2015/05/07
『Hard Candy』…この言葉を聞いて(見て)感慨に耽る人はとても多い。「まさに、私の青春そのものでした…」といった具合に。西海岸のシンガー・ソングライター(SSW):ネッド・ドヒニーの最新ライヴは彼が1976年にリリースしたその名作を再現する貴重な公演となった。実に素晴らしい企画だ。もちろん、彼にとっても初めての試みで、何十年も人前で演っていない曲を歌うという、ちょっとしたスリルも味わえるギグとなった。当然の如くファンの反応は相当なもので、1日しか行なわれない東京公演は直ぐにソールド・アウト。文字通りプラチナ・チケットと化していた。
ネッドの魅力は人間味溢れる歌声、見事な曲調の中に、ソウル、フォーク、そしてジャズのフィーリングが上手く解け合っているところにある。コードを分析すると結構難しいことをやっているし、都会的なR&B感覚もとても重要なエレメントだ。彼は今日までに幾多ものクラシックスを生み出しているが、その中でも三指に入るであろううちの2曲、「Get It Up For Love(恋は幻)」と「A Love Of Your Own」を収めたアルバムがこの『Hard Candy』だ。SSWファンからも、AORファンからも愛聴され続ける、まさに永遠の定番。それを生で体験出来るのだからこんな幸せな時間はない。
バックのミュージシャンはジミー・ハスリップ(b)、マイケル・ホワイト(ds)という西海岸を代表する名手に加えて、ここ最近人気を呼んでいるケヴィン・フローノイ(kb)の3人が受け持ち、ギターは全曲ネッド本人がプレイ。そしてその4人がステージに登場し聴こえてきた最初の音はケヴィンの弾く低音メインの重厚なシンセ・サウンド。そしてそこにネッドがアコースティック・ギターのカッティングを加えると早くも大きな拍手が。そう、『Hard Candy』のオープニングを飾る名曲「Get It Up For Love」でステージがスタートした。ジミーのベースもマイケルのドラムスももの凄くうねりまさにライヴ感満点。ネッドの声も実に調子が良い感じだ。続く2曲目はアルバムの2曲目「If You Should Fall(恋におちたら)」。そう、この日は1曲目から9曲目まで、アルバムの曲順通りに披露し、“2015年版『Hard Candy』”を堪能させてくれた。ネッドはギターを、アコースティック、エレクトリックと頻繁に持ち替え、また、曲順を間違えそうになったのか、1回持ち替え、さらに、「あ、そうだった」とばかりに元の方にまた戻す、そんな光景がこれまた微笑ましい。ちょっぴりたれた目の表情が、なんとも言えない優しさを醸し出し、ファンもそんな空間に酔いしれる。5曲目の「A Love Of Your Own」、そしてラストの「Valentine(It Was Wrong About You」の人気が特に高く、特に後者でのアコースティック・ピアノ+ブラシによるドラム・プレイが深く心に刻まれた。
そして続く10曲目からの数曲でまた新たなる感動が押し寄せてくる。チャカ・カーンもカヴァーした名曲「Whatcha Gonna Do For Me」を最初に披露してくれたのだが、原曲とは全く違う(キーも)、フォーキーでファンキーな最新版に仕上げている。さらに1973年の1stに収められた名曲「Postcards From Hollywood」、1993年の『Between Two Worlds』から「Too Late For Love」と続き、アンコールではギターのチューニングを少し変え、ソロで「The Devil In You」(1979年の『Prone』に収録)を披露。気が付いたらもう直ぐ1時間半というフル・ヴォリュームのショーとなった。誰もが至福のひと時を過ごし、ゆったりと、かつ、軽やかに帰路についたことであろう。
翌日フェイスブックにはファンとの2ショット写真が多く掲載されていた。ファンへのサーヴィス精神も流石の一語。また是非来年も来て欲しいし、もう一度「ネッド・ドヒニー plays HARD CANDY」を演ってくれたら、という思いも抱いてしまった。即完で見れなかった人がたくさんいたし、なにより、何度でも見たいと思わせるパフォーマンスだったから。そんな思いを込めたポストカードを東京からハリウッドに…送るのも悪くない。
Ned, we hope you’ll be back here very soon!!! We all love you and your music!
◎公演情報
ビルボードライブ東京
2015年5月5日(火・祝)
1stステージ 開場15:30 開演16:30
2ndステージ 開場18:30 開演19:30
Text:TOSHIKI NAKADA:中田利樹(Cool Sound Inc.)
Photo:Masanori Naruse
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