2016/08/13
パキスタン伝統音楽の使い手達がカバーしたジャズが話題となった、サッチャル・スタジオの「テイク・ファイヴ」。彼らの挑戦の軌跡が、映画『ソング・オブ・ラホール』となって公開される。
YouTubeにアップされた「テイク・ファイヴ」は、その驚異的な超絶技巧を駆使し古典のセンスによって世界的な大ヒットとなり、100万を超えるアクセスを記録。これを見た天才トランペッター、マルサリスは、彼らとのセッション・コンサートを実現させようとニューヨークへ呼び寄せる。彼らを待ち受ける本場ジャズの厳しいリハーサルを乗り越え、無事に本番を迎えることができるのか、ハラハラドキドキのノンフィクション映画だ。
ジャンルを超えた音楽の美しさと多様性の喜びを体感できる一方、パキスタンの音楽家達の厳しい日常が描き出されるドキュメンタリー映画でもある。音楽を忌避するイスラムの宗教的価値観の元、世間の目をかいくぐるようにして生活し、拍手をもらうこともなく、演奏活動を続けてきた伝統の継承者達。
8月3日には映画『ソング・オブ・ラホール』公開記念としてイベント「パキスタンから世界へ!超絶演奏楽団サッチャルの魅力を語る」が開催され、サラーム海上(音楽評論家・DJ・中東料理研究家)、村山和之(中央大学・立教大学兼任講師)、シダダイキチ(シタール奏者)の3人が集った。
サラーム海上と村山和之の二人は、映画出演の演奏家達が集うサッチャル・スタジオで、「サッチャル・ジャズ」のセカンドアルバムのレコーディングに立ち会った二人。現地の空気と様子を、当時の写真と共に存分に語り、パキスタン音楽家の置かれている社会的背景の解説では、音楽家であることを隠さねばならないほどの世間の目線があると教えられた。
一方、イスラム化により廃れてしまったパキスタン音楽の伝統を継承しようと立ち上がった、イッザト・マジードのオーナーシップの強烈さは、2人の目にも大変印象的だったようだ。イスラーム化の影響で職を失った音楽家たちを自らの足で探し出し、オーケストラを結成。アビーロード・スタジオの協力を得て、パキスタンで最高の機材を揃えたサッチャル・スタジオを建設している。
少年時代にアメリカ国務省の文化外交プログラムでラホールを訪れたデイヴ・ブルーベックの演奏に感銘を受けジャズに目覚めたマジード。「テイク・ファイブ」のカヴァーを提案したのは、ジャズへのリスペクトあってのものだ。アメリカ、イギリス、カナダでiTunesのワールド・アルバム・チャート1位を獲得し世界的な大ヒットとなったアルバム「サッチャル・ジャズ」は、そのアビーロード・スタジオからエンジニアを招いて制作されている。
シタールやタブラなど、日本でも比較的見慣れた異国情緒のある古典楽器が奏でる超絶技巧のジャズは、その幸福な出会いによって聴く者見る者を間違い無く愉悦の瞬間に誘ってくれるだろう。そしてその奏でられる音楽の裏に流れる歴史と人生を、より鮮明に私たちに伝えてくれる映画でもある。8月13日よりユーロスペースほか全国順次公開。text:yokano
◎映画情報『ソング・オブ・ラホール』
8月13日よりユーロスペースほか全国順次公開
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