2014/10/05
ナズの1994年デビュー・アルバムにして不朽のクラシック盤『Illmatic』がリリースされてから20周年。センセーションを巻き起こした20年前が懐かしいと言うよりも、月日を重ねるほどに愛され、確固たる地位を築くことになった、と言う方がしっくりくるかも知れない。
当時の米ヒップ・ホップ界はドクター・ドレーのデス・ロウ一派をはじめウェスト・コースト勢が最盛期であり、そんなムードの中にニューヨーカーのナズが、衝撃的な詩作とヒップ・ホップ・ミュージックのプライドが注ぎ込まれた『Illmatic』をドロップした。ここで所謂「東対西」の構図を蒸し返すつもりはないし、音楽を巡って悲しい思いをするのはご免こうむるが、重要なのはやはり『Illmatic』という作品の素晴らしさである。この8月にリリースされた20周年記念の日本盤『Illmatic XX』は、オリジナル作のリマスターと、未発表音源やリミックス曲を収めたディスクとの2枚組になっている。
ストリートに身を置き、ギリギリの死生観をあの手この手で言葉と押韻に紡ぎ上げたナズと、時代のムードを永久に真空パックし駆使するプロデューサーたちの尽力が、この作品には詰まっている。まさに全編がハイライトだ。地下鉄の走行音と、ナズを初めて世に紹介したメイン・ソースのトラックを用いた導入部。後にヒップ・ホップ・ユニットのザ・ファームを結成することになるAZや、実父オル・ダラもトランペット参加した「Life’s A Bitch」。“奴隷船に乗った数よりも多い黒人の前でライムしてるぜ”と告げるデビュー・シングル「Halftime」。そしてDJプレミアの名プロデュースが光る「N.Y. State of Mind」、「Memory Lane」、「Represent」と、本編ではアーバンな洗練と緊張感が最後まで途切れること無く続く。
『Illmtic XX』リリースとほぼ時を同じくして、ナズは【コーチェラ・フェス】出演を手始めに20周年ライヴを行ってきた。コーチェラの模様はライヴ盤『Coachella Nights』においても確認できるが、9月20日に千葉・幕張で行われた【StarFes.’14】では、ヘッドライナー出演したナズが『Illmatic』再現ライヴを敢行。約1時間のセットのうち『Illmatic』編は前半30ほどで、その後にはキャリア中の名曲群を畳み掛けた。リリックを「ジャパン」に差し替えた「N.Y. State of Mind」、「レペゼン!レペゼン!」の大合唱を巻き起こした「Represent」、そして若きマイケル・ジャクソンのポートレートを背負い、MJに寄せる愛を伝えながら「Human Nature」のトラックにそのままラップを走らせる“It Ain’t Hard to Tell”と、『Illmatic』を支持し続けてきた多くのファンに対する感謝の念、そして意気込みをビシビシ感じさせる渾身のステージであった。
『Illmatic』誕生とその後の影響力について語られるドキュメンタリー映画『Nas タイム・イズ・イルマティック』も、東京・大阪・神戸で順次公開されている。リマスター音源、ライヴ、映画と盛り上がりを見せるアニヴァーサリー・イヤーを、長きに渡るファンも新しいファンも、こぞって堪能して欲しい。
Text:小池宏和
◎リリース情報
『Illmatic XX』
2014/08/27 RELASE
SICP-4166/7 3,240円(tax in.)
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