2015/09/04
オルタナ・ロック/オルタナ・カントリーの旗手として知られるシカゴの名バンド=ウィルコが、通算9作目(自主レーベルのdBpm Recordsからは2作目)となるフル・アルバム『スター・ウォーズ』をリリースした。アルバム・タイトルを初めて目の当たりにしたときにもニヤリとさせられたが、プリミティヴでノイジーなギター・サウンドが前面に押し出され、何かウィルコというバンドが若返りを果たしてしまったような、痛快な作風に仕上げられている。
もっとも、ウィルコの『スター・ウォーズ』は、シリーズ最新作の公開が待ち遠しい某スペース・サーガとは、タイトル以外の接点は見当たらない。「Random Name Generator」や「You Satellite」といった収録曲の歌詞やサウンドに、宇宙空間を思わせるイメージが広がっているくらいだ。それよりも、『Wilco (The Album)』(2009年)や『The Whole Love』(2011年)で、バンドの表現力が高まるにつれふくよかに壮大になっていったウィルコのサウンドが、まるで90年代の彼らを思い起こさせるほど、フレッシュなエネルギーに満ち満ちていることが驚きである。
90年代末から断続的に届けられて来た『Mermaid Avenue』シリーズ(ビリー・ブラッグとの共作で、伝説的フォーク・シンガーであるウディ・ガスリーが残した詩に曲をつけた作品集)が一段落したことや、2014年には結成20周年を記念したベスト盤やレア曲集をリリースしたこともあり、ウィルコは新章の扉をこじあける必要に駆られていたのではないか。2010年代に入ってからは頻繁に来日公演の機会も設けられてきたが、アヴァンギャルドな想像力とルーツ・ミュージックの記憶を両輪に走り続けてきたウィルコのステージは、この先にどんな道があるのだろう、と思えてしまうくらい、極まったものになっていた。
それが、この新作『スター・ウォーズ』では、まるでバックパック一丁で広大な宇宙に飛び出してしまいそうなほど、軽やかなものになっている。人の愚かしさも孤独も愛も胸の内に仕舞い込み、それをソリッドな楽曲の芯から滲み出させるようにしながら、新しいフェーズへと踏み出している。7月にこの作品を急遽フリー・ダウンロード公開した(現在はダウンロードを停止しているが、ウィルコの公式YouTube上では全曲ストリーム配信が継続されている)のち、オフィシャル・ホームページにはこんなメッセージが寄せられていた。
「音楽を無料で提供する立場にいられることはとてもラッキーだけれど、すべてのバンドや、レーベルやスタジオがそうでないことも熟知している。照明を点けたりマイクを使えるようにするために、音楽ビジネスは未だフィジカル作品の売り上げに頼らなければならない一面があるんだ。(中略)レコード店には、たくさんの偉大な音楽が待っている。ぜひ確かめてみて欲しいよ」。近年オススメのレコード・リストと共に届けられたそのメッセージは、『スター・ウォーズ』の手触りがそうであるように、未知の音楽と遭遇する興奮とスリルに満ちていた。日本盤は10/7リリース予定であり、今年初めにはデビューから7作目までのアルバムも、日本盤再発されている。
[Text:小池宏和]
◎リリース情報
『スター・ウォーズ』
2015/10/7 RELEASE
2,592円(tax in.)
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