Billboard JAPAN


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2025/05/28 18:00

<ライブレポート>ZION、アコースティック編成で魅せた初ビルボードライブ・ツアー  “狂気と魔法”に満ちた【(Another) Countryman】完走

 このバンドには夢がある。

 恥ずかしげもなく言い切ろう、ZIONには夢があるのだ。

 思わずそう評せざるを得ないほどに素晴らしかった【ZION TOUR 2025 Journey of A Countryman】。4月24日にKANDA SQUARE HALLで先日行われた追加公演では、自身の拠点である十勝の古民家スタジオ=通称ホワイトハウスをステージ上に再現し、ツアー本編の完成度をさらに上回ってしまうという天井知らずのライブバンドっぷりを見せつけた。彼らはそこから2週間足らずでツアーの曲目をアコースティック調にアレンジした形で臨む“Another”な公演をビルボードライブ大阪、東京にて開催。ここではそのファイナルとなったビルボードライブ東京2ndステージの模様をお届けする。

 結果から申し上げてしまうと、それは音楽の魔法であった。このバンドには、ZIONには、夢と魔法があったのだった。

 なんだか某リゾートの様な言い回しとなってしまうのだが、あれを体験した皆様であれば心からご同意いただけるはずであろう。

 ほぼ定刻通りにステージが暗転すると、客席のテーブルを縫う形でメンバーが登場。全員がブラックスーツにタイドアップでキメる中、櫛野啓介(Gt.)は親分感溢れるダブルのスーツに自身のルーツであるネイティブ・アメリカンへの敬意を思わせるループタイ。対する吉澤幸男(Gt.)も3つボタンのスーツにニットタイを着用したモッズなスタイルをトレードマークのキャップとアディダスの白いスーパースターで着崩すなど、それぞれの趣向での遊び心を窺わせている。

 ツアー同様オープニングに選ばれたのは「Countryman」であったのだが、こちら原曲よりもさらにたおやかさを増したアレンジとなっており、光村龍哉(Vo. / Gt.)のアコギが主導する中一際主張するのは櫛野がプレイするグロッケン。十勝の星の瞬きを連想させるその音色に、冒頭から場内を陶酔させる。生ドラムとパッド、スティックやホットロッドにマレットまでをも自在に使い分け、一貫して心地良いリズムをオーディエンスに提供し続けた鳴橋大地(Dr.)のプレイで繋がる「Kanashibari」では光村が歌う主メロのほぼ全てに櫛野と佐藤慎之介(Ba.)のハモリが追加されており、原曲のサイケさよりもメロディの美しさを全面に押し出したバージョンで演奏。と思っていたらしっかり後半で吉澤がアブストラクトなソロで切り込んでくるではないか。つくづくただでは終わらせないバンドである。

 続いては事前に光村から「ちょっぱやにしてみた」なんて聞いていた「Newel」だったのだが、これがもう本当にすごい、狂気のアレンジでの演奏であった。原曲の譜割りとはまるで違う、痙攣気味のリフを黙々と繰り返す佐藤。聴いているとこちらのゲシュタルトが崩壊しそうな非常に拍が取りづらいトリッキーなリフながら鳴橋が流石のタイミングでジャストに合流。この瞬間のためにわざわざ用意したのだろう、演歌などで耳にする“カーッ!”と鳴るビブラスラップを光村が鳴らして曲本編がスタート。あとで光村に聞いてみると「Newel」は原曲よりテンポを30も上げてアレンジされていたようで、その目まぐるしくカオティックな演奏は正に狂気であり、そして魔法であった。狂気と魔法に困惑されっぱなしの当曲はまだまだ仕掛けだらけ。Bメロで突如グッとテンポは落とされ、鳴橋の人力ディレイのスネアが酩酊感を見事に演出(これめちゃくちゃにテクニカルなプレイです)。吉澤は、本当に酩酊したかのように椅子から転げ落ちそうになりながらのプレイ。からの“右往左往 右脳左脳”とリフレインされるサビはこれまた原曲には存在しない拍というかキメが追加されて変拍子の進行に。これにはもう思わず手を叩いて笑ってしまった。このバンド、狂ってます(賛辞)。

 “『Countryman』をAnother化するにあたり、改めて作品に向き合ってみたところAnotherする必要がないくらい良い作品であったが、「僕たち真面目なんでアレンジするというよりは魔改造(笑)みたいになっちゃいました。『Countryman』で思いっきり遊んでみたので、楽しんでくださいね」とMCで佐藤が語り、ライブは再開。

 櫛野のアコギが軽快に場を盛り上げ、鳴橋がスネアをロールさせるとオシャレなビルボードライブがカジュアルな街酒場へと一変。やはりこのリズムでこのアコギだとどうしたってNICO Touches the Wallsの「THE BUNGY」を思い起こさせるアレンジで「Setogiwa」をプレイ。しかしこちらも中盤に大仕掛けが。中盤バンドはグッとテンポを落とすと光村の「ブルージータァーイム…」の合図でまたもや場内を酩酊させる。吉澤がエフェクターを巧みに使いサイケなソロを響かせる中、なんと原曲の歌メロを1オクターブ上げて「Petit Revolution」を挿入。再び「Setogiwa」に戻ると、佐藤のランニングベースが曲に更なる疾走感を与える中で今度は櫛野がカントリー調のソロをとる。全く違ったキャラ、方向性でソロを取れる両翼のギタリストは本当に魅力的だ。

 続いては何やら光村や櫛野が「ムーチョ!」などとスペイン語を叫び出し、ラテンな雰囲気でフリーセッションへ。コードを光村、ソロを櫛野、サウンドエフェクトを吉澤がそれぞれ担当というトリプルギターの旨みをしばし堪能したのちにレゲエなリズムで佐藤、鳴橋が合流。俺が大大大好きなTHE POLICEを想起させるプレイなのだが、歌い出しでようやくこちらが「Takuranke」のアレンジであることに気付かされる。鳴橋がヒットの強弱で自在に曲の躍動感を操り、櫛野は歌メロを随所で拾いつつ味のあるソロを聴かせてくれた。

 続くMCでは光村が“エレキをアコギに持ち替えてみただけみたいなライブが大嫌いで、そんな俺の性格に付き合ってくれるメンバーとバンドが組めて本当に良かったです”と語ると、“楽器の音をできる限り声に置き換えてみたバージョンです”と「静けさと踊ろう」をプレイ。印象的なギターの単音リフのみならず、本当に歌以外のフレーズをできる限り光村以外の4声で表現する。そこにはBEE GEESの超高音ファルセットに迫らんばかりのコーラスもあり、こちらもあとで光村に確認したところ、吉澤の担当パートであったとのことで「幸男さんは今回でだいぶ開花したね!」と嬉しそうに語っていた。最後には「ボンー」の低音コーラスに高音コーラスが徐々に重なっていくというドゥーワップになぞらえた締め方。つくづく抜かりがないし、それをとても楽しそうにやって見せるのがなんとも頼もしく、カッコいい。こちらも魔法のようなアレンジだった。

 ステージ後方に設置されたグランドピアノに座った光村の独唱で始められた「Christmas」。息を呑むようにじっと聴き入るオーディエンスであるが、そのバックに鳴るのはライブレストランであるビルボードライブならではの食器やグラスの音。数多のジャズのライブ盤の名演に華を添えていたこの音。これがまたなんとも心地いい。

 アコースティック・アレンジを施すことで原曲のメロウさにより一層の趣が加わった「Memuro Hill」を経て再び佐藤によるMC。彼はかつてビルボードライブ東京が入っている東京ミッドタウン内の無印良品で働いていた過去があるとのことで、それを見下ろしながらいい感じでベース弾いてるのがとってもいい気分とのこと。“「見たか!」って思ってます”の一言で場内の爆笑をさらっていた(笑)。

 ヘヴィでハードロッキンな原曲がアレンジによりドライなUKロック調へと変貌し、またもやアレンジの妙に驚かされた「Thunder Mountain」では光村によるブルースハープまで飛び出し、本編ラストは【ZION TOUR 2025 Journey of A Countryman】の終盤でもとんでもない大盛り上がりを記録した「Dreams Come Through」。アウトロでは全くアコースティックを感じさせない熱量でのアドリブ、セッション合戦となり(興奮のあまり櫛野は客席に降りていた)、オーディエンスも総立ちの手拍子でセッションの参加者となる。シンプルなロックンロールである当曲の求心力に改めて打ちのめされた次第であった。

 アンコールでは、ZIONの次なる展開として拠点である十勝のホワイトハウスにオーディエンスを招待するという【ZION presents MYSTERY TOUR “Live in White House’25”】が2025年9月13日、9月14日、9月15日と発表され、3日目はGARDEN PARTYと題して開催されることも併せて発表され、『Countryman』の最後を飾る「Holy Lonely」で【ZION Billboard Live Tour (Another) Countryman】全公演がこれにて大団円となった。

 MYSTERY TOUR以外にも既報のライブやそれ以外にもさまざまな動きを仕込んでいるZION。夢だけでなく音楽の魔法、魔法の様な音楽の力をまざまざと見せつけられちまったからにはもう、今後もより一層の期待を寄せる他にないし、本人たちもたったの4公演では気が済まないと語る通り、“Another”でもバリバリとライブをやってもらう他にない。というよりもこれは【ZION TOUR 2025 Journey of A Countryman】の道中記として執筆しZIONのグッズとして発売された『Journal of A Countryman』という本にて記したのだが、ZIONはメンバー間の交信をとても重んじるバンドである。だからこその魔法の様なアレンジの数々であったし、緊張感に満ちたテクニカルな展開も本人達が語る通り“遊んで”やっているからこそ、それは“とても楽しいもの”としてオーディエンスに伝播するのであり、エレキより音の厚みがなくなることで個々の、そしてバンドのグルーヴがより浮き彫りになるこの編成こそがZIONの真骨頂なのではないかと俺は思った。

 いっそのことフォークロック/アコースティックロックでてっぺん獲りに行くのとか、どうすかね?

 ってくらいに、音楽の夢と魔法が詰まりに詰まった素晴らしいライブだったってことなんです。

 ああ、また観てえ。


Text:庄村聡泰
Photo:Chiaki Machida

◎セットリスト
【ZION Billboard Live Tour 2025 (Another) Countryman】
2025年5月17日(土)東京・ビルボードライブ東京 2ndステージ
1. Countryman
2. Kanashibari
3. Newel
4. Setogiwa
5. Takuranke
6. 静けさと踊ろう
7. Christmas
8. Memuro Hill
9. Thunder Mountain
10. Dreams Come Through
En1. Holy Lonely

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