2025/02/21 18:00
プッシュプルポットが、2月7日にZepp Shinjukuで【TOUR 2024-2025 "いつか、終わりが来るその前に"】を開催した。
1500人収容のZepp新宿はほぼパンパン。暗転と同時に「うおおぉぉ!」と歓声が上がり、誰も彼もが拳を上げながらステージ目がけて前へ押し寄せる。このツアーのキモである新曲「今を生きるあなたへ」が、一曲目からみんなの歌として定着している。爆発していると言ってもいい。ものすごい熱気だ。こんな急展開があるのかと思う。本人たちもどこか夢見心地なのかもしれない。そして、山口大貴(Gt./Vo.)が叫ぶ。
「来たぜ俺たちがプッシュプルポット! 憧れた舞台、Zepp新宿ーーっ!」
先におさらいしておくと、金沢の大学サークルでバンドが生まれたのは2017年のこと。現メンバーが揃ったのは2019年だが、同時に卒業と各自の就職などもあり、精力的に動くビジョンはあまり描けなかったらしい。いずれ先細るかもしれないけど、月イチくらいでライブ活動が続けばいい。そんなふうに思っていた矢先に起きたのがコロナ禍だ。いずれどころか目の前の楽しみすべてが飛んでしまえば人の覚悟は変わるもの。受けられる限りのオーディションに初めて応募し、事務所のサポートを得て、目の醒めるような気分で「やれるなら、バンドをちゃんとやりたい!」と全国展開するようになったのが2021年以降である。多くのミュージシャンが足踏みを余儀なくされた中、彼らはコロナがあったからこそ本格化という、ちょっと風変わりな背景を持つ。
そして、コロナ明けのライブハウスに、プッシュプルポットの音はドンズバでとにかく元気だった。不安や屈託を吹き飛ばすバカでかいロックサウンド、一瞬で理解できる熱いメッセージと、ともに歌いたくなるおおらかなメロディ。この日のZepp新宿も最初からシンガロング全開である。二曲目ではメンバー全員とファンが<泣きたくなるような日々を/今日も生きててくれた>と歌い上げ、ツービートのパンクソングでダイバーを大量発生させたあと、四曲目になるとフロアは大合唱を超えた大絶叫。合言葉は<少年少女 前を向け!>だ。
文字にすると少々恥ずかしく、正気かよと思ったりもする。普段は照れ臭くて言えないことも歌に乗せてしまえば何とかなる、というのは多くのバンドから聞く話だが、それにしてもプッシュプルポットの歌、山口大貴の言葉はストレートの度が過ぎる。<笑ってて欲しいんだ/生きてて欲しいんだ>と歌う「愛していけるように」だとか、<何も諦める必要はないぜ>と叫ぶ「Fine!!」だとか。染み入る詩情というものはなく、深読みが必要な暗喩なども皆無。そんなまっすぐでいいのかと思うが、現場にいると、いいかもしれん、と思える何かを山口から感じ取ってしまうのだ。
ハンドマイクでフロアに飛び込んでいく「バカやろう」は象徴的な一曲だ。いわゆる悪口の歌ではない。明日生きている保証はないから今を楽しめ、そのために<僕らでバカをやろう>と最高の笑顔をかましてみせる、ポジティブ特攻隊長みたいな曲。技巧ではなく声量の大きさで勝負する姿も、伝えたいことなんて他にないと言わんばかりの表情も、こんなヤツが一人くらいいてもいいよな、と思わせる補強材料になっている。クラスに一人はいたお調子者に近いだろうか。続く「ダイナマイトラブソング」のサビを、これ一回やってみたかった、という感じで男子と女子に分かれて唱和させ、女子だけのコーラスにニヤニヤしている姿には、明神竜太郎(Dr.)からもツッコミが入っていた。
陽キャ全開で突っ走る曲が多い中、中盤に披露された「デイレイ」は新境地のひとつになっていた。今回のツアー会場とオンライン限定で発売されているCD収録曲で、初めて作詞に明神が参加。ゆったりした一曲で、意外なほど甘く響く山口の歌声、浮遊感のあるフレーズを多用する桑原拓也(Gt.)や堀内一憲(Ba.)のプレイなど、それまで一丸となっていた4人のエネルギーが柔らかくほぐれていく。ただ元気なだけのバンドではないのだな、というのはワンマンだからわかること。そして、重要なのが後半の流れだった。
改めてバンドの歴史を振り返り、「終わりが来るまで、自分のためにも、あんたたちのためにも、ずっとやっていく」と宣言して始まるのが「13歳の夜」だ。決して湿っぽいバラードではないのだが、<突然すべてを失ったこと あなたはありますか><13歳の僕は受け入れるしかなかった>という歌い出しは、他のエールソングとはニュアンスが違っている。
それは山口自身の物語だった。金沢のバンドだけど自分の出身は岩手であること、13歳の時に被災したこと、避難所で支給されたラジオを聞いていたこと、ふと流れてきた名前も知らないバンドの音楽が優しかったこと、そんなロックバンドになりたいと思ったこと一一。そこまで言って、再び始まる「13歳の夜」。急に具体性を帯びてくる言葉たちに、わかるわかる、と言うのは無理だった。ただ、なぜ彼がここまで<生きていて>や<笑って>と繰り返すのか、そのことは全員が理解したのではないか。解像度が上がってみれば、プッシュプルポットの歌は他者への応援歌とは思えなくなる。あの震災で生き残った意味と、まだ生かされている自分の理由。すべては彼自身が切実に探してきた言葉なのだろう。
続く曲は「生きていけ」と「笑って」。ストレートすぎると笑う気は起こらない。豊かな喩えや響きの美しさを削ぎ落としていけば、きっと本当に必要なのはこんな言葉だ。このバンドはそれだけを歌っている、それだけがあればいいという観客に支えられている。怒涛のシンガロングが続き、本編ラストの「Unity」まで、21曲を一気呵成に駆け抜けた90分。山口は最後、爆発しそうな笑顔でこう叫んでいた。「死ぬまで俺はロックバンドやめねぇから!」。夢見心地ではない、それは確かな宣言だった。
Text by 石井恵梨子
Photo by 橋本塁
◎公演情報
【TOUR 2024-2025 "いつか、終わりが来るその前に"】
2025年2月7日(金)
東京・Zepp Shinjuku
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