2015/01/21
人気ポップ・バンド、SEKAI NO OWARIによる前作2012年の『ENTERTAINMENT』以来3年ぶりの最新アルバム。2013年の「RPG」以降、基本的にはB面も含めシングルの収録曲がすべて入った(細かく見れば違うけど)、近年のベスト盤的な内容と言える。
「RPG」以降というと、彼らが明確に現在の人気と知名度を得ることになり始めた時期でもある。前作『ENTERTAINMENT』に収録された最後のシングルでもあった「眠り姫」で組んだ保本真吾率いるCHRYSANTHEMUM BRIDGE(クリサンセマム・ブリッジ)はこの時期の“セカオワ”にとって重要なコラボレーターとなっており、実際、今作でも最終曲の「Dragon Night」以外、すべての曲に関わっている。一昨年にリリースされたゆずの「雨のち晴レルヤ」のように、大規模なオーケストレーションを取り入れたポップスを得意とするプロデューサー・チームだ。
そんなCHRYSANTHEMUM BRIDGEとバンドがタッグを組んで作り上げた、チェンバー/シンフォニック・ロック + ダンス・ビート + オートチューン・ヴォーカルというサウンドは、世界的に見てもあまり類例のないもの。『ENTERTAINMENT』の時点では、発展途上というか、ややとっ散らかった印象もあった彼らのサウンドが、一定のフォーミュラを持った”セカオワ・サウンド”として収斂したことがアルバムからも見て取れる。
サウンドの表面からではなく、それを支える方法論という部分から見れば、いまやセカオワは広義のサンプリング・ミュージックのバンドと言える。ヴォーカルの深瀬の中性的な声の印象もあり、真っ先に連想されるのは後期フリッパーズ・ギター。ファンの間では有名な、花火の音をキック・ドラム代わりに使った「炎と森のカーニバル」、同様に花火の音がドラム的に使われている 「アースチャイルド」、ベースの代わりにベーゼンドルファーという特殊なピアノの低音弦を用いた「スノーマジックファンタジー」、あるいは象のいななきをSE的に使った「ピエロ」など列挙すればキリがない。
また、エフェクトを用いることにも積極的で、中島の作曲した「マーメイドラプソディー」では水の音を思わせるサンプルが使われている他、サビのパートを担当する深瀬のヴォーカルに、水槽の中から聴こえるように連想させるエフェクトを掛けるなど芸の細かさを見せている。そうした曲のアイデアのレベルで言っても、あるいはゴリゴリとファンキーなベースラインの導入もあり、同曲にはコーネリスアスの「Drop」を彷彿させる部分がある。
本作では作詞の面でもサンプリング的な手法が用いられている。『Tree』の収録曲の多くは、既に世に知られている寓話やイメージを用いつつ、そこに独自の解釈を加えることで展開している。例えば、「スノーマジックファンタジー」では雪の精、「マーメイドラプソディー」は人魚、「ムーンライトステーション」ではかぐや姫と、比較的リスナーとの共有が容易と思われるイメージを選んでいることも印象的。さらに言えば、主要な登場人物の多くが女性であること、また、前作との比較で言えば、歌詞で描く対象がより他者へ移り、物語的な感覚が強まっていることも本作の特徴に挙げられる。
もちろん現実には、歌詞とサウンドはここに書いているように単純に切り離せるものではないし、セカオワに関してはそれが相互に補完しあうことでより強いイメージをリスナーに換気させるということにバンド自身も注力している感が強い。かぐや姫をモチーフとした「ムーンライトステーション」で和琴のアレンジを前面に出していることが代表例だが、音から意味への還元率の高いバンドだと言える。
多くの場合、何らかの理由で追い詰められた人物が物語の中心に置かれれつつも、全体的にはポップで明るい印象を残すアルバムの中で異彩を放つのが、8曲目の「銀河街の悪夢」と続く9曲目の「Death Disco」。聴いているこちらも気落ちするような感情の谷間が描かれる「銀河街の悪夢」は、やや表現が直接的なきらいもあり評価は分かれそうだが、自らをポップ・バンドと定義しつつ、単に消費のためだけの流行歌を作ることに終わらない、バンドの気迫が伝わる一曲。一方、ラテンタッチのギターと性急な4つ打ちが印象的な「Death Disco」は、全方位に向けられた攻撃的な疑義の視線が突き刺さる曲だ。もとより聴き手の心の生々しい部分にコミットする意志の強いバンドだが、いままで以上にディープな表現となったこの2曲は逆説的にバンドの得た自信を表してもいる。
あらゆる面で別次元なのが本作の最後に収録された最新シングル「Dragon Night」。アヴィーチーとの共作したヒット曲「I Could Be The One」でも知られる人気EDMプロデューサー、ニッキー・ロメロのプロデュースによるこの曲は、海外進出を見据えて制作されたもの。
これまでは楽曲のムードを優先し、各楽器の音が多少団子状態になっていても気にせず音を重ねる傾向があった(ゆえに“音が悪い”と取られる危険もある)彼らだが、同曲では現在の欧米のポップスの主流に沿った楽器の分離がはっきりしたサウンドを採用。EDMの特徴でもある、規則的にピッチの上下するシンセサウンドや間奏にピークを持っていく構成などを取り入れつつ、フレーズやリズムはどことなくカントリー音楽を彷彿させる。日本以上にEDMのインパクトが大きかった欧米の基準から言えば、絶対的な個性を持っているとまでは言えないが、総合的な楽曲のクオリティという意味ではやはり抜きん出た一曲だ。
「Dragon Night」の歌詞の面では、これまで執拗に“戦争”というコンセプトにこだわり、敵とは言わないまでも、味方とそれ以外を区別するという傾向のあった彼らだが、この曲ではそうした考え自体に対する一種の自己批判を行っている。もちろん、<今宵は百万年に一度>と冒頭で強調している通り、戦いそのものを放棄しているわけではないが、一歩進んだ認識が示されていることは間違いない。この曲を結論と取るかは、聴き手の心境にも左右されそうだが、バンドの成長とポジティブに捉えたい。
前作から本作までのバンドの道のりを思えば、この曲をきっかけにまた新しいセカオワ・サウンドを追求する道に進むとも予想される。ある意味では、これ以上バンドのサウンドが変わる前にドキュメント的にリリースしておきたかったという意図も感じるが果たしてどうか。いまやJ-POPの革新の担い手として期待されるポジションにいる彼らだが、本作を聴く限り、その音楽的な野心やアイデアにまだ技術面が追いついていないのではないか、という底知れなさも感じる。その尽きせぬアイデアを歯車に、バンドが次にどこへ向かうのか期待の高まる作品だ。
◎リリース情報
『Tree』
発売中
<初回限定盤:CD+DVD>
TFCC-86500 4,500円(tax out)
<通常盤:CD ONLY>
TFCC-86501 3,000円(tax out)
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