2015/03/19
表題曲はももいろクローバーZのメンバーが主演したとある高校の演劇部を舞台にした青春映画『幕が上がる』の主題歌。タイトルもそのまま「青春賦」とド直球。しかし、青春という言葉は、高校時代を中心に、だいたい中学生から就活前の大学生くらいまでの時期そのものや、そこで起こる出来事全般を指す“枠”のような言葉で、その具体的な中身は人によって様々だ。色恋に明け暮れる青春もあるだろうし、ただ友人と喋るだけで生産的なことはなにもしない青春もある。愉快な青春もあれば悲しい青春もあるだろう。だから本作のタイトルは本当は「“青春”賦」となるべきかも知れない。決して全ての青春を讃える歌ではない。カッコつきの青春のための歌だからだ。
楽曲は伴奏のピアノからしっとり始まる。曲調は全体的に中学や高校の卒業式で別れの挨拶代わりに歌う唱歌の類によく似ている。学校の唱歌のような、と言っても、シンプルな伴奏とコーラスしかなくて、誰にでも簡単に再現できるような曲ではない。むしろ熟練のアレンジャーである冨田恵一が本作に施した編曲はかなり成熟したもの。同じようにコーラス隊を招いた「猛烈宇宙交響曲・第七楽章『無限の愛』」のアレンジがインパクト重視のこけ威しだっと思えるほど、「青春賦」のコーラスアレンジは凝っている。その点だけでも「青春賦」は、ももクロの歌に託された“若さ”と、富田の成熟した編曲技術の共同作業のような曲だと言える。
特に驚くのは、一つのラインで複数メンバーの歌唱のバランスを細かく切り替えて作ったようなBメロのアレンジ。聴き方によっては、複数人の声を切り繋いで1ラインで聴かせているようにも聴こえる。複数のヴォーカルがいる場合、それぞれにパートやラインの単位で歌を割り振ることはよくあるが、このように細かく抜き差しする例はやはり希少だろう。それは単にサウンドの新奇性という意味でも興味深いが、最終的なアウトプットの印象で言っても、個々の歌い手のキャラクターによってではなく、チームとして歌っているイメージを補強しており、二重に優れたアレンジになっている。
仮にどこかの学校のクラスや部活で、この曲を歌いこなそうと思えば相応の練習が必要となるはずで、その意味で「青春賦」はポップスより合唱曲に近い。冒頭の話に戻せば、「青春賦」はすべての青春を讃えた歌ではなく、青春における努力や修練を美徳として讃える歌なのだ。そして、それは同時に、個の歌ではなくチーム=コミュニティの歌でもある。そのような曲がポップスとして成立していることに、時代の厳しさを重ねてしまうのは、さすがに筆者のバイアスだろうか。
シングルの2曲目以降はすべて映画の挿入歌で、「青春賦」に続いて2曲目に収録されているのは、初期からの彼女たちのライブ定番曲となっている「走れ」の新録版。映画の挿入歌として、改めてオケから撮り直したという本バージョンは、しかし、それほど劇的な変化が有るわけではなく、むしろ、まだメンバー全員が10代半ばだった当時に書かれた同曲のキーがいかに高かったか。そして、原曲のアレンジの完成度がいかに高く、改めることが難しいかを浮き彫りにする結果となっている。
「青春賦」を最初に聴いた時、ゆっくりとしたバラードで、後半に向けて盛り上がっていく構成に、ももクロの2ndアルバム『5TH DIMENSION』に収録の「灰とダイヤモンド」に通じるものを感じたが、同曲の編曲を担当した近藤研二が本シングルで編曲しているのが3曲目の「行く春来る春」。こちらは「灰とダイヤモンド」とは打って変わって、シンプルなダンス・ロック・アレンジによるアップテンポな佳曲となっており、フロアタムを多用したドラムやスクラッチを使ったアレンジに、Gotchの2014年の名盤『Can't Be Forever Young』の作風を彷彿としたりも。凝りに凝った「青春賦」とのバランスを考えると、もう1つくらい耳を引くアイデアが欲しい気もするが曲単体としては好感度が高い。
最後はブラスバンドでのアレンジを出発点に曲想を拡げたような「Link Link」で、本作でももっとも賑やかな一曲だが、かなりストレートなアレンジに終始していて、やはり「青春賦」とのバランスではキャラ負けしている印象がある。4曲中もっともポップスとしての快活さを追求した歌メロも個人的にはそれほど魅力に感じられなかった。
面白いのは、そうやって最後まで聴き終えると「青春賦」一曲を聴いただけでは彼女たちに見えていると思えなかった様々な形の青春に対して、シングル『青春賦』としては少し間口を広げている印象を抱くことだ。「走れ」の若さも、「行く春来る春」の朗らかさも、「Link Link」の賑やかさも、「青春賦」の厳しさと同じくらい青春だろう。そう。若く、朗らかで、賑やかで、厳しい…本作はほかの誰にとってよりもまず、10代前半から休みも少なく週末ヒロインとして活動してきた彼女たちにとってこそ青春の歌なのかも知れない。そんな風に聴き手が思ってしまうことは、しかし、それほど不幸なことではないはずだ。
Text:佐藤優太
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