2015/07/22
精巧に作られたおもちゃの宝石箱。おもちゃとは出来不出来の話というより、バラエティゆたかなサウンドが楽しめるということだ。よく見るとなかなか綿密に出来ているし、なによりもカラフルさが魅力で、見ていると人生が救われるような…とまでは言わないが、より朗らかな気分になる。the telephonesの活動休止前ラスト・アルバム『Bye Bye Hello』の第一印象はそういったものだ。
若いリスナーのために一応説明すると、“ロックで踊る”ことが今のような形でスタンダード化したのは実はそれほど昔のことではない。2000年代半ば、英国では“ニューレイブ”と呼ばれたロックで踊るムーブメントは、時間差を置いてここ日本にも飛び火し、ライブハウスやフェスの風景を変えた。インディ・ロックからエレクトロまで様々なジャンルが一緒くたにされる面白味が肝でもあったニューレイブ・ムーブメントの中でも、フランツ・フェルディナンドや彼らに続いた有象無象のディスコ・パンク勢にヴィヴィットに反応したのが当時のthe telephonesだった。彼らはパンクやハードロックとは異なるやり方で、日本のライブの現場にロック・リスナーの共同幻想--ポップ・ミュージックの果たしうる役割の一つ--を持ち込み、そして、それは恐らく彼らの想像していた以上に強力にシーンのルールを変えた。
そんな彼らが、役割を終えた、とばかりにこのタイミングで活動休止するというのだから、時代の流れを感じるのも無理はない。ただ、そうしたこちらのドラマチックな期待感からすると、本作はむしろさり気ない。何らかの別れの場面に際した者によく見られるたぐいの感傷はあるが、それよりも、自分たちの培ってきた音楽性を改めて聴かせたいという意志を感じる。特に、バンドのブレイクと並行してフロントマンの石毛輝が自身のソロワークで披露してきたエレクトロニカ経由の繊細なエフェクト使いは、アルバム全体の印象をとても柔らかいものにしている。あるいは各々の楽器のアレンジに対する構築的な意識も依然として高いし、かなりバンドの生演奏にこだわったアルバムだろうとも思う。その音色も、インパクト重視の所謂ドンシャリではなく、アナログライクとも言えるふくよかさがある。そうした要素の全てに、ミュージック・ラヴァーとしてのメンバーのこだわりを感じる。
プロダクションだけでなくソングライティングの面でも、本作はthe telephonesというバンドの(ともすると見過ごされてきた)音楽性に再度スポットライトを当てようとした作品だと言える。本作を聴いて連想したのはスマッシング・パンプキンズやミーカなど、どこか歪つだが、極めてポップな曲を書くアーティストたち。もっと言えば、キッチュだが偉大な英国バンド=クイーンの系譜に連なるバンドとして、改めて語られるべき余地があるのではないか? という少々飛躍したアイデアも沸いた。もちろん、それは今からでも遅くないだろう。
最後に、今となっては遅いことを一つ。今回の活動休止は間違いなくメンバーが前進するためのものだろう。ただ、失いそうなものが惜しくなるのは人情で、彼らがもしこのまま活動するならどんな未来があり得たのか。本稿を書くにあたって何度かそれを考えてしまった。そして、その時に気づいたのが、本作にあるような音楽愛好者としてのこだわりや美学こそが、実はその最大の障壁だったのかも知れない、ということだ。もっと大胆に(それこそEDMとか)にサウンドを乗り換えれば、次の展開も見えたかも知れない。だが、彼らはそうはしないバンドだった。そのことは、いつか彼らが戻る日が来ても忘れられるべきではないし、『Bye Bye Hello』を今よりほんの少しきらめいて感じさせるかも知れない。
文:佐藤優太
◎リリース情報
『Bye Bye Hello』
2015/07/22 RELEASE
[初回限定盤 紙ジャケット仕様(CD+DVD)]
TYCT-69083 3,500円
[初回限定盤 紙ジャケット仕様(CD)]
TYCT-69084 2,800円
※初回限定盤が終了次第切り替え
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