2014/05/10
グラミー賞でのベスト・ラテン・ジャズ・アルバムなどの受賞をあげるまでもなく、ラテン・ジャズ・ピアニスト、ミシェル・カミロとフラメンコ・ギタリスト、トマティートのコラボレーションによる2000年リリースの『スペイン』は、ラテンジャズ、フラメンコ・ジャズ、そして、モダンジャズにおける名盤の一つであることに異論は無いだろう。そして、それはミシェル・カミロ、トマティート両者の代表作と言ってもいいだろう。それを間近で聴ける公演は、実に贅沢なものだ。
90年代に知り合い、もう20年近くになる二人の生演奏は、CDで聴くよりも、映像で見るよりも、二人の関係が、はるかに親密で深まっているのが伝わってくるものだった。超絶テクニックを誇る二人が、アストル・ピアソラ作のタンゴの名曲「リベルタンゴ」で、そのテクニックとグルーヴをエモーショナルに見せ付けたと思えば、続くラテンの名曲「ベサメムーチョ」で、じっくりと間をとりながら、トマティートが爪弾くギターに、ミシェルが丁寧に音を合わせていく。スウィングするトマティートのギターに合わせ、まるでフラメンコギターのカッティングのように弾くミシェルのピアノは、この二人の中でジャズとフラメンコが共存するサウンドが完全に消化されていることを物語っていた。
中盤では、スピードやダイナミズムを抑え、スロウな曲の中で魅せてくれた音のやりとりは、その和やかな雰囲気にもかかわらず、音の対話や交感と言うよりは、むしろ、計算された美意識のようなものさえ感じるほどに、一寸の無駄もないものだった。そんな二人のインタープレイに、僕は何度もため息を漏らした。それでいて、さりげなく奏でられるサウンドに息づく内なるリズムの芳醇さに、僕は心を躍らせていた。
以前、ミシェルに、インタビューした際に「僕にとって芸術は魂の普遍的な言語のようなものだと思っている。もし自分の音楽を通じてオーディエンスの皆さんの“もっとも内なる存在”に触れることができたら、その時、僕の夢が叶ったと感じるだろう。」という言い方で、自身の表現について語ってくれたが、この日、二人がゆったりと音を奏で合った時間は、ミシェルが語ってくれたことの意味を理解するには充分すぎるほど、普遍的な響きを持って、観客に染み入っていたように思う。
最後は、二人のアルバムのタイトルにもなっているチック・コリアの名曲「スペイン」へ。再び二人のテクニックと、圧倒的なリズムに酔いしれていると、あっという間に終了。演奏中も常に笑顔でギターを見つめ、曲が終わるごとに何度もトマティートの名を口にするミシェルが、最後にも改めてトマティートに深い感謝を伝える。それに不器用に答えるトマティート。お互いの信頼と尊敬が、その音からも、振る舞いからも溢れ出る素晴らしい公演だった。 (柳樂光隆)
◎公演情報
ミシェル・カミロ&トマティート
ビルボードライブ東京 2014/5/9(金)~5/10(土)
ビルボードライブ大阪 2014/5/12(月)~5/13(火)
More info:http://www.billboard-live.com/
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