2014/12/19
これ以上の組み合わせは絶対にないだろう――聖霊たちが舞い降りる聖なる夜に、黒人音楽の美学が凝縮されたファルセット・コーラスの声に身を委ねる…。
今年もクリスマスの時期にザ・スタイリスティックスが【ビルボードライブ東京】のステージに白いジャケットを纏い、颯爽と登場した。美しさを極めたコーラス・ワークによるソウル・クラシックの数々。「ユー・アー・エヴリシング」「誓い」「愛がすべて」「16小節の恋」「ファンキー・ウィークエンド」など、まさにため息が出そうなほどスウィートでドリーミーな歌声、そして洗練された都会的な響き。さらには踊るたびに美しくなびくジャケットの裾。そう、彼らはこの時期のために結成されたグループと言い切っても過言ではないのだ。さて、日によってこれらの名曲の中から、どれが披露されるのだろう――。
1968年にフィラデルフィアで結成され、フィリー・ソウル・ブームの潮流に乗って71年にレコード・デビュー。トム・ベルがプロデュースしたその作品から「ゴーリー・ワウ」がヒットし、一躍、ソウル・ミュージック・シーンの最前線に躍り出た彼ら。意外にもオフ・コースのカヴァー曲からスタートしたショウタイム。整然と並べられたスタンドアップ・マイクの前で、見事に統率の取れた踊りを披露しながら聴かせる甘く切ないファルセット・ヴォイスのコーラス・ワーク。もう、それだけで完璧にして磐石な美意識に彩られた世界観が満喫できる。その味わいは、抜栓して少しずつ空気と触れ合いながらまろやかさを増していくヴィンテージ・ワインのようなふくよかさを秘めていて、その余韻は身体の芯まで深く浸透し、アンコールのクリスマス・ソング・メドレーまで続く。
メンバー・チェンジを繰り返しながらも、ステージでのスタイルは不変。そんな黒人音楽の核心にある美学が最も素晴らしいかたちで表現されている、比類なきグループなのだ。彼らのコーラスに憧れを抱いたのはマーヴィン・ゲイからプリンスまで。世代を超えてカヴァーも多く、黒人ミュージシャンの憧れであり、誇りでもある存在であることが如実に伝わってくる。とにかく、しつこく文字で説明することにジレンマを覚えるほど、彼らの歌う空間で実際に体験してもらいたいと強く感じる僕なのだ。ローマ法王の発するメッセージと共に、世界中の人々が祝うクリスマスの時期に、彼らの歌声を生で堪能できる贅沢と幸運を、僕は目を潤ませながらステージを見つめ、ディープな感動と共に味わった。
人生、誰だって悲喜こもごも。今年も楽しいことだけでなく、哀しいこと、悲惨なことも世界中でたくさんあった。でも、それぞれの人生は続いていく。Life goes on――。
そんな清濁入り乱れた今年を美しく締めくくり、新しい年に希望を込めた思いを馳せるためにも、スタイリスティックスの歌声は、僕らに夢と勇気とエネルギーを与えてくれる。“人生、まだまだ捨てたものじゃないよ”と――。
さぁ、迷いは厳禁。まるで幾千もの星が瞬く天からの贈り物のような麗しいコーラス・ワークを体験しに出かけよう。残る日程は19~21日と23~25日の6日間。師走の気ぜわしさを、しばし忘れて。今宵は愛するパートナーと2人、思い切りロマンティックに。
Text: 安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。寒さが身に沁みてくるこの時期は、鴨のロティなどと共に、今、注目の南仏・ラングドックの『エリクシール』が身体を心地好く緩めてくれる。
Photo: Yuma Totsuka
◎スタイリスティックス公演情報
ビルボードライブ大阪
2014年12月13日(土)~12月16日(火)
ビルボードライブ東京
2014年12月18日(木)~12月21日(日)、12月23日(火)~12月25日(木)
More Info:http://billboard-live.com
関連記事
最新News
関連商品
アクセスランキング
インタビュー・タイムマシン
注目の画像