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2016/07/15

熊木杏里「子供に戻れない」と溢れる涙“ひとつの時代が終わった”象徴するツアー 残すは7/16追加公演

 人生を蒼い炎で燃やした歌で聴き手の心を震わせ続けている、唯一無二の女性シンガーソングライター 熊木杏里。ヤマハに移籍して初のツアー【熊木杏里 LIVE TOUR 2016“飾りのない明日”】が今春開催され、新時代突入を感じさせるアクトが繰り広げられた。

<「ひとつの時代が終わった」新しい熊木杏里の時代到来へ>

 同ツアーは最新アルバム『飾りのない明日』を携えて開催されたものだが、今作についてのインタビュー(http://bit.ly/29IwZSY)で彼女は「最近、自分の中ですごく思うんですけど、ひとつの時代が終わったと思っていて。たまに自分のナレーションが聞こえてくる、「ひとつの時代が終わった」「次の時代に到来するだろう」って(笑)。それを感じたのは、今回のアルバム『飾りのない明日』が完成したとき。沸々といろんな感情がわいてくる未来が、自分の中はどうなっていくのかが見えるなって。それが母になったからなのか、年齢的なものなのか、この感覚をどんな言葉で表現したらいいのか、全く分からないんですけど……とにかくひとつの時代が終わった」と語っており、それは今回のライブの要所要所からも感じ取ることができた。

<決別と覚悟「奇跡を夢見るほど 子供じゃないことくらい分かってる」>

 まだ7月16日のヤマハホールにて追加公演【熊木杏里 LIVE TOUR 2016 “飾りのない明日” extra show】を残しているので(こちらはバンド編成ではなく、アルバムのトータルプロデュースを担当した扇谷研人と熊木杏里だけのプレミアムなアコースティックライブとなる)この時点ですべては記さないが、ツアー本編のファイナルとなった名古屋ボトムラインで観たライブは、明らかにそれまでの熊木杏里とは異なる……というか、それこそ時代を進める彼女ならではの要素がいくつも発見できた。

 例えば、アニメ『Charlotte』最終話挿入歌として話題となった「君の文字」。坦々とループされていくメロディーとピアノの上で穏やかな風のように響く歌声が、終盤にさしかかりバンドサウンドの熱が帯びていくと共に立体的に感情を描き、秘めたる蒼い炎が表面化されていくかのようなストーリーは芸術的ですらあった。また、新アルバムの表題曲である「飾りのない明日」の「奇跡を夢見るほど 子供じゃないことくらい分かってる 惨めなくらい私はもう 現実にいるけど……望むことがある以上、この席を空ける訳にはいかないんだ」というフレーズを歌う彼女の声は、過去に戻れぬことに泣いているようにも、今現在を鋭く睨みつけているようにも、未来へ逞しく歩を進めているようにも感じ取れ、いつでも自分と対峙しながら必死に音楽を紡いできた熊木杏里というひとりの人間が、そんな自身のひとつの歴史の終焉を自ら表現し……、もっと分かりやすく書けば、大人になってしまった自分を受け入れた上で前へ進んでいこうとする様は、それでも歌い続けていくと決断した彼女の覚悟は、幾度となく涙を誘う。

<突然の涙「もう子供だった頃には戻れないんだな……」>

 大人になってしまった自分を受け入れた。と今しがた記したが、それを象徴するような場面が名古屋公演では見受けられた。

 戻りたくて 戻れない あの道は どんな夢でもつくれていた
 明日もきっと 知らない子供たちが 通る通学路
 戻りたくて 戻れない あの道で 幸せだけが歩いている
 今の暮らしの中では もう会えない とめどない毎日

 アンコールで「夏蝉」を歌った後、彼女は泣いていた。鼻をすすり、タオルに自分の顔をうずめて泣いた。まだまだ子供だった頃の熊木杏里によって綴られたひとつの歌が、あれから11年もの時を経た熊木杏里の胸に突き刺さる。「もう子供だった頃には戻れないんだな、そう思うと涙が出てきて……」そう言った後、彼女は「そこかい!」と自らツッコんでおどけてみせたが、別に泣いていたのは彼女だけじゃない。人によってはもうとっくの昔に味わったかも知れない、これから先の人生の中で味わうのかもしれない、どうしようもなく押し寄せる「ひとつの時代が終わった」実感が図らずもそこには表現されており、鼻先を過ぎ去っていく青春の匂いに涙が込み上げる。そんなシンクロニシティがこの瞬間、たしかに生まれていた。

<かつてのラストソング「バイバイ」をもう一度>

 そんな“ひとつの時代が終わった”を象徴するツアー。名古屋ボトムライン公演の最後に届けた曲は、2009年【熊木杏里 Autumn Tour 2009 はなよりほかに】同じく名古屋で行われたツアーファイナルの本編最後に披露し、先ほどの「夏蝉」同様にとめどなく涙を溢れさせた「バイバイ」だった。まだまだ子供だった時代の、言ってしまえば青春時代の真っ只中という感覚だったかもしれない頃のラストソングを、この日のラストソングとして久しぶりに弾き語る。今度は泣かずに歌いきる。実に熊木杏里らしい締め括り方、次へ向かう為のセレモニーだなと思った。その前に「夏蝉」で子供のように泣いてしまったことはご愛嬌ということにして、こんなにも人間臭いシンガーソングライターの転機に遭遇できたこと。そして、ここからまだまだ歌い続ける気満々の熊木杏里がそこにいることへの喜びは大きく、それはいつまでも鳴り止まない客席からの喝采が表現していた。

 熊木杏里の新時代。果たしてそこにはどんな歌が流れ、どんなストーリーが生まれ、どんな風に僕らを泣かしたり笑わせたり励ましたりするのだろう。7月16日 ヤマハホールでの追加公演含め、明日からの熊木杏里にもぜひ注目してほしい。

取材&テキスト:平賀哲雄

◎追加公演【熊木杏里 LIVE TOUR 2016 “飾りのない明日” extra show】
07月16日(土)ヤマハホール
OPEN 18:30 / START 19:00
チケット:全席指定¥6,480

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