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2015/11/02

Album Review: ブラジル発のユニークなSSW=ゼ・マノエウ 聴けば聴くほど、味わいが出る大人の音楽

 華麗に響くピアノのオブリガートと、独特の雰囲気を持つスモーキー・ヴォイス。ブラジルのシンガー・ソングライター、ゼ・マノエウは、広くて深いブラジル音楽シーンのなかでも、とりわけユニークな存在だ。基本的にはピアノを弾きながら歌うというスタイルだが、ありがちなピアノ・ロックとは一線を画している。ボサノヴァのようなウィスパー系でもなく、かといって朗々と歌うサンバでもない。どちらかというとシャンソンのように、とつとつと自然体で歌うストーリーテラーといった趣がある。加えて、鍵盤さばきも一筋縄ではいかない。クラシックやジャズをベースにしたテクニカルなタッチと、リズム・セクションやストリングスなど編成によって的確にアンサンブルを使い分ける。もちろん、シンプルにピアノのみでも十分にダイナミックだ。

 そんな彼の天才的なセンスが爆発した傑作といえるのが、最新アルバムの『歌、そして静けさ』だろう。タイトルにあるように、ヴォーカル・アルバムでありながら、室内楽のようなクラシカルなアレンジを施すことによって、静かなインストゥルメンタル作品を聴いているような感覚になる。冒頭の「甘い水」の一風変わったコード進行とメロディラインで未知なる世界に連れて行き、タイトル曲の「歌、そして静けさ」では、真夜中に空を駆け巡るような広がりを感じさせる。イサドラ・メロの清冽な歌声をフィーチャーした「帰還」などは、ヨーロッパの近代歌曲といっても信じてしまいそうなくらい凛としている。

 しかし、ただ静かなだけではなく、「おだやかな海」のドラマティックなオーケストレーションで一気にクライマックスを迎えるなど、メリハリの効いた構成も見事だ。かと思えば、「大きな空虚」に代表されるようなブラジルらしいせつないサウダージ感覚も持っており、至福の時間を生み出していく。ブラジルのサンバやMPBはとかく甘ったるくなりがちだが、彼はソフトでありながらもそこはビター・テイストでピリッと引き締めるバランスが絶妙。聴けば聴くほど、味わいが出る大人の音楽といえるだろう。

Text: 栗本 斉

◎リリース情報
『歌、そして静けさ』
ゼ・マノエウ
2015/09/16 RELEASE
2,592円(tax incl.)

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