを差し向け「イェアーー!」と叫ぶとジュリーがプラチナブロンドの髪を髪を振り乱しドラムを叩きつける。美しくワイルドな2人の掛け合いは観衆に興奮と恍惚をもたらし圧倒的な存在を見せつけた。

Pond
オーストラリア・パース出身のサイケデリックロックバンド。メインステージのトリ前の出演。すでに入りきらないほどの人が押し寄せステージを超満員にした光景を見ると彼らのカリフォルニアでの人気の凄さを改めて実感する。彼らのステージはいつも信じられないくらいダンス向きで、グラム・サイケ・ドリームロックを融合したライブバンドだ。砂漠の月夜の下踊りたくてうずうずしている観客にフロントマンのニック・アルブルックがギターを鳴らしチャーミングに踊ると観客のクラウドサーフを巻き起こす。途中ニックの友人がステージ脇から乱入し彼を抱きかかえ一緒に歌うというハプニングも。この日は新曲も2曲演奏しもうすぐニューアルバムも発表することを伝えた。

Foxygen
 サンフランシスコ出身サイケデリックロックバンド。メンバーはサム・フランス(Vo)とジョナサン・ラドー(G & Key)。2枚目のアルバムを出した後、去年解散が噂されていた彼らが新曲を従え記念すべきカムバックの場にこのDesert Dazeを選んで帰って来た!機材トラブルが発生しスタートが30分遅れるも多くのファンの歓声に迎えられ登場。今夜はバックバンドにホーンセクションの5人のブラスも新たに入り、ステージは新旧の曲を2部構成に分けて演奏するスタイル。前半は1stを中心に2ndを合わせた構成だった。

 以前はフロントマンのサム・フランスがいきなり上半身裸で登場しハイキックを炸裂し観客側へダイブしたりと破天荒なイメージだったが、この日のサムはハイパーパフォーマンスとメイキャップを封印しいささか大人し目に登場したが、ステージを右往左往し観客を煽った。

 「We Are the 21st Century Ambassador of Peace & Magic」、「San Francisco」、「Shuggie」、 「On Blue Mountain」を演奏後、メンバーは一旦ステージから去りサムとジョナサンがフォーマルなジャケットを着用して登場し2部のスタート。アルバム発表前の正真正銘初お披露目の新曲6曲を披露。コーラスにジョナサンのGFが加わり、彼のピアノにブラス隊がコラージュすることでよりホーンセクションが際立つ。そしてサムのパフォーマンスはユーモア、愛、怒り、悲しみなどのエモーショナルを強調し、そこにバンド・コーラス・歌詞(台詞)が結合ししロッキーホラーショウの問答無用のロックミュージカルを観客は堪能したのだった。

Television
 1973年結成のNYパンクを代表する伝説的バンド。フロントマンでギタリストのトム・ヴァーラインの文学的な歌詞は30年以上経った今も古びれることはなく世代を超えミレニアムのファンにも影響を与えている。

 ステージに登場したトムは多くの観客を見て少し感動しているように胸に手を当てた。
最前列にいるファンは彼らの代表作「Marquee Moon」の初版LPを持っている人や、『I’m from LONDON』と書いてあるボードを掲げている人もいて、この機会がどれだけ価値のあるものかを容易に想像できた。オープニングは「Prove It」だったが、セットはほぼ1977年のアルバム『Marquee Moon』で構成されていた。

 ラストソングに観客の多くが待ち望んでいた「Marquee Moon」を演奏する。トムとジミー・リップのギターイントロに観客の歓声が沸き起こり、トムが微笑む。1曲が10分以上あるこの曲の間奏でのトムのギターソロ、そしてジミーとのギターの旋律、後のフレッド・スミスのベース、ビリー・フィッカのドラムのアンサンブルでバンドの演奏がどれだけ素晴らしいかを見せつける。

 あまりツアーを多くしない彼らが出演を選んだこの砂漠の中にある会場は、他のビッグフェスティバルのような明るく照らす照明はなくあるのは少しのライトとステージの照明だけだ。会場の周りにも建物などがないため日が落ちると辺りは真っ暗なのに、ステージだけが明るく照らされその頭上には大きな満月が。まるで月の光が夜の海に浮かぶ船を照らしているように見える。
漆黒の闇夜に浮かぶ月の下、最も美しく忘れがたい瞬間とはまさにこの一夜のことだった。

Text & Photo:ERINA UEMURA

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