2015/07/01
下野竜也指揮、宮田慶子演出のオペラ『沈黙』が新国立劇場にて6月27日から30日まで全4公演、上演された。
オペラ『沈黙』は、隠れキリシタンを題材にした遠藤周作の同名小説のオペラ版。2012年にも、同劇場の中劇場で上演されたが、今回は会場をより大きなオペラパレスへと移し、初日の27日には多くの観客が客席を埋め尽くした。
まず幕が上がると、火あぶりの刑に処されている信者が並び、舞台に巨大な十字架が斜めに突き刺さっている。十字架が威圧感とともにステージを見おろし、その様子はまるで「神を信じるのか」と問いかけているよう。全幕通じて素晴らしい効果をもたらしたのが新国立劇場合唱団による合唱だ。冒頭から凄まじい迫力でキチジローを責め、神へ祈りを捧げ、最後は呻き声によってストーリーに一層のリアリティをもたせた。
本作はマカオの宣教師ロドリゴを中心に、キリスト教徒への容赦ない弾圧、そして信念と現実との間で板挟みとなる宣教師の苦悩が描かれたストーリーだ。ロドリゴは、キリスト教徒を救うべく日本へ密入国し祈りを捧げるも、想像以上の厳しい現実に愕然とし、さらに案内人として日本へ動向したキチジローの密告により、捕えられてしまう。初日のロドリゴは、前回の続投である小餅谷哲男。ロドリゴの心の揺れ動く様を描き通し、観客を瞬く間にストーリーに引きこんだ。そして、キチジロー役は同じく2012年でも好評を星野 淳。自分の命惜しさに踏絵に足を掛け、ロドリゴを裏切り、それでもなおロドリゴの周りから離れないキチジロー。星野は、緻密な演技によって人間のもつ弱さ、愚かさを見事に表現した。
そして、原作には存在せず、オペラ版で加えられた登場人物が、モキチの許嫁オハルだ。2人で添い遂げることを誓うも、モキチは役人に捕えられてしまい水責めの刑に遭う。そんな状況に半狂乱となってしまうオハルも素晴らしかったが、その後少しずつ聴こえてくる吉田浩之演じるモキチのアリアは、哀しいまでに美しく、劇場の空気を一変させた。神を信じることすら許されない時代を赤裸々に表現し、そして「信じるとは何なのか」を訴え続けた本作。普遍的なテーマであるにも関わらず、今、観ても新しく、衝撃的な3時間だった。
◎公演情報『沈黙』
指揮:
下野竜也
演出:宮田慶子
キャスト(6月27日):
ロドリゴ:小餅谷哲男
フェレイラ:黒田 博
ヴァリニャーノ:成田博之
キチジロー:星野 淳
モキチ:吉田浩之
オハル:高橋薫子
おまつ:与田朝子
少年:山下牧子
じさま:大久保 眞
老人:大久保光哉
チョウキチ:加茂下 稔
井上筑後守:島村武男
通辞:吉川健一
役人・番人:峰 茂樹
写真提供:撮影:寺司 正彦/提供:新国立劇場
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