2016/10/06
新国立劇場は「ニーベルングの指環」第1日『ワルキューレ』を10月2日より開幕した。昨年公演した序夜『ラインの黄金』と同じく、飯守泰次郎指揮、演出はゲッツ・フリードリヒが晩年にフィンランド国立歌劇場で手がけたプロダクションとなっている。
『ラインの黄金』から時が過ぎ、ヴォータンが女性と交わり産ませた「子供達」がこの『ワルキューレ』の主役となって運命に翻弄される。生き別れとなった双子の兄妹の許されぬ愛、誘拐の末に虐げられ辱められ生きて来た女が、愛を知ったが故に苛まれ乱れる様、神と神の息詰まる夫婦喧嘩と、愛娘の意図しない翻意に対する厳しい制裁、母という存在の強さーーこれらの要素が複雑に物語を横断し、ドラマティックに物語は進んでいく。
楽曲には多数のライトモティーフ(示導動機)が使用されており、ワルキューレやジークムントをはじめとした登場人物だけでなく、ヴォータンの槍やノートゥングの剣を表したり、嵐や雷などの情景描写など、さまざまな音のパレットが、私たちに舞台に隠された秘密を赤裸々なまでに教えてくれる。この複雑な楽曲の重なり合いを楽しむべく、飯守泰次郎がおもな示導動機(ライトモティーフ)をピアノを使って紹介している音楽講座動画が公開されているので、鑑賞の前に是非見ておきたい。
今回の上演にも、世界に名だたる最も旬なワーグナー歌手が集結。特に世界的なヘルデンテノールのステファン・グールドは、『ラインの黄金』ローゲ役に続いてジークムントで登場。その美声と圧倒的な存在感は、万雷の拍手とブラヴォーが1幕のカーテンコールで飛び出るほどの熱量をもって聴衆に迎えられた。グールドは今後『ジークフリート』『神々の黄昏』にもジークムント役で出演が予定されている。
ヴォータンは同劇場『サロメ』で圧倒的歌唱で聴衆を魅了したグレア・グリムスレイが登場。神の長としての威厳と神々しさと共に、翻弄される夫、父としての弱さと魅力を存分に印象づける名優でもある。ブリュンヒルデ役は、ワーグナー・ソプラノとして世界第一線で活躍するテオリン。ジークリンデは期待の若手ウェーバー、フリッカにはツィトコーワを迎えている。
2014年9月にオペラ芸術監督に就任した新国立劇場の飯守泰次郎は、ワーグナーの聖地であるバイロイト音楽祭に20年以上に渡って関わり、取り組んで来た希有な存在。就任後の開幕公演から『パルジファル』『さまよえるオランダ人』『ラインの黄金』『ローエングリン』と、世界に誇るべき水準でのワーグナー上演を行ってきた。この芸術監督のシーズン中を逃さず、この後続くワーグナー作品の上演、そしてヴァルハラの神々の美しい黄昏を見届けるためにも、新国立劇場に足を運びたい。文:yokano / 写真 撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場
◎公演概要
新国立劇場2016/2017 シーズンオペラ オープニング公演
ワーグナー『ワルキューレ』
2016年10月2日(日)~18 日(火)全6公演
会場:新国立劇場オペラパレス
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