2015/09/24
もはや「重鎮」と言っても差し支えないだろう――。
ヒップホップ界の最重要人物の1人であるコモンが『ビルボードライブ』8周年のプレミアム・ライブにキャスティングされ、キーボードとターンテーブルを含むバンド・スタイルのライブを展開した。ヴァイナルをスピンさせてビートを弾き出すターンテーブリストとメロウな旋律を奏でるキーボード・プレイヤーとの一体感を意識しながら、コモンはハンドマイクを握り締め、エッジの利いたリリックを鋭く発してくる。
米国イリノイ州シカゴ出身のコモンは、ヒップホップの核であるグラフィティ感覚のエンタテイメント性と社会の矛盾を告発するリリシスト/メッセンジャーとしての硬派な側面を絶妙のバランスで体現しているラッパー。その類稀なる存在感から、近年は俳優としての表現領域にも進出している、まさに“何でもあり”のヒップホップを象徴する存在だ。
音楽的にも、シンプルで骨太なサンプリング・ビートからエレクトロニカやロックの要素を取り入れた実験的な音作りまで、常にアグレッシヴに取り組んでいるアーティストだ。また、彼の言葉には常に明確な主張があり、それが“21世紀のニュー・ソウル”と言ってもいいほどの強いメッセージ性を備えているから、その動向が注目されている。
1992年にコモン・センスとしてデビューした後、現在の名前に改め、ローリン・ヒルやクエストラヴたちとのコラボを実現して一躍名を馳せ、ネオ・ソウル・ヒップホップ集団=ソウルクエリアンズと制作した2000年の『ライク・ウォーター・フォー・チョコレイト』が高く評価されたコモン。その後もカニエ・ウエストやファレル・ウィリアムスといった“時の人”をプロデュースに迎え、また最新作『ノーバディズ・スマイリング』では旧友のノー・アイ・ディと再びタッグを組み、“犯罪都市”としての地元シカゴの現状を憂う、メッセージ性の強い意欲的な作品をドロップし続けている。
そんな彼のステージは煌びやかな装飾とは無縁のシンプルなもの。常に物事の本質をえぐり出すコモンらしい、ヒップホップの核となる部分をオーディエンスに提示してくるライブ・パフォーマンスだ。その男気溢れるリリックと、コール&リスポンスを含むアクションに、会場は否応なくテンションが上がっていく。
いつのまにか、充分に成熟していたヒップホップという音楽が、現在のメインストリームにあるのが納得できるショウをエネルギッシュに展開していく。彼のステージはパーティであると同時に、まるで教会の牧師が伝えるプリーチにも似ている。この日はエンタテイメント性を重視し、観客の女性をステージに上げて一緒にダンスしたり、自ら客席に降りてラップしたり。しかし、決して軽はずみなアクションは取らない。クレヴァーなコモンらしい、抑制の利いたパフォーマンスが、とても印象的だ。
ターンテーブルのスクラッチとキーボードのサウンドを駆使したファンキーなビートに乗って、コモンのライムが、ときに機関銃のように早口で、ときに低音でリズミカルに吐き出されてくる。その言葉の抑揚に身体を委ねていると、まるで20世紀のファンクやファンキー・ジャズのサウンドと重なって聴こえてくるから不思議だ。終始、クールな目つきで会場の隅々まで見つめながら、コミュニケーションを意識しているアティテュードも、他のヒップホップ・アーティストとは貫禄が違う。アメリカという弱肉強食の国でサヴァイヴァルしていくために必要なしたたかさを身につけた彼の一挙手一投足がサウンドとシンクロし、ヘヴィに伝わってくるのだ。
果たしてコモンのコンシャスなメッセージはオーディエンスに伝わったのだろうか? 生活環境が異なり、人種差別などほとんど存在しない日本で、彼のメッセージの真意がどれだけ伝わったのかはわからない。ただ、これだけは断言できるだろう。コモンは現在のヒップホップ界で最高峰のエンターティナーであると同時に、最高のメッセンジャーであると。彼のライブを観たのは2回目だが、以前よりも格段に逞しさを増したパフォーマンスに、僕は完全にノックアウトされた。
さぁ、ダウンタウンの壁に殴り書きされたグラフィティを音声化したような彼のラップを全身で受け止めて欲しい。それこそが、真にヒップホップを味わう醍醐味であり、快楽でもあるのだから。
東京では24日、そして大阪では25日にライブが予定されている。シカゴ・ソウルの魂を引き継ぎ、硬派なアティテュードを真摯に貫き続けるコモンのショウを堪能する貴重なチャンスを絶対に逃さないで!
◎公演情報
BBL 8th Anniversary Premium Stage コモン
ビルボードライブ東京
2015年9月23日(水)~24日(木)
ビルボードライブ大阪
2015年9月25日(金)
Info: www.billboard-live.com
Text: 安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。夏の蒸し暑さも過ぎ去って、陽射しも風も心地好い最近、こんな季節には米国オレゴン州のピノ・ノワールがイチオシ。ブルゴーニュ・スタイルを意識しながらも若干、凝縮度が高く、なおかつ繊細でチャーミングな味わいが特徴。『BALLADROAD』などは手ごろなプライスで飲み心地もグッド。ぜひ、ディナーのテーブルに添えてみて。
Photo: Masanori Naruse
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