2025/08/22 19:00
真夏の宵を彩る極上の酔い心地。場内を渡る涼風がオーディエンスの昂揚をやさしく包み込み、柔らかな一体感へと昇華させる——8月8日、東京・下北沢にある下北線路街 空き地に突如として出現した謎の空間。アイルランド発のウイスキーブランドである「THE BUSKER IRISH WHISKEY」が立ち上げた新しい音楽プロジェクト「THE BUSKER ORIGINS」、その始動を記念してクリープハイプとタッグを組み、開催した一夜限りの野外ライブイベントがその正体だ。
開催にあたっては事前にライブ観覧希望者の募集が告知され、抽選によって約300名が無料招待。会場についても募集段階では都内某所とされており、詳細は当選者のみに知らされた。まさにファン垂涎、スペシャルなイベントの模様をここにレポートしたい。
ライブが始まるまでの間、当選した人たちにTHE BUSKERの世界を思い切り楽しんでもらいたいとヨーヨー釣りやタトゥーシール体験(※THE BUSKERとクリープハイプのオリジナルロゴ仕様もあり)、オリジナルキーチェーン作りができるブースなど、無料のインタラクティブなアクティビティが数々用意された会場内は大人の縁日といった様相だ。この日を待ち侘びていたのだろう、思いがけぬ幸運に恵まれたクリープハイプファンが開場時刻の18時を回ると同時に続々と訪れ、これまた無料で提供されるTHE BUSKERハイボールやノンアルコールドリンク、フードを手に嬉々としてそれぞれのブースを回る光景のなんと多幸感にあふれていることか。
会場の一角には“大道芸人”“ストリートパフォーマー”という意味を持つ“THE BUSKER”の名を体現するがごとく「バスカーステージ」と冠されたパフォーマンス用ステージも設置され、プロのジャグリングパフフォーマー・時雨が魅せるユーモアにあふれた凄技パフォーマンスが賑わいをいっそう加速。その後、来場者にも開放されたバスカーステージでは観客有志による飛び入りパフォーマンスが行われ、けん玉チャレンジやサッカーボールのリフティング、さらにはアコースティックギターの弾き語りでクリープハイプの「ex ダーリン」が披露されるなど、ひっきりなしの盛り上がりを見せていたのも印象的だ。抽選ゆえ、いわゆる“ぼっち参戦”の来場者も少なくなかったはずだが、そうした垣根をまるで感じさせないアットホームな空気感がなんとも言えず快かった。
そうして迎えた19時30分、特設ステージが明るく照らされ、ついにクリープハイプのメンバーが姿を現した。やんやの喝采に包まれて、それぞれ位置につく4人。楽器や機材のセッティングから察するに今日のライブはアコースティックで披露されるようだ。300人とはいえ、ステージ前の客席エリアは当然のようにすし詰め状態。ライブハウスよりも近い距離感でクリープハイプを堪能できる機会など今やもう滅多にあるものではないだろう。しかも、ここ下北沢は彼らが所属する事務所の所在地でもあり、また、インディーズ時代には頻繁にライブを行っていた街でもある、クリープハイプを語るに欠かせない場所だ。まさしく僥倖と呼ぶべき状況にオーディエンスの興奮は早くも頂点に。
「後ろの人は見えてるかな? 大丈夫ですか? 今日はTHE BUSKERのイベントということで、こんな素敵な機会をいただきありがとうございます」
椅子に掛け、アコースティックギターを抱えた尾崎世界観(Vo./Gt.)が客席を気遣いながら、まずはそう挨拶。“THE BUSKER”という言葉の意味に触れつつ、「クリープハイプはそこまで路上ライブをしたことはないですが、昔は誰にも認められない、誰にも聴いてもらえないなかでよくライブしていました」と自身の来し方を振り返ると、「今、こういう素晴らしい環境でライブができるようになってとても嬉しく思います。それと同時に、どうやって自分たちが今ここまできたのか、改めて噛み締めながらライブをしたいと思います」と宣言する。そのまま突入したのは「ナイトオンザプラネット」だった。尾崎がつまびくアコギの音色、小川幸慈(Gt.)の柔らかなギター、長谷川カオナシ(Ba.)がこの曲ではキーボードを奏で、それらの旋律と小泉拓(Dr.)の叩くカホンのリズムとで織りなされるオーガニックなアンサンブルの妙。夕闇に溶ける尾崎の歌声、少しくぐもったその響きがオーディエンスをやさしく揺らす。
1曲目を終えて何かしらほぐれたのだろう、「クリープハイプはみんな、お酒が好きで。THE BUSKERめちゃくちゃ美味しいね」とよりフレンドリーな口調になる尾崎。話を振られた長谷川が、その美味しさのため、今回のイベント用の撮影時にお土産でいただいたTHE BUSKERを1週間ともたずに飲み干してしまったと告白してオーディエンスの笑いを誘う一幕も。その後、2曲目「もうおしまいだよさようなら」では、グッとリラックスしたムードで進められていく感じも特別なイベントらしくてとてもいい。「酒の歌を」と尾崎が告げて、続けざまに披露された「大丈夫」がまた、アルコールを片手にゆったりと聴き入ることができるこのシチュエーションにぴったりとハマり、音頭風の明るいリズムと、歌詞に込められた深くて大きな愛情、それらを巻き舌気味にして放つ尾崎ならではのボーカリゼーションや一音一音が見事に噛み合ったバンドの演奏に、不思議なくらい泣けてしまう。
極めつけは7月30日に配信リリースされたばかりの新曲「ざらめき」だ。まとわりつくような熱帯夜の空気を彷彿させる、閉塞感に満ちたクリープハイプならではのサマーソングがこれほどにも野外に似合うとは。それもただの野外ではなく、開放感がありながらも、知る人ぞ知る(というか、知っている人しか本当に知らない)クローズドなイベントというアンビバレントな状況であり、さらにはアコースティックというイレギュラーなスタイルだからこそ発揮されるシナジーがこの日の「ざらめき」には宿っていたように思う。情熱的で伸びやかで、けれど潔いほどの諦観をもはらんだ歌と音像の絡み合いがこのうえもなく心地好い。
「酔っ払って昔のことを思い出すことがよくあるけど、いい思い出だけじゃなく、苦しかったり悲しかったり……どっちかと言うとそういう思い出に救われたり、背中を押されて、ここまで来ました。昔よくライブをしていたし、事務所もあって、下北沢という街に縁はあるけど、好きかと聞かれたら別に好きではないんです、それなりに悔しい思いもしてきたので。でも、そういう場所でこうしてまたライブができるのはいい経験になると思うし、改めてこういう機会をくれたTHE BUSKERに感謝しています。みなさんもいいことだけじゃなく、恥ずかしかったり悔しかったり腹の立つこと、そういうネガティブな気持ちも大事にしてください。これからもよろしくお願いします」
ラストナンバーを前に尾崎はそう語りかけると、バンドは一丸となって「天の声」を客席の一人ひとりに手渡し、全5曲に渡ったスペシャルな一夜は大団円となった。だが、このままで終わる「THE BUSKER ORIGINS」ではなく、その場に残るメンバーにスタッフが手渡したのはTHE BUSKERハイボール。「じゃあ、乾杯しましょう!」と呼びかける尾崎、「せーの」を合図に唱和する300人と4人の盛大な「乾杯!」が夜空の底に響き渡る。よくよく考えれば彼らが4人揃って、しかもステージで飲んでいる姿にだってそうそうお目にかかれるものじゃない。本当になんて稀有なイベントなのだろう。
名残惜しそうにしながらも4人がステージを去った途端、ポツポツと雨粒が落ちてきた。まるで見計らったようなタイミングの雨に思わず口元が緩む。きっと下北沢におわす天の神様も、久しぶりにこの地に鳴る彼らの音楽を最後まで聴き届けたかったはずだ。もしかしたらこの雨はうっかりこぼれた神様の嬉し涙なのかもしれない。THE BUSKERと音楽との唯一無二なコラボレーション、次はどんな感動を味わうことができるだろうか。ますますもって期待が募る。
Text by 本間夕子
◎イベント情報
【「THE BUSKER ORIGINS」イベント】
2025年8月8日(金)
東京・下北沢
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