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2025/10/16 17:00

<ライブレポート>韓国ロックバンドNELL、再構築したアレンジで魅せたアコースティック公演【Still Sunset】

 相対的にロックバンドが少なく、サバイブすることが難しいと言われる韓国の音楽シーンにあって、25年の活動歴を誇るバンド、NELL。本国ではアリーナクラスのアーティストであり、レジェンド級のロックバンドである上に、BTSのSUGAやRMとのコラボ、INFINITEのソンギュ、少女時代のテヨン、Wanna Oneらへの楽曲提供など、K-POPアーティストからの信用も厚い。そんな彼らがビルボードライブ横浜でアコースティック・ライブ【Still Sunset】を開催。ビルボードライブ公演は2018年の東京以来となるが、この間にも来日公演を行い、通算8度目の単独来日を数える彼らは、日本でも一定の人気と支持を誇っている。ここでは2ndステージをレポートする。

 アコースティック編成は改めて一からライブアレンジを再構成するという意味で、ロックスタイルの公演以上に準備に時間を要することが、今回の公演に先駆けたインタビューで語られていた。しかもアルバム、シングルも膨大な量を持つだけに、セットリストの構築もイージーではないだろう。来日前には本国でも同コンセプトの公演を行ったが、そこからさらに絞り込んだセットリストで日本のファンに届ける試行もあっただろう。それだけに凝縮されたこのステージに期待が高まる。

 メンバーのキム・ジョンワン(Vo. / Gt. / Key.)、イ・ジェギョン(Gt.)、イ・ジョンフン(Ba.)に新しいドラマーと国内屈指のキーボーディストとギタリストも加わった6人編成のステージは、ジョンワンのアコギ弾き語りアレンジの「mermaid star」でスタート。哀愁と透明感を併せ持つ声に引き込まれ、サビでバンドが入るとグッとAOR風のライブアレンジに変化する。アコースティック・ライブを銘打ちつつ、楽器を大幅に替えることなくフレージングや音の大小で組み立てる手法は確かに「一から再構成する」細やかさだ。リバービーなギターが原曲のシンセ以上の空間を作り出した「Don't say you love me」、サポートギターのボサノヴァ・テイストのアコギリフが開けたムードを作った「Love It When It Rains」もミニマルに研ぎ澄ましたアンサンブルでありつつ、彼らの特徴であるUKサウンドのニュアンスがしっかり存在するのは、ひとえにジョンワンのメロディにあるのだろう。

 「次の曲はもともと“Tokyo”なんですけど、今日は“Yokohama”で」のMCでワッと上がる歓声。都会的なピアノリフ、それに留まらない転調が生み出す切なさとジョンワンのファルセットに物語が宿る。続いては三拍子の優雅さと素朴さが交じる「Good Night」。ミラーボールも回るムーディな演出だが、愛する人の誠実さを信じ、孤独のなかにいるその人に呼びかける歌詞が魂のこもったロングトーンで放たれると、強く感情を揺さぶられる。

 リラックスしつつも、高い集中力を誇る演奏がオーディエンスを繋ぐバイブスを生み出したところでジョンワンが「次の曲は公演の中でいちばん温かくてやさしい曲です。「Brave」と曲紹介。日本でも人気の高いドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』OSTからの1曲だ。曲紹介通り、イントロのピアノの響きからとてもやさしく、声の表現でハングルが聴き取れない自分にもこの曲が持つ真心がダイレクトに伝わってきた。ポストロックやプログレッシブな側面も持つ彼らが、この曲のように素直な表現にも本気で取り組むことで繊細な演奏力がむしろ見えてくる。バンドの息の長さが理解できる選曲だった。

 「次の曲は今日お届けする曲のなかでいちばんセンチメンタルで苦しい、儚い、怒りもあるかもしれません」と紹介した「Boy-X」は原曲のソリッドなムードを研ぎ澄ました生音に転換。ディストピアの果てのユートピアを見る、独特の世界観を描く「Dystopian's Eutopia」と、ラブソングとはまた違うマインドを見せる。アウトプットがラウドなサウンドでなくてもスケール感が生まれるのが発見で、続く「1:03」にもそのグルーヴが繋がっていく。この3曲はロックバンドNELLの背骨を見た思いだ。

 ジョンフンが「(2018年の)ビルボードライブ東京に負けず劣らず、ファンの皆さんの反応が良くて。ファンはバンドに似るって言いますね」と感謝を述べると、さらに親密なムードに満たされる。そこから16ビートが際立つアレンジの「Ocean of Light」へ。そして本編ラストのはずだったが、ジョンワン曰く、1stステージで一度楽屋に戻って再登場したのが恥ずかしかったため、そのままアンコールも演奏するとあらかじめ伝えた上で、「A Slightly Sad Story」を披露。抑えめのジョンワンのボーカルが徐々にエモーショナルな熱を帯びていく様に圧倒される。そして彼だけでなく、メンバー全員が演奏で曲に献身する姿に感動してしまった。

 一応、アンコールの声をお願いしたことで、ファンから笑いを誘うのだが、本編終了からアンコールのマインドセットは選曲にも明らかだ。アンコール1曲目はNELLで最もポピュラーな「Time Walking on Memories(記憶を歩く時間)」だったが、【Still Sunset】のライブアレンジによって「親しみのあるなかに、新しさを感じることができるんだな、ということが分かりました」とジョンワン。有名曲だからこそ、再度歌に向き合ったのだろうと想像できる歌唱だった。メンバーが代わるがわる最後のMCをするなかで、ジェギョンが「静かに向き合うコンサートは緊張しますが、とてもいい。次は新しいアルバムとともに会いましょう」と話したのが特に印象的だった。未来の約束に歓喜するフロアに向けて、ラストはコールドプレイやシガー・ロスを彷彿とさせるダイナミックで透徹したバンドセッションを含む「Counting Pulses」が【Still Sunset】横浜編を締めくくった。柔軟なアレンジを受容するそもそもの曲の良さ、演奏者としての集中力。韓国のトップバンドの根拠を存分に見せてもらった。

Text:石角友香
Photo:雨宮透貴


◎セットリスト
【NELL JAPAN CONCERT 2025
Still Sunset IN YOKOHAMA】
2025年10月3日(金)神奈川・ビルボードライブ横浜 2nd Stage
1. mermaid star
2. Don’t say you love me
3. Love It When It Rains
4. Tokyo
5. Good Night
6. Brave (『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』OST)
7. Boy-X
8. Dystopian's Eutopia
9. 1:03
10. Ocean of Light
11. A Slightly Sad Story
En1. Time Walking on Memories(記憶を歩く時間)
En2. Counting Pulses

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